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2014.10.27

第9回

偽物のセクシャル・マイノリティ

中村 淳彦

偽物のセクシャル・マイノリティ

女性編集者の取材同席を許さない

「ナカムラさん、あの人はなんなのですか。どうして、女がここにいるんですか。聞いてないです、聞いてないです」

 松野博史氏(仮名36)は待ち合わせ場所で、担当編集者である幻冬舎の竹村優子を指さして叫んだ。松野氏は竹村の姿を見た瞬間に涙目になって怒りだし、心の底から嫌悪感を剥きだしにして追い返してしまった。

 中年童貞は繊細でナイーブである。

 女性が同席することで取材が失敗する可能性を想定はしていたが、挨拶もしないうちに追い返されるのは予想外だった。私は申し訳なさそうに帰っていく彼女の後ろ姿を眺めながら驚き、緊張が走った。なにか余計なことを言ったら傷つけてしまうのではないかと。

「女性はなにか値踏みするじゃないですか。ブサイクとかバカとか、ダサいとか貧乏とか、つまらないとか時間の無駄とか。僕という存在自体を否定するというか。拒絶されることがわかるので、女性は嫌いです。だけど本心は普通に話したいし、他の男性のように性的な関係を持てるようになりたいと思っている」

 女性が嫌いな理由は“おそらく自分を受け入れてくれない”という自信のなさと、自己嫌悪が原因だった。回避である。自分を受け入れない存在なので嫌いだけど、本心は近づきたいし、仲良くなりたいという複雑な感情である。傷つきやすい心や性格が複雑に絡まっていくうちに先鋭化し、諦めて、“嫌い”と一刀両断しているようだった。

「まず、自分の外見に圧倒的に自信がない。女性に受け入れてほしくても、絶対に受け入れてもらえないって自覚がある。もう傷つき尽くしたというか、ツライ想いをしたくないので女性と関わりたくない。最初から近づかないのが一番かなって。例えば電車で座席に座っていて、自分の隣が空いているだけで精神的なダメージになる。僕がブサイクで生理的に受け付けないから隣に座りたくないんだ、って思ったりして、死にたくなったりする」

 自己の外見を徹底的に低い評価をして、それが精神的に閉じ籠る大きな原因となっているようだったが、松野氏の外見は普通だった。いわゆる“フツメン”である。中肉中背、背は低くはない。色白でメガネをかけている顔は、真面目で知的な青年といった感じだ。

「いや、ブサイクってことはないと思いますよ」と客観的な印象を伝えたが、顔をしかめて首を振っている。

「女性が『イケメン』という単語を発しただけでも、その女性は『イケメン以外お断り=僕を拒絶している』と断定してしまって、恐怖や不信感を抱いてしまいます」。

 松野氏はIT系一部上場企業でシステムエンジニアをしている。地方の国立大学を卒業して、新卒入社。勤続十五年目である。

「自分が精神的におかしいってことは自覚している。会社でもやっぱり人間関係がうまくいかなくて。仕事では人に必要にされているかが自己評価の判断基準になっている。自分の無能さで役立たずだと感じて、年二回ある業務評価で自己評価を0点にしたり、総合職から一般職への自主降格を申し入れたり、会社で暴れてしまったり。うちの会社はだいたい三〇歳くらいで自動的に主任に昇格するけど、僕は昇進できなくて、五歳下の後輩が先に昇進した。後輩は積極性があるとか、コミュニケーション能力があるとか、そこが自分と違っていて、人間力に絶望的な格差を感じている。後輩の昇進を聞いて“自分は本当にダメな人間だ”と突発的におかしくなって、社内で自分の顔を鼻血がでるほどグーで殴って、みんなに止められた。自傷ですね。衝動的に自分を痛めつけないと気が済まないという。この数年間は自分の与えられる仕事と、後輩や他の人たちの仕事を比較して会社からの期待感が違うなって。自分の無能さを感じて惨めになって不安になって暴れて、それが理由で評価をまた下げるという。破滅的ですね」。

 

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