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2014.11.17

第19回

夢のような開幕

岡田 仁志

夢のような開幕

「疲れて足が止まりそうなときも、スタンドの声援が力になり、僕たちの背中を押してくれました」――日本のエース・黒田智成の試合後の談話だ。この言葉が聞きたくて、私はこの連載を書いてきたようなものである。

 11月16日に行われたブラインドサッカー世界選手権2014の開幕戦。日本対パラグアイのチケットは、その2日前に完売していた。サイドフェンス脇のプレスエリアからスタンドを見上げた私は、夢を見ているような気分だった。最低限の目標が達成されたのに、喜びや達成感に浸るのではなく、何というか、ただ茫然としていた。

まずは開幕戦で満員化成功!(写真:増田茂樹)

 ピッチ上でも、夢のような試合がくり広げられた。パラグアイが一方的に攻め、日本が守りに守って堪え忍ぶ展開を想像していたが、そうではなかった。10番のリカルド・ビジャマジョルを中心とするパラグアイの攻撃はたしかに激しかったが、前半は日本もカウンターで多くのチャンスを作り、敵の守備陣を脅かした。前半15分には、ゴール右下の隅を狙い澄ました川村怜のシュートが、パラグアイGKの指先をかすめてゴールポストを叩く。そのときから、背後の観客席に「これは勝つチャンスがある」という自信が広がっていくのが感じられた。観客が選手を励まし、その選手がプレーで観客を勇気づけ、さらにスタンドの熱気が高まる――そんな好循環が、スタジアム全体に生まれた。

 そして前半20分。キャプテンの落合啓士との連携で敵からボールを奪った黒田が、猛然とドリブルを始める。自陣から、30メートルの独走。パラグアイがどのように守っていたのか、正直、記憶がない。私には、疾走する黒田とボールとゴールしか見えていなかった。左足のシュート。GKの逆をついたボールは、ゴール右に吸い込まれた。

 この連載では、第13回「エースの覚悟」で黒田のインタビューを行った。「僕はアジアの大会でしか得点したことがないので、今回はぜひ欧州や南米の代表チームからゴールを奪いたい」。黒田はそう語った。「今回は(南米や欧州のスターだけでなく)黒田自身も観客に強い衝撃を与える番だ」。私はそう書いた。

 それが、開幕戦で早くも実現した。日本1-0パラグアイで前半終了。「世界選手権初勝利」も、あと25分間守りきれば実現する。

 だが、後半の日本はその守備が破綻しかかった。魚住稿監督は、さらに守りを固めるために、ブラジルから帰化した佐々木ロベルトを投入したものの、パラグアイが日本ゴールに肉迫する回数は前半よりも増えた。中盤の守備で鍵を握る加藤健人が膝から出血していったんベンチに下がり、応急手当をしてすぐに戻るというアクシデントもあり、連携が混乱した。それを崩壊寸前で食い止めたのは、選手同士のコミュニケーションだ。いつも最後方から声で味方を動かしているDFの田中章仁が言う。

「あの時間帯は、何度もメンバー交代があって、お互いのポジションをしっかり確認する必要があったので、喋る量が増えましたね。でも、みんな落ち着いて言葉をかけ合うことができたので、ギリギリのところで踏ん張れました。あそこで黙ってしまったら、連携が崩れて相手にやられていたと思います」

 この試合では、スタンドのサポーターとピッチの選手とのコミュニケーションもすばらしかった。リーダーが「ここぞ」というタイミングで選手を鼓舞し、落合が「もっと盛り上げてくれ」と言うように大きく両手を振る。それがなければ、疲れの出る終盤に、ゴール前で大柄なパラグアイのアタッカーに体を寄せ、わずかにシュートの精度を狂わせることもできなかったかもしれない。

決勝点となったゴールを決めた黒田のシュート。(写真:増田茂樹)

 最初から最後までスリリングな一戦は、1-0のままタイムアップ。監督に就任した2年前から魚住が掲げていた「総力戦」というキャッチフレーズを地で行くゲームだった。満員のスタンドも含めた総力を結集することで、日本は世界選手権初勝利をもぎ取った。


試合後にサポーターから渡されたメガホンで挨拶する主将・落合。(写真:増田茂樹)

 私は以前この連載で、ベスト4進出は日本にとって「ベラボーな目標」だと書いた。もちろん、それは開幕戦で勝ち点3を手にした今でも変わらない。だがこの勝利で、日本はその高い目標に向かって大きな一歩を踏み出した。このチームには今、その歩幅を一気に大きくできるだけのポテンシャルがある。それを引き出すのは、やはりスタンドの熱だ。開幕戦の満員化成功でホッとすることなく、続くモロッコ戦(18日19時30分)とフランス戦(19日19時30分)でも、ピッチとスタンドのコミュニケーションとコンビネーションによる好循環を生まなければならない。これを読んでいるあなたが、選手たちの背中を押すのである。

 

※ チケットの購入については、主催者の公式サイト(http://www.b-soccer.jp/7432/news/ticket.html)でご確認を。

 

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