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2014.11.22

第24回

まだ大会は続く

岡田 仁志

まだ大会は続く

 世界選手権のノックアウトステージ。2002年に誕生したブラインドサッカー日本代表チームが、初めて経験する舞台だ。しかし準々決勝の相手は、2007年以降、何度も対戦してきたアジアのライバルだった。8度の対戦で、日本の6分け2敗。中国は、これまで日本に勝利どころかゴールさえひとつも与えたことがない。リオデジャネイロパラリンピック予選を兼ねることになる来年のアジア選手権でも、もっとも高い壁となるだろう。今大会の目標は「ベスト4進出」だが、今の日本チームにとって最大のミッションは「パラリンピック初出場」だ。二重の意味で、どうしても勝っておきたい試合だった。

 中国にとっても、日本は難しい相手だったのだろう。パラグアイやフランスを苦しめた日本の「ダイヤモンド」を崩せないとわかると、試合の途中から、戦い方のギアを一段階上げてきた。6番のリン・ドンドンと7番のユー・ユータン。前日までのグループリーグでは常にどちらか1人しかピッチに立たせなかった攻撃の2枚看板を、同時起用。それまではひたすらドリブルで単独突破を試みていたが、これ以降は、2人のアタッカーが盛んにサイドチェンジを行って日本守備陣を揺さぶった。

中国7番ユー・ユータンと日本の守備(左から、川村、加藤、ロベルト、田中)。(写真:吉村もと)

 大会開幕前日の公式練習で、中国はこの戦術を入念にチェックしていた。逆サイドからのパスをフェンスに当て、はね返ってきたボールを追いかけるようにドリブルを始める。いったん足元に収めると敵DFに時間的余裕を与えてしまうが、このやり方ならフリーに近い状態でシュートまで持ち込めると考えたのだろう。

 だが、大会前(9日)に仙台で行われたブラジルと親善試合で、もっとレベルの高いサイドチェンジを体感した日本のディフェンスにとって、これはさほど難しいものではなかった。ブラジルはサイドチェンジのパスをフェンスにさえ当てず、味方の足元にピタリと通す。それに比べれば、対処は楽だっただろう。自陣に釘付けにされる時間は長かったが、決定的なシュートは撃たせなかった。

カウンター攻撃から放った黒田のシュート。(写真:吉村もと)

 むしろ、中国の「2枚攻撃」は、日本のチャンスを増やした。攻撃を厚くすれば、守備が薄まる。多くのスペースができた中国陣内に、黒田、川村、落合らが何度もカウンターで襲いかかった。過去の中国戦では、ほとんど見られなかった光景だ。仕上げのシュートさえしっかりヒットすれば、中国からの初ゴール、初勝利、そして初のベスト4進出が一度に達成できただろう。そのカウンターをゴール裏から呼び込んだガイドの藤井が言う。

「日本の守備は絶対にやられない自信がありましたし、中国が2枚で攻めて来るのは試合前から想定していたので、必ずカウンターでチャンスを作れると思っていました。実際、いままでの中国戦よりも決定的なチャンスをたくさん作れましたよね。でも残念ながら、決めることはできませんでした。相手の最終ライン2枚をどう剥がすか、もっと工夫しなければいけません。来年のパラリンピック予選までにカウンターに磨きをかけて、しっかりゴールを奪えるようにしたいです」

 前後半を終えて、対中国戦では7度目となるスコアレスドロー。PK戦突入を見越して、日本ベンチは後半終了3分前に、GKを佐藤から安部に交代した。反射神経にすぐれ、PKへの反応には定評のあるGKだ。だが、このような起用法は過去に見たことがない。指導陣がこの使い方を決めたのは、試合前日のことだった。日本の準備は万全だった。

 ベンチの期待に応えて、安部は2本のキックを鋭い動きで食い止めた。とくに中国の3人目が蹴ったボールを左手1本で弾き出したスーパーセーブは、高田GKコーチの厳しい指導の下でGK陣が取り組んできた練習の成果が存分にあらわれたものだった。 「決められたら負け」のキックを安部が止めた後、「外せば終わり」のキックを川村が豪快にゴールへ叩き込んだ。3人ずつ蹴った時点で、1-1。ブラインドサッカーでは、4人目からサドンデスになる。  中国4人目のキックは、どんなGKでも止められなかっただろう。厳しいコースに、凄まじいスピードで突き刺さった。日本の4人目は、今大会あまり出番のない佐々木康裕。蹴り足を後ろに高く上げ、助走なしで蹴る独特のフォームから放たれたボールは、中国GKの正面に飛んだ。目標のベスト4が、あと少し、ほんの少しのところで、指先からこぼれ落ちた。

PK戦を終えた日本チーム。12番はGK安部、背中はGK佐藤。(写真:吉村もと)

 でも、下を向くことはない。この大会、日本チームは、すでに胸を張れる成果を上げた。パラグアイから奪った、世界選手権初の勝ち点3。初めてのグループリーグ突破。しかもこの4試合、流れの中では失点していない。私はこの連載で、日本のベスト4進出を「ベラボーな目標」と書いたが、いまやそれは身の丈にあった「フツーの目標」だ。  とはいえ、世界におけるその位置を確固たるものにするには、残る順位決定戦でも結果を出す必要があるだろう。私は、8年前のアルゼンチン大会で8ヵ国中の7位に終わったときから、日本がまずは「世界の上半分」に入ることを願っていた。今大会の出場国は12。22日のドイツ戦に勝って5-6位決定戦に進めば、それが叶う。試合後のインタビューでも、キャプテンの落合は「まだ大会は終わっていない」と翌日への決意を新たにしていた。安部と交代するまで、大きな声で守備陣に指示を出し続けたGK佐藤も、かすれた声でこう語った。 「今日のディフェンスは、ほぼ完璧でした。少し崩されそうになったこともありましたが、そこはあらためて修正して、明日の試合に臨みたい。点を取られることはないと思うので、1点入れて、しっかり勝ちたいと思います」

 気持ちの切り替えが早く、常に前向きなのが、このチームのいいところだ。私はいつも、そんな彼らから、逆に勇気づけられている。

(取材協力:瀬長あすか)

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