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あなたの給料が上がらない本当の理由 日本資本主義の正体

2015.03.05 公開 ツイート

第3回 日本人は「景気教」「経済成長教」から抜け出せるか? 中野雅至

 

テレビや新聞で、「アベノミクスで景気が回復した」「株価があがった」と報じられても、物価は上がるし消費税も上がるし給料は上がらないしで、私たちの家計は苦しいまま。どこかおかしい。今の経済・社会システム全体が何か根本的に間違っているんじゃないか。……そんなふうに感じはじめる人は増えています。
が、それでも、日本人は現代資本主義の矛盾についてまだまだ鈍感だ、と神戸学院大学教授・中野雅至先生は、『日本資本主義の正体』で述べています。その背景には、日本人がどうしても経済成長や景気に過度に期待してしまう、それが一種の宗教のようになってしまっていることがあると、中野先生は指摘します。
景気教? 経済成長教? 「大阪都構想」もその典型? 一体どういうことなのでしょうか?

◇ ◇ ◇

日本の資本主義は行き詰まっています。そのため、もはやこれ以上成長しない=ゼロ成長を受け入れた上で、現状維持で何とかしようと主張する識者も増えています。
しかし、大半の日本人にはそういう意識がありません。私はこの数年、日本人の経済成長がほとんど宗教に近いことを実感してきました。日本人は、成長神話が根強い。 

景気対策を過度に求める「景気教」の側面もあります。私がそう実感するのは、経済学者のように経済の分析を通じてではありません。自分の身近な社会現象を通じてです。
関西在住の私にとって「大阪都構想」がその典型です。大阪都構想をごく簡単に説明すれば、大阪府と大阪市を一体化して東京と同じような仕組みにするということです。具体的に、大阪都といくつかの区に分けることになります。

大阪市と大阪府は歴史的に仲が悪くて、仕事の無駄や重複も多い。統合すれば無駄や重複が省けます。また、産業政策や投資戦略などの大きな話は大阪都が引き受けて、区は身近な住民サービスをする。これだけ聞くと、何となく大阪が良くなりそうです。
その意味では、大阪府と大阪市を統合することはメリットがあります。しかし、それはあくまで無駄の削減という観点からです。無駄の削減のみであれば、別々の組織でも十分成果を得ることはできます。逆に、二つを統合することでコンピューターの一元化などで余計な支出が増える可能性さえある。

さらに問題なのは、大阪都にして産業政策や投資戦略を一元化することで、大阪経済が活性化するかどうかです。その程度の改革で復活するでしょうか? 
しかし、テレビで堂々と「もはや成長しないのですから大阪都にしても効果はありません」と断言するコメンテーターなどいないでしょう。資本主義自体が行き詰まっているんだから、役所のガラガラポンごときで変わるわけがない……と感じている人はいますが、誰も口に出せません。現状維持でもそれほど変わらないのだから、リスクをとらずに徐々に改革すればどうでしょうか? とは言いにくい雰囲気が流れています。

なぜ、経済成長や景気に過度に期待するのか? 一種の宗教のようになってしまっているのか? 三つの理由を挙げてみましょう。

1.経済成長が日本のナショナリズムという概念
第二次世界大戦後、軍備を制限され政治大国になってはいけないと運命づけられた日本で、「日本は素晴らしい」「日本はすごいんだ」というナショナリズムを満たすものは経済成長でした。そのため、経済成長しないと自分達のアイデンティティが崩れていくと感じるわけです。

昨今、韓国や中国への反発から右傾化が指摘されますが、韓国や中国に対して腹立たしい思いをするどこかに、経済的に両国に追い上げられているという焦りがあります。

2.上昇志向
欲望に際限はありません。環境破壊してでも儲けたいというのは人間の性です。もっと給料が欲しいのであれば、何はさておき景気回復となります。

3.政府への過度な期待
明治時代以来、日本は官僚主導国家と言われてきました。その一方で、官僚の多くは東大卒のエリートで、戦後の奇跡的な高度経済成長を実現しました。そのため、官僚を中心とした政府に対する信頼感がどこかにあり、政府なら苦しい不況を何とか打開してくれるという思いがあります。

4.景気回復がすべての矛盾を解決すると妄信している
日本社会は平等性が高く、他の国に比べると安定していますが、それでも社会には様々な矛盾や問題があります。昨今では格差問題が最も大きな問題でしょう。

経済成長や景気回復は、これらの社会問題の特効薬であるだけでなく、余計な利害調整のいらない簡単な手段だと思われています。例えば、格差問題や高齢化問題を解決するためには、複雑な利害調整をしながら、受益と負担の関係にまで手を突っ込む必要があります。具体的に言うと、富裕層か中間層に増税を受け入れてもらわないといけません。

しかし、消費増税でもわかりますが、増税するためには多大なエネルギーと時間が必要です。そのため、社会はギクシャクします。そのゴタゴタで利害調整するよりは、景気回復すればすべてが解決するということを心のどこかで思ってしまう傾向にあるわけです。

◇ ◇ ◇

 全3回と駆け足でしたが、「死ぬほど働いてもあなたの給料が上がらない」現実を知り、その背後にある現代資本主義の矛盾について理解する糸口とはなったでしょうか?

中野先生による、より詳しい解説、さらには「現代資本主義の矛盾を解決する道はあるのか」、それ以前に「こんな時代にまずどうやって自分の身を守ればいいのか」――については、ぜひ本書『日本資本主義の正体』をお読みいただけると幸いです。
 

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中野雅至

1964年奈良県大和郡山市生まれ。同志社大学卒業後、90年旧労働省入省。厚生労働省大臣官房国際課課長補佐(ILO条約担当)等を経て、2004年から兵庫県立大学大学院・応用情報科学研究科准教授、10年から教授、14年から神戸学院大学現代社会学部教授。経済学博士。『雇用危機をどう乗り越えるか』(ソフトバンク新書)、『ニッポンの規制と雇用 働き方を選べない国』(光文社新書)など。

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