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2015.01.06

伝えられないということ
(『最貧困女子』鈴木大介)

羽田 圭介

伝えられないということ<br />(『最貧困女子』鈴木大介)

『最貧困女子』鈴木大介
幻冬舎新書/780円(税別)

 

 働く世代の単身女性の三人に一人が年収一一四万円未満であり、特に一〇~二〇代女性に貧困が集中している。NHKでそう特集されて以後、続々と各メディアで特集対象となり、「貧困女子」の認知度もかなり高まった。

「貧困」とはなにかについて、著者は「家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁」からなる「三つの無縁」として考察している。「家族の無縁」とは、困ったときに支援してくれる家族・親族がおらず、親も貧困であれば頼る術はそもそもない。その後の所得につながる満足な教育も受けていない場合が多い。「地域の無縁」とは苦しいときに助力を求められる友人がいないこと。そして「制度の無縁」とは、捕捉率の低い生活保護に代表されるように、社会保障制度の不整備・認知度や実用性の低さのこと。

 最初に紹介される二三歳の女性からして、見事にそれらにあてはまる。運送会社の社長の娘として可愛がられ育ったものの父が急逝してからすべてが崩壊。父親の借金を回収すべく家財もすべて親戚に持って行かれ、「あんたを産んで人生損した」と口にする実の母親は愛犬を連れ家を出てしまう。「わたしは犬以下か」と思った女性は住処や職を転々とするが、闇金に手をだしたり家賃を滞納したりと悪いほうに転がる。

 と、ここまでなら、憐れむべき人々のサンプル提示として珍しくない。本書の特徴的なところは、困り切っている彼女たちの境遇に、著者自身がいちいち助言という介入をしかけ、それらをことごとく退けられる部分にある。

 先述の女性は、家賃督促の内容証明郵便について「これが来たってことは、裁判にかけられるんですよね」「指名手配なんですか?」とマイナスの妄想を勝手に信じこむ。〈就職にも有利〉と思い、道ばたで誘われたパソコンスクールにローンを組んで入学してしまう。潰れた会社の弁護士に連絡をしようにも連絡先すら交換しておらず〈名刺は引っ越しのゴタゴタで失くして〉しまう。読んでいて、無知でトロい奴は放っておけっ、と僕まで思ってしまった。

 著者鈴木氏は、生活保護費を受給し生活を立て直すためのアドバイスを、わかりやすく図に書いて説明する。しかし女性の脳には染み込んでいかないようで、誰々の世話にはなりたくない等々口にした末、「頑張れるから、わたしは大丈夫です」。そして取材日から三週間後、女性は闇金の借金も踏み倒したまま、行方をくらます。

 他にも、〈小柄な体躯は丸々と太り~厚塗りのファンデーションに濃すぎるチーク〉という二人の子持ちの売春女性が登場する。子供の見ている前で何度も自殺未遂を図る彼女もまた「三つの無縁」でなにも持たざる者で、風俗の面接を受けても「整形とダイエットしてから出直せ」と怒鳴られ、帰りにトイレで手首を切る始末。ここでもまた、著者は窮状を救えないかと四苦八苦するが、〈前向きなアドバイスをしようとすれば拒絶〉される。

 その人のことを思うがための、親切心からなる言葉が、全然伝わらない。人が、人に関与できないというストレス。

 その後、年収一五〇万程度の低収入でありながら、仲間達とつるみ充実した日々を送る、いわゆる「マイルドヤンキー」や「プア充女子」とされる女性の楽しそうな日常が紹介される。後半は、様々に階層分けされた性風俗産業の実態が執拗に書かれる。中三の女子生徒が初潮前の中一女子に客を押し付ける「売春中学校」の背景に、団地単位の壮絶な貧困があること。また、その世界の上層階には、昼には一般職として働き、夜は週に数回だけ性風俗業でバイトをする女性がいて、彼女には「やむを得ず風俗」という悲壮感は一切ない。むしろ、優れた容姿で女として選抜されたという特権意識をもち、〈充実した二〇代を謳歌している風にすら〉見えるのだ。

 低所得ながらも精神的にも自立し充実した日々を送る右記の彼女らに、先述の貧困女性達のことを著者が話しても、「甘えている」「努力が足りない」「意味わかんねー」「ひっぱたいて根性入れなおしてやりますよ」「やっぱそいつどっか変」。

〈同じ所得層にある彼女らの言葉には正論が含まれ容赦なく、そして決して軽くはない。〉

 いつだって、攻撃する側の論は強く、正当性を有している場合が多い。

 ただ、もし自分が親に愛されておらず、友達もおらず、教育を受けていない無知が故に、行政に頼るという思考も持ち得ない人間だったら……。

 正当性を振りかざし誰かを攻撃する前に、いったん立ち止まって考えようと思わせる、良書だ。

 

『ポンツーン』2015年1月号より

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