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片岡剛士『日本経済はなぜ浮上しないのか』刊行記念インタビュー

2014.12.07 公開 ツイート

「どこに投票したらいいか分からない」経済オンチのあなたへ 2/3

リベラルで経済も重視したい有権者は一体どうしたらいい? 片岡剛士

■大企業トップの年金が消費税で賄われる理不尽

――所得税などの直接税の比率を下げ、消費税のような間接税の比率を上げる、いわゆる「直間比率」の是正は日本経済の宿願のように言われてきました。それがいまだに宿願でありつづけているのは、どのような理由によるのでしょうか?

片岡 富裕層であれ低所得者であれ、高齢者であれ、みんなが等しく負担することが公平なんだという発想が根強い気がします。

 また、高齢化が進むということは現役世代が減るということなので、勤労者が減ってしまいます。そうなると、働いていない人からも安定して徴税したい。ならば消費から取るのがわかりやすいだろう、そういう要請があったのだろうと思います。でもこれは、大きな間違いの元だと私は思います。さらにそれを社会保障の財源にすることは、もっと大きな間違いでしょう。

 直間比率の是正がリンクされるようになったのは、細川政権での福祉目的税構想がまず挙げられます。そのときも目的税構想ではありましたが、頓挫したわけですよね。

 その後、少子高齢化が現実化していくなかで、民主党政権下で社会保障と税の一体改革が始まり、巧妙に目的税というアリバイが潜り込まされた印象です。

 しかし、そもそも社会保障の基幹財源に消費税をあてている国など、日本以外にありません。もともとそんな国はないんです。

 いわゆる社会保障四経費と呼ばれている年金、医療、介護、少子化対策などの給付の半分が、日本では税で賄われています。これは世界に類のない特殊事態です。日本の社会保障はいわゆる社会保険方式なので、保険料を払わなければ給付を受けられない。そのバランスが崩れていることを政府は長らく放置してきて、それを税金で手当てしていくと言っているわけですよね。

 税金でやるということは、たとえばそれによって財政赤字が膨らめば、将来の方の負担につながるわけです。現行の年金は、大企業のトップに対しても等しく給付されていて、その財源はみんなの消費への課税で賄われている。これは理不尽です。

 むしろたくさん所得のある方は、もらった年金を戻すような仕組みもあって然るべきです。なおかつ相続税や資産課税をより強化していくことも必要です。資産の把握は現状のシステムでは難しいのですが、そこにかけるコストは十分に元が取れるのではないでしょうか。

 所得税についても、経済停滞が長く続くなかで、「所得の高い人から多く取る」という累進性が弱くなってしまっています。こういったところを是正する改革を行えば、まさに豊かな人から貧しい方へ、困っている方への再分配ができるんですね。

 再分配のための基幹財源を消費税で確保するのはおかしい。この点は具体的に野党のほうから追及されて然るべきだと、私は思いますね。実行可能な形での改革案も作れるはずです。

 税金は消費税だけではありません。どの税制を使ってどこに再分配すればもっとも効率的なのか、まずそこから考えてみるべきです。仮に資産課税をあてることになって、官僚が「資産の捕捉は困難だ」というのであれば、何が困難なのかを示させた上で、どういう調査を行えば可能なのか、あるいはどのような機関を設ければ可能になるのかを議論すべきです。金融資産への課税もひとつのアイデアだと思います。

 こういった可能性は八田達夫先生や岩田規久男先生といった、政府に対して遠慮なく主張をされてこられた専門家がずっと訴えてきたことです。けれども、なぜか資産課税による財政健全化という方向性はほとんど忘れ去られてしまっています。消費税を上げないと社会保障が維持できないという思考が、受けとめるべき良識として広まっていることに違和感がありますね。

(第3回に続く)
 

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片岡剛士『日本経済はなぜ浮上しないのか』刊行記念インタビュー

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片岡剛士

1972年愛知県生まれ。慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程(計量経済学専攻)修了。三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済・社会政策部主任研究員。専門は応用計量経済学、マクロ経済学。著書に『日本の「失われた20年」――デフレを超える経済政策に向けて』(藤原書店、第4回河上肇賞本賞受賞、第2回政策分析ネットワークシンクタンク賞受賞)、『円のゆくえを問いなおす――実証的・歴史的にみた日本経済』(ちくま新書)、『アベノミクスのゆくえ―― 現在・過去・未来の視点から考える』(光文社新書)、『徹底分析アベノミクス――成果と課題』(共著、中央経済社)等がある。

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