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2015.01.28

Vol.4

おふくろさんよ、テキーラ飲もう

鈴木 涼美

おふくろさんよ、テキーラ飲もう

 1月のそれはそれは寒い平日、それなりに仲の良いナナちゃんに、多分知り合ってから14回目くらいの「一生のお願い」と言われて(ちなみに13回目は「元カレに鍵を返すの着いてきて」だった。ちなみに12回目は「お母さんに車を買ったのバレたくないから涼美ちゃんから譲り受けたってことで口裏合わせて」だった)、歌舞伎町の最近わりと勢いのある某グループのホスクラに行ってきた。別にホスクラくらい、一生のお願いじゃなくても行く私であるが、その店に関して言うと私はすでに初回で入店できる制限回数(*1) を使いきっていたので、渋々適当なホストを指名して「私、付き合いですから!」という顔を崩さずに行かねばならなかった(シャンパンとか煽られたくないし、営業LINEが毎日来てもウザい)。

 ナナちゃんというのは背が低くて髪の毛が明るい31歳職業愛人(時々デリ嬢)で、別に彼女の人となりにそんなに誰も興味はないと思うのだけど、もうひとつ言うとそんな彼女の趣味は、売れてないホストの極太一本釣りエースになってそいつを幹部にのし上がらせる、ことである。ホストが客を高額を使う太客にすることを「育て」と言うが、彼女の場合は逆で、新人ホストを幹部に育てるのが何よりも好きらしい。

 彼女とは何度か一緒にホスクラの初回を荒らしたことはあるが、30歳前後の完成度の高いホスト以外には特に興味のない私と真逆に、幹部ホストには目もくれず、売れていない「原石」を見つけるのにせわしなかった。幹部のベテランなんて擦れてて嫌だ!と、なんか風俗嬢に処女性を求めるファンタジー・オヤジみたいなことを口走り、彼女の言葉を借りれば「汚れてない」ホストを物色するのである。で、当然のごとく現在も、新人時代からかれこれ1年近く投資を続けて、立派な人気幹部に育った担当ホストであるスバルくん(仮名)とよろしくやっている。

 で、そのナナちゃん、なんで私に一生のお願い(しかも14回目)まで使って彼女の通うホスクラに来てほしがったのか。その日はスバルくんが「幹部補佐」から「主任」(*2) に昇格することを祝う、彼にとっては2度目の昇格イベント(*3) であった。彼のイベントと言えば、これまでは必ずナナちゃんの出番、メーンのタワー(*4) を勤めていた。しかし、昨年末には誕生日イベントや店の周年イベントで散財したナナちゃんに、今回もタワーを引き受ける余力はなく、対してスバルくんは、肩書も手伝って、最近はナナちゃん以外にもそれなりにオカネを使ってくれるお客さんができた様子。そこで、今回のイベントでは初めて、ナナちゃんではない女性客がメーンのタワーを担当、ナナちゃんは普通にシャンパンを空ける程度にしたのだという。

「初めて私以外の人がメーンなんだよ?! やだやだ泣いちゃう、見たくないマイク聞きたくないその場にいたくないー!」とナナちゃんは言った。じゃあ行かなきゃいいんだけど、そこはホス狂いの面倒くさいとことで、なんか知らないけど行かないわけにはいかないらしい。結局、彼女はウェイウェイ飲み友達の私を連れてイベントに行き、テキーラでもしばきながら気を紛らわし、ストレスの高い時間(すなわちタワーのマイクが始まる時間)などはタワー客の悪口を思う存分言うという作戦に出た。そんな時のための歌舞伎町仲間である。私は面白半分、半分はやさしさのバファリン的な気持ちで、2万円くらいを握りしめて彼女の行きつけの店へ行き、若干エグい悪口を肴にテキーラをしばく役目をこなしたのである。

 

*1 ホストクラブというのは、「一見さん大歓迎!」というシステムで、初めて店を訪れる客には500円〜5000円程度の低額飲み放題のコースが設定されている。初回っていうくらいだから、普通はその料金で飲めるのは1回なんだけど、最近の店はなんとか常連客をつかもうと、指名したいホストが決まらない場合、3回までは初回料金でフリーで来店できる、みたいな謎なシステムを設定しているところも多い。

*2 ホストクラブのキャストは、売り上げの成績によって、幹部の役職を与えられる。「リーダー」「ホスト長」のようなしょぼめの称号から、「幹部補佐」「主任」「代表」などの役職に昇格していくことが、一応彼らの出世街道である。しかし「取締役」とか「部長」とか「支配人」とか、あとはよくベテランに付いている「アドバイザー」といった役職とか、どれが偉いのかパッと見よくわからない。

*3 ホストクラブでは、何かにかこつけて頻繁にイベントを開催し、お祝いのシャンパンで売り上げを伸ばす風習がある。誕生日、昇格など個人の祝い事のイベントのほかにも、お店の◯周年、七夕イベント、コスプレイベント、社員旅行のおみやげもらえるイベントなど、月に数回は煽られる日が設定されている店がほとんどで、オリジナルのVTRを流したり、店内を装飾したりする。イベント好きな客もいるが、基本的には会計が高額になるため、恐れて行かない客も多い。

*4 ホストの個人イベントでは、大抵エースと呼ばれる、彼の客の中で最もオカネを使う客がシャンパンタワーをするのが慣習である。タワーの段数とシャンパンの種類で値段が決まるが、歌舞伎町のタワーは安くて100万円、高いと500万円以上のものもある。

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