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2014.11.20

最終回 食を通じて己の欲望に気づく

食事にこそ「執着」「怒り」「無知」があらわれやすい

吉村 昇洋

食事にこそ「執着」「怒り」「無知」があらわれやすい

永平寺で修行をつんだあと、現在、広島の禅寺で副住職を務め、精進料理のブログ「禅僧の台所」も人気の吉村昇洋さんが、書籍『心が疲れたらお粥を食べなさい』を刊行いたしました。禅的食生活の心得を説く本書から一部を抜粋してお届けします。(写真:中尾俊之)

食事の場こそ修行にもっとも適している

 人間には、三大欲求があると言われています。心理学的に言えば3つどころの話ではなくて、もっと細々と分類されますが、一般的には食欲・性欲・睡眠欲の3つを指します。私も永平寺での生活の中で、この三大欲求を強く意識しました。

 ここで少し想像をしていただきたいのですが、永平寺で生活をしている中でこれら三大欲求のうち、修行僧がどれを一番渇望するかお分かりになるでしょうか?

 何を隠そう、その答えは「睡眠欲」なのです。

 修行に入りたての頃は、慣れない環境の中、覚えることもたくさんあって、寝る時間を削るしかなく、起床時間自体が深夜の3時半、場合によってはそれより2時間早い1時半になることもあるので、慢性的な寝不足に悩まされます。しかも、一旦起きると、21時以降の就寝が許される時間まではほぼ休憩がなく、ノンストップで何かしら動き続けることになるので、布団に入ると同時に自動的に眠りにつける身体ができ上がるのです。

 性欲に関しては不思議なほどわかず、「三大欲求にも優先順位があるんだなぁ」と妙に納得したのを覚えています。まぁ、個体の生存に直接関わるのは食事と睡眠なので、当然といえば当然の話ではあるのですが……。

 では、最後に残った“食欲”はどうなのかと気になるところです。

 永平寺での食事は、1日3食、きちんと食べさせてもらえるので、基本的には満たされています。ところが、非常にストレスのかかる環境のせいで、食欲で発散しようとするのか、育ち盛りをとっくに過ぎた大人たちが驚くほど皆よく食べるのです。しかも、再請といってご飯と味噌汁を必ずお替わりできるので、炭水化物の摂取過多のバランスの悪い食事となって栄養失調気味になり、ついには身体に変調をきたしてしまうのに、それでもなかなか“もっと食べたい”という欲求には打ち勝つことができないのです。

 しかし、そういった状況は、実を言うとそれほど長く続くものでもありません。修行生活も半年が過ぎる頃になると、環境への慣れも生じ、修行内容自体に喜びを見つける余裕も出てくるので、それまでの大きなどんぶり2杯分のお米を食べるようなことは、徐々になくなっていきます。

 さらに言えば、上山したての修行僧たちの中に、“他の人よりも多く食べたい”という欲が働いていたものが、次第にその雰囲気が薄れてお米を食べたがる人が減ることで、全体的に平静を取り戻していくという流れも垣間見られました。

 道元禅師は、『赴粥飯法』の中で、食事の場こそ修行をするには最高に適していることを示唆しています。日頃我々は、美味しいものに対しては必要以上に“執着の心(貪)”を起こし、空腹になれば“怒りの心(瞋)”がわき、食べること自体が自分にとってどんな意味があるのか理解しようとしないという“真理に対する無知の心(癡)”でいるので、これら克服すべき最も根本的な3つの煩悩(三毒:貪、瞋、癡)とダイレクトに向き合える場としては、うってつけの条件が揃っています。

 しかし、これほどまでに食行為に三毒が露見しやすいのは、やはり生き長らえようとする自己のいのちと直結している行動だからなのでしょう。つまり、三毒と向き合うことは、自己のいのちの在り様と向き合うことと同じと考えてよいのです。

 考えてみれば人間は、誰もが自己のいのちを最優先に考えますが、一人では生きていけない社会的な存在であるため、どうしても他者と協力しながら生きていくほかありません。自己という存在は、極めて利己的であるにもかかわらず、利他的でなければ自己を生き長らえさせることができないという、なんとも矛盾した関係性の中にいます。仏教は、まさにそういった現実を真正面から捉え、自己の三毒をしっかりと見つめる中で、「あなた自身で答えを導き出して実践しなさい」と諭すのです。

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関連書籍

『心が疲れたらお粥を食べなさい。 豊かに食べ、丁寧に生きる禅の教え』

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