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2014.12.28

息もつかせぬ戦闘シーンにリアルを感じて!

佐々木 克雄

息もつかせぬ戦闘シーンにリアルを感じて!

『土漠の花』
月村了衛
幻冬舎刊 \1,728

ソマリアの国境付近で、墜落ヘリの捜索救助にあたっていた陸上自衛隊第一空挺団の精鋭たち。その野営地に、氏族間抗争で命を狙われている女性が駆け込んだとき、壮絶な撤退戦の幕があがった。圧倒的な数的不利。武器も、土地鑑もない。通信手段も皆無。自然の猛威も牙を剝く。最悪の状況のなか、ついには仲間内での疑心暗鬼まで湧き起こる。
 

リアルって何ですか?
小説のリアルって……

 仕事がら一日に約一冊ペースで本を読むのですが、ふと思うことがあります。「小説のリアルって、何だろう?」ということです。
 名探偵が殺人事件を次々と解決する話はリアルでないかも知れませんが、史実に基づいた歴史もの、自分と年齢が近い倍返しサラリーマンの奮闘記にはリアルを感じてしまいます。
 一方で、こんなことがありました。
 イスラム国がUPした動画、オレンジ色の服を着て処刑される欧米人の姿は世界中に衝撃を与えましたね。あの動画、自分は映画の中のワンシーンではないかと思ってしまったのです。リアルであることは承知です。けれど日本から遠く離れた中東の地で原色の服、処刑という場面が現れたとき(これは本当に現実の世界で起こっているの? 嘘じゃないの?)と一瞬わからなくなったのです。
 リアルって何だろう──考えていたとき、ある本を思い出しました。本好き女子のみなさんなら、南木佳士著『阿弥陀堂だより』という作品をご存じかと思います。作中、老婆が「小説は嘘か本当か」と小説家に尋ねるシーンがあり、彼は「本当のことを伝える嘘の話って言ったらいいかな」と答えていました。小説のあり方を表現した奥深い話と思うのですが、いかがでしょう──そんなことを考えながら、今回ご紹介する一冊は、戦場の本当を伝えてくれる骨太な小説です。
 

海賊対策で派遣された
自衛隊員たちの運命は

 月村了衛著『土漠の花』はアフリカ大陸の東部、ソマリア・ジブチ・エチオピア国境付近を舞台にした話です。場所がピンとこない方はお手元のスマホでソマリアを検索してみてください。海を隔ててアラビア半島、上部にはイラン、イラク、シリアも確認できると思います。リアルに戦いが繰り広げられている地域なのです。そして登場人物はソマリアの海賊対処行動に従事すべく派遣された自衛隊の隊員──これもまた現実に派遣されています。
 物語は、墜落したヘリの捜索救助に向かった陸上自衛隊第一空挺団の様子から始まります。緑のない土漠を進んだ一行は、ヘリを発見した場所で助けを求めてきた女性を保護……これが彼らの運命を変えることになりました。アスキラと名乗る女性は氏族長の娘で、敵対する氏族に命を狙われていたのです。いきなり冒頭から銃弾の雨が降り、隊員二名が命を落とすことに。そして、取り囲まれた彼らが見たものは……本文より抜粋します。

 指揮官は背後に向かって顎(あご)をしゃくった。西瓜(すい か)のような丸い物をぶら下げた兵士が前に進み出て、それを吉松の足許(あし もと)に投げ出した。
「あっ」
 鈍い音とともに土の上に転がった物。動哨に出ていた原田1士の首であった。

 言うまでもなく、これは小説の一場面です。けれど前のページで触れたイスラム国の動画のこともあり、物語の冒頭に現れたこの場面は、これから繰り広げられる戦いの過酷さ、そして戦場のリアルを十分に表現しています。
決死の撤退劇に
思わず引き込まれる
『土漠の花』の大筋は、いたってシンプルです。保護したアスキラと共に、残された七人の隊員たちが自分たちを狙う氏族から必死に逃れ、戦う様子が描かれていきます。最初の戦闘で指揮官を失い、急襲であったために武器もほとんどありません。そんな状況のなかで指揮を執ることになった友永芳彦曹長は、同じ曹長である新開讓曹長らと力を合わせ……と言いたいところですが、同い年である二人は互いを快く思ってはおらず、非常時にあっても意見がぶつかってしまうのです。
 他の隊員たちも、一癖も二癖もありそうなキャラが揃っています。ヤンキーあがりの由利1曹、機械使いの梶谷士長。最年長の朝比奈1曹は合気道を嗜む豪傑で、津久田2曹は射撃の名手。若い市ノ瀬1士は敵を銃殺したことで動揺を隠せずにいる。この七人がアスキラと共に逃げる、逃げる、とにかく逃げまくるのです。
 敵はあらゆる手段で襲いかかります。友永たちが洞窟のような遺跡に隠れれば、入口からガソリンを注いで火を放ちます。奪ったトラックで逃げ、激流で阻まれた川をなんとか渡ろうとすると、それを狙って撃ってきます。次から次へと、これでもかと襲ってくる様はハリウッド映画を3Dシアターで見ているような臨場感です。こうなるともう、ページをめくる手が止まらなくなるでしょう。
 どうしてここまでドキドキハラハラが連続したシーンが描けるのだろう。作者が気になりますよね。月村了衛さんは二〇一〇年に『機龍警察』で小説家デビューされた方です。最近登場された方かと思いきや、実はそれ以前に脚本家として活躍を続けてこられたのです。ちなみに『機龍警察』はシリーズ化されており、第33回日本SF大賞、第34回吉川英治文学新人賞を受賞。注目の書き手なのです。

戦場アクションだけでなく
濃い人間ドラマも満載

 と、ここまで紹介してきて、スピード感溢れるアクションシーンの数々に女子のみなさんの腰が引けているかも知れませんが──違うんです。この小説の魅力は確かにノンストップの展開ではありますが、深いところに読み込むべき要素がちりばめられているのです。
 反目する友永曹長と新開曹長。特に友永が思う新開の姿には彼の生い立ちが深く根付いていることが中盤でわかってきます。生死の狭間(はざ ま)で共に戦ってきた彼らが、互いを理解したときの人間臭いやりとり──これにはグッときてしまうでしょう。
 また、ヤンキーあがりの由利1曹を、とある理由で恨んでいた梶谷士長のバックボーンには集団組織の病巣とも言える問題が深く横たわっており、それがわかってくる物語終盤の彼らの行動が意外でもあり、お互いを思う男同士のニヒリズムにシビれてしまうのです。
 そして、彼らの命運を左右するアスキラの存在です。なぜ彼女は対抗する氏族に命を狙われるのか。なぜ敵は執拗なまでに彼女を狙い続けるのか。ここにはソマリアという紛争地帯が抱える国際問題が根底にあるのですが、ミステリ要素を孕(はら)んだ物語でもありますので、謎解きは読んでからのお楽しみとさせてください。

 冒頭の話に戻ります。
 小説は虚構の世界ですが、私たちが生きている現実世界に基づいて作られています。現に自衛隊は海外に派遣されており、そこで本作のような戦闘行為が発生することもあり得るでしょう。
 敵を容赦なく倒していく描写に、目を瞑(つぶ)りたくなるかも知れません。でも、これは日本から遠く離れた場所での「戦いのリアル」を表現した作品です。食わず嫌いで終わることなく、一度は向き合っていただきたいと思うのです。

 

 

『GINGER L.』 2014 SUMMER 15号より

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