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2014.12.09

第一回

はじめまして

小嶋 陽太郎

はじめまして

三浦しをんさん、万城目学さんら数多くのスターを輩出する作家エージェント「ボイルドエッグズ」の第16回新人賞を最年少で受賞した小嶋陽太郎さん。現役大学生でありながら小説家として歩み始めた彼の毎日とは?

「大学に行かない大学生の僕が、真に大学生的な視点を手に入れるのはいつになることやら……今日も大学には行きませんでした」

すごーくぼやぼやしているのに、なぜかしらキュートな、極上のモラトリアムエッセイ。連載スタートです!

 

 僕は長野県の信州大学という大学に通っている。通っているというか通っていたというか、まあとりあえず在籍はしている。五年くらい。
 先日、大学の学務係からメールがあった。
「小嶋さんの母校の高校から、小嶋さんが本を出されたとのことで、ちょっとした講演をしてもらえないかという話が来たのですが、一度高校と連絡を取ってもらえますか。以下が教頭さんの電話番号です」
 ま、まじかよ……。
 まず思ったのはそれだ。わざわざ母校から声をかけてもらえるなんて非常に光栄だし、かつ嬉しい。しかし……だ。講演なんてそんなだいそれたこと、僕にできるのか。あまりにも恐れ多い。キラキラした高校生たちに向かって、大学に五年間も淀みのように浮かんでは沈み日々ぼんやりしているだけの僕が伝えられることなど……。
 だけどもメールには教頭先生の電話番号が添付されている。恐れ多いとか言ってふるえていてもしかたがないので、とりあえず電話をしようじゃないですか。
 そういうわけで、電話をした。
 トゥルルルルル。
 何コールかして、男の人の声がした。
「はい、もしもしーーーッ!」
 なんか、めちゃくちゃ声がでかい。
「あ、こんにちは。あのう、信州大学の学務係からお話を聞いて連絡さていただいたのですが、小嶋と申します。○○高校の教頭先生さんでいらっしゃいますでしょうか」
 的なことを僕は言った。
「あーーッ? なーーーにぃいいッ?」
 という返事が返ってきた。教頭先生、なんかわからんけど怒ってね……。と思いながら僕は会話を続けた。以下、僕と教頭先生との会話である。
「あのう、信州大学の……」
「なーーーんだってぇ?」
「あ、えーと、信州……」
「なんじゃあんた、どこの誰かーーーッ!」
「いや、すみません、あの、信……」
「だーかーらッ、あんたは何者かーーーッ! どこの誰じゃーーーッ!」
「あの、ですから、し……」
「なんじゃーーーッ! しっかりしゃべらんかーーーッ!」
「…………あの……すみません」
 気づけば僕は、携帯に向かって頭を下げていた(つーか下げさせられた)。教頭先生、こええ……。
 なす術もなく萎れていると、今度は、
「ばあさんッ! なんかッ、信州からッ、電話ッ来たッぞーーーッ!」
 という声が携帯から聞こえてきた。別の部屋にいるおばあさんを呼んでいるらしい。電話越しだからわからないけど、たぶんものすごい唾が飛んでいる。僕に対するのと同じ調子で、超叫んでいる。「ばあッさーんッ! 信州からッ電話ッじゃーーーッ!」
 まあ、このへんから僕が間違い電話をしてしまったのだということには気がついていた。しばらくして、おばあさんが出た。
「はい、もしもし?」
 よかった。ふつうの人だ。おばあさんにまで「あんたは誰かーーーッ!」とやられたらもうムリだ(心臓が)、と思っていたので、僕は少し安心した。
「あの、すみません、えーと、○○高校にご関係のある方はそちらのお宅には……いらっしゃいませんよね?」
「ええ、そんな高校、知らないですけど」
「……ですよね。すみません、間違えました。ごめんなさい」
「はあ」
 ご迷惑をおかけしましたと言い、僕は電話を切った。ツーツーと音がして、一分ほど沈黙。時刻は五時を過ぎていた。日が落ちて暗くなった部屋で、受話器に目を落としつつ考えてみる。
 僕は大学の学務係から母校の教頭先生の電話番号だからかけてくれというメールをもらった。そのメールには十桁の数字が添付されていた。そこに電話をかけた。じいさんが出た。「あんた、何者かーーーッ!」なんか知らんが、めちゃくちゃ怒られた。うーん。
「……あの、さきほど添付してただいた番号にかけましたところ、おじいさんにめちゃくちゃ怒られたんですが、あの番号、合っていますか?」
 僕は学務係に対してそのようなメールを送りたかったが、それはしなかった。
「高校とは関係のない、個人の方につながってしまったのですが、さきほどいただいた番号、合っていますでしょうか?」
 具体的なところは省いて、そのようにメールをした。丁寧な返事が返ってきた。
「大変申し訳ありません。電話番号を間違えてお伝えしたようです。正しくは○○○○―△△―××××です。お詫びして訂正します」
 ですよッねーーーーーッ!
 じいさんと同じくらいの声量で僕は叫びましたよ。
 しかし誰も悪くないのはわかっている(強いていえばじいさん。こわすぎ)。間違えることってよくあるし。でも、世の中って、時として不条理だ。
 後ほど教頭先生(本物)と無事電話がつながった。母校の講演は講演というほどおおげさなものではないということがわかり、なんとかなりそうなので、やらせてもらうことになりました。
 

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