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2014.10.06

第8回

毒グモ・セアカゴケグモ探索

松本キック

毒グモ・セアカゴケグモ探索

 毒グモ、『セアカゴケグモ』が東京都内で初めて見つかった。

 遂に都内でも生息が確認されたか。大きなニュースとしては扱われなかったが、それはすでに8割近くの都道府県で発見されているため。国内で咬まれた被害者が重症化した報告もないことから、緊急性も薄れてしまっているのだろう。今回発見された三鷹市の住民が、報道番組のインタビューに答えていた。

「近くで発見されてどう思いますか?」
「怖いですねえ」

 それしか言えないだろう。重々しく伝えてはいるが、どこか緊張感に欠けていた。不謹慎かもしれないが、報道を見てボクは、怖いより懐かしいという思いを感じていた。

 国内で初めて『セアカゴケグモ』が発見された時、相方のハウス加賀谷を連れだって捕まえに言ったのだ。野生の毒グモを見てみたい。現地住民の反応はどのようなものなのか。生活の中に突如、『毒グモ』というワードが入り込んできてどんな心境でいるのか。

 ボクは、その空気を自分の肌で確かめてみたかった。

 1995年、秋の終わり。そのニュースは日本中を駆け巡った。

「大阪府高石市の工場敷地で、熱帯・亜熱帯に生息する毒グモ、『セアカゴケグモ』が発見されていたことが分かりました」

 女性アナウンサーが仰々しく原稿を読み上げる。

「『セアカゴケグモ』は猛毒を持っているため、咬まれた患部が腫れるなど人体への影響も報告されています。また死亡例も報告されているため、見つけた場合はその場を離れる、触らないなど、細心の注意が必要です」

 咬まれたら死ぬかもしれない。この言葉は強烈だった。得体のしれない生き物への恐怖が膨れ上がる。不安に怯える地元市民の姿はニュース映像としてテレビに映し出されていた。

 ワイドショーでも連日特集が組まれ、新しい情報が更新されていた。

「コンテナ船に紛れて上陸した可能性が指摘されています」
「咬まれて死亡したのは幼児です」
「側溝や墓地にも潜んでいます」
「オーストラリアより血清が取り寄せられました」

 市の職員が物々しい雰囲気で練り歩き、公園の茂みや側溝を調査する。見つかった地点近くでは、警戒を促すポスターが、これでもかというくらいに張られていく。

 近隣の堺市や和泉市、少し離れて神戸や四日市でもセアカゴケグモは発見されていった。毒グモ騒動は、西日本各地へと広がりをみせていた。

 ニュースが世に出て半月後、季節は初冬になっていた。ボクは相方のハウス加賀谷と一緒に、舞台出演のため心斎橋に宿泊していた。まだ大阪で毒グモは見つかっていなかったが、現地には近い。滞在中、ボクの中である計画が芽生えていった。

『毒グモを捕獲したい』

 この騒動を自分の目で確かめてみたかったのだ。
 舞台の千秋楽が終われば、次の日は東京に帰るだけで仕事はない。まさに実行するために与えられた休日だ。ボクは舞台の空き時間を利用し、計画に必要なものを買い揃えていった。

 大阪府の地図に割り箸とタッパー。殺虫剤と白くて大きな布を1枚。赤いサインペンと黒いマジックを各1本。完璧だった。

 千秋楽の前日、ボクは加賀谷に計画を打ち明けることにした。公演が終わり宿泊先のホテルに戻る。部屋はボクと加賀谷、後輩2人の4人部屋。後輩たちが夕食を食べに出ていたので、部屋にはボクと加賀谷の2人しかいなかった。

「東京帰る日に、毒グモ捕まえに行ってくるわ」
「え?」

 なんのことか飲み込めない加賀谷。

「ニュースで毎日やってるやろ、セアカゴケグモ。あの毒グモを捕まえに行くんや。お前も行くか?」

 こういった時、加賀谷は決まって「行きます行きます!」と返事をする。知っていてわざと聞いてみると、全くの予想通りの答えが返ってき。

「行きます行きます!」
「まんまやなあ」
「え、何がですか?」
「ええんよええんよ。よし、んじゃ、旗を作らんとな」

 ボクは用意していた大きな白い布を、床一面にバサリと広げた。

「旗ってなんですか?」
「せっかく毒グモ探しの旅に出るんや。捕獲チームの名前をつけやんとな」
「はあ」
「何がええ?」
「そうですねえ……う~ん……」

 頭を捻っているように見せているが、真剣に考えていないことはバレバレだった。

「お前考えてないやろ」
「いや、え、いや、そんなことないです」
「ほんまのこと言うてみ」
「考えてませんでした」

 これまた予想通り。というか、これは遊びのようなもの。チーム名はすでに決めていた。

「名前はもう決まってるんや。ペットショップボーイズや」
「いいですねえ!」

 ペットにするつもりはないが、なんとなくの響きだった。黒マジックで、ボクは布一面にデカデカとチーム名を書いた。旗をどこで使うかなんて考えてもいない。ようは雰囲気。捕まえに行くぞという気分を盛り上げたかった。

 旗が完成すると、ボクは大阪府の地図を取りだし加賀谷に見せた。

「明日行く場所はなあ」

 赤いサインペンを地図に走らせ、目的地を丸で囲む。

「ここや!」
「おおぅ! どこですかここ?」
「堺って書いてあるやろ」

 目指す先は堺市だった。大阪市に隣接する、大阪第2の都市。海に面した浜寺公園でセアカゴケグモは発見されていた。

「捕まえた毒グモはどうします?」

 心配する加賀谷に、ボクは割り箸とタッパーを差し出した。

「ほら、お前のタッパーや」
「ありがとうございます!」
「タッパーの蓋貸してみ。クモが呼吸できるように穴を開けとかなアカンからな」

 ボクはボールペンの先を蓋に押しつけ、グリグリと回し穴を開けていった。

「ほら、でけた」

 15個ほどの穴が開いた蓋を閉め、タッパーを加賀谷に渡す。右手に割り箸、左手にタッパーを持った坊主頭の少年の出来上がり。何のプロかは分からないが、「こいつ、プロだな」と思えるほど、妙に様になっていた。後は当日を待つだけ。捕獲計画の準備に怠りはなかった。

 

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