第1巻が刊行されたのが2010年7月。幻冬舎のウェブでほぼ10年にわたって連載していた「蜃気楼家族」。長年、連載を続ける中で、沖田さんの心境や環境の変化もあったり、なかったり……。

(構成:幻冬舎plus編集部 撮影:植一浩)

“家族だから”に縛られない

沖田 「蜃気楼家族」を描き始めた当初は、まったく人のことを考えずに描いていたんです。いろいろこと細かに描いたほうがウケるかな、と考えていたくらい。親は親だし、家族はもうバラバラなんだから、好き勝手なこと描いても誰も傷つかないと思って、そのまま描いてたんです。

 まあ、私は私なりに親を大事にしてると思っているんですけど、ああいう漫画を勝手に出したとか、そういうことを含めて、娘としての評価は最悪ですね(笑)。魚津市民の一人としても最悪。まったくの欠陥人間でダメダメです。

 ただ今は、だいぶ状況が変わりまして。たとえば、弟も結婚して子どもが生まれて、家族を作り始めた。私たちが家族を作る側になったんです。そうしたら、やっぱり変わってくるんですね。とくに弟は、こいつこんなにまともだったっけと思うくらい。今、家族の中で弟が一番まともになってる。

荻上 環境は人を変えると。

沖田 そうそう、変えるなあというのがあって。自分も常に変化していってますが……。親父ははっきり言って、まるっきり変わってないですね。しかもさらにパワーアップしてる(笑)。近づけないですね。 

 

話題の男、沖田隆。(『蜃気楼家族1』第1話「中華屋の娘」より)


沖田 いろいろ仕事をいただくようになった中に、以前、ノンフィクション系のテレビのお話がきたことがあったんです。全体に暗い筋書きで。さらに、親父と私を会せよう、会せよう、とするから断りました。

荻上 うわ、何考えてんのかな。

沖田 何のために私が東京に出てきたと思ってるんですか、と。ここまで距離が離れてないとうちはダメなんですよ、と。
 

荻上 和解すると思ってるのかな。

沖田 和解するわけない(笑)。話してわかるような親じゃないんです。そんなだったらとっくの昔に仲良くなってます。

荻上 テレビとしては、「感動の和解!」みたいなのを撮りたかったんでしょうね。

沖田 ありえん、ありえん。ドラマじゃないから、そんな都合のいいこと。

荻上 アホすぎる筋書きですね(笑)。

沖田 そうですね。でも本当に、娘への執着が半端なくて、父親のほうが会いたいと言ってくる。もう諦めてほしい。会いたいだけじゃ絶対済まないし。酒が進めばやっぱり手とか出る(笑)。もうそれが見えちゃってるから、やめましょうと。

荻上 絶対会わないほうがいい組み合わせというのがあるわけですよ、この世の中には。「DVする親」を、「破天荒」とか「やんちゃ」とかで済ませるのもいかん。

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――荻上さんが出された『未来をつくる権利』というエッセイの最初にあげられている項目は、「縁を切る権利――暴力から身を守る」ですよね。

沖田 アハハハ(笑)

荻上 いやほんとに。×華さん、暴力とつながりすぎているところがあるから。

沖田 そういえば、『蜃気楼家族』を描いていることが親父にバレたのが、2年ぐらい前だったんです。そのとき、東京に来るとか言い出して、「もし親父がダンプで幻冬舎に突っ込んできたらどうしますか」「『娘を出せ』とか言い出したらすごいですよね」と担当編集のSさんと盛り上がって、「でも、本が売れるかもしれない」とか(笑)。結局、来てませんけど。

荻上 間違いなく新聞に載りますよね。「漫画家の沖田×華さん(本名○○、35歳)が都内で云々」。

沖田 父親がダンプで幻冬舎に突っ込む(笑)。

荻上 家族だから合うという幻想は早く捨てていただきたいですね(笑)。

沖田 合わないものは合わないよって(笑)。

荻上 10年、20年嫌な目に遭い続けて、今になって和解してお涙頂戴なんて、まあ無理ですよ。無理なものは無理。「家族だからそういうことも思っちゃいけないのかな」などと思う必要もない。「生活保護をもらう前に、家族に頼ったらいいじゃないか」と簡単に言う職員とか、そりゃ公務員の窓口で働ける人は、さぞいい教育を受けたのだろうけど、じゃあ、1回その家族と代わってみろと(笑)。

 家族の絆といった言葉を云々したところで、どうしても一緒にいられない、いたくない相手というのは存在する。そのことをもっと認めてほしいと思いますね。

(最終回へ続く)

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