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2014.09.28

時空をこえた「料理愛」に釘付け!

佐々木 克雄

時空をこえた「料理愛」に釘付け!

 

『麒麟の舌を持つ男』
田中経一
幻冬舎刊 \1,728
死を目前にした人に最期に食べたい味を完璧に再現する“最期の料理請負人”が幻のレシピに挑む壮大なミステリー!「料理の鉄人」伝説のディレクターが料理への愛情で描き切ったデビュー作。


料理してますか
誰のためですか

 突然ですがPlusのみなさんは料理をされますか?
 これを書いているワタクシ(四十七歳のオッサン、妻子持ち)ですが、料理します。でもって結構好きです。二十代で一人暮らしを始めたときに家事全般に目覚めました。休日の朝、掃除と洗濯、そして料理。あっオレ、ちゃんと生活できてるなって。
 思い返すと恥ずかしい話ですが、あの頃は料理をする自分に酔っていました。CMで大沢たかおがワインを飲みながらパスタを作っている姿に憧れ、自分もガブガブ飲みながら料理したらヘベレケになって料理どころでなくなったり(恥その1)。テレビ番組の「料理の鉄人」をやってみたくなり、食材をキッチンに並べて「今日の食材は○○!」と鹿賀丈史のマネをして叫んでみたり(恥その2)。
 でもですねえ、当時は作れば作るほど腕は上がっていくものの、出来上がった料理を食べてもいまひとつ盛り上がりに欠けるものがありました。自分で作った料理を食べるのは自分だけだったのですね。張り合いがない感じでした。
 貴女(あなた)も料理がお好きなら、うんうんと頷いておられるのではないでしょうか? 食べてくれる人のために作り、「美味しい」って言葉をもらえたら料理はもっと楽しくなるのではと思うのです。

筆者はあの料理番組を
手掛けた方です

 さて、そんな料理の話をしながら、今回ご紹介します一冊は『麒麟の舌を持つ男』です。鹿賀丈史のマネを思い出したのは、実はこの本を書かれた田中経一さんが「料理の鉄人」の演出を手掛けた方だったからです。番組をご存じない方に簡単に説明しますと、一九九〇年代に人気を博した料理バラエティです(近年、ちょっとだけ復活しましたね)。毎回異なる食材を使って、和洋中の鉄人と呼ばれる料理人が挑戦者と戦うという、構成はシンプルに見えて、すごく豪勢でドラマティックな番組でした。
 田中さんは他にも「カノッサの屈辱」「とんねるずのハンマープライス」など数々のヒット番組を送り出していますが、料理に関する番組をたくさん作って来た方であり、料理と料理人に対する敬意と造詣が半端でないのです。そんな彼が映画の企画として考えていたプロットを小説にしたのが『麒麟の舌を持つ男』──もちろんテーマは「料理」です。

二人の男が、時代をこえて
料理を通じて繫がっていく

 この物語は二人の料理人を軸に話が回ります。
 一人は二〇一四年の日本で「最期の料理請負人」の肩書きを持つ佐々木充。年齢は四十代、ちょっと陰のある感じの男性です。冒頭では彼の仕事が紹介されているのですが、これが変わっているのです。よくテレビなどで「人生の最期に何を食べたいですか?」といったインタビューを見ますが、佐々木はその料理を作るのです。彼には絶対音感のような舌の感覚があり、その才能でもって余命わずかな依頼人の「最期に食べたい料理」を作り上げ、多額の報酬を得ています。なかなかにユニークな主人公設定といえるのですが、この才能が彼をとてつもない事件に巻き込むことになります。
 一本の依頼電話は中国人からのものでした。北京(ペ キン)に赴いた佐々木を待っていたのは高齢の老人、楊晴明。楊老人は今から八十年以上前、満州国にあったという「大日本帝国食彩全席」を再現してほしいと依頼します。ギャラは五千万円(!)。だが料理を再現するにも、二百品目を超えるというレシピは楊老人の元には存在しません。それを作成した日本人の足跡を辿って手に入れてほしいというのです。
 ここでもう一人、レシピを作成した山形直太朗のドラマが併走します。時は昭和初期、戦争の影が近づいてくるきな臭い時代、宮内庁の料理人だった山形は上からの命令で妻と共に満州へ渡ります。そこで当時の満州を支配していた関東軍司令部から命令をうけるのです。天皇行幸の際に饗する「大日本帝国食彩全席」を作れ、と。
 彼もまた、佐々木と同様の才能がありました。一度口にした味は忘れず、それを再現することができる──それが「麒麟の舌」と呼ばれるものです。

レシピを巡るミステリーが
過去と現在で繫がって

 構成がかなり緻密に組まれている作品ですので、登場人物や時代背景を説明するのに文字数を使ってしまったのですが、本作は八十年を跨(また)いだ時間と、日本と中国を結んだ壮大なミステリーサスペンスなのです。「大日本帝国食彩全席」のレシピは春夏秋冬の四冊に分かれており、佐々木は日本と中国でそれらを必死に探し求めます。同時に八十年前のストーリーと現代が繋がっていきます。実は楊老人、当時は十七歳の少年で、山形直太朗のレシピ作成を手伝っていたのです。その彼が老人となった今もレシピを追い求める理由は……?
 そしてもう一人、キーになる人物が八十年の歳月を繋ぎます。満州で生まれた山形の一人娘、幸です。一九四五年の終戦直前に日本へ引き揚げてきた彼女はレシピを持っているはず──と佐々木は訪ねるのですが、彼女は複雑な思いを抱えていました。レシピを書き上げた山形は終戦直前に何者かによって殺されてしまうのです。娘の幸は楊晴明を疑っており、その楊晴明はレシピを求めており……ミステリーなので紹介はここまでにしましょう。

とめどなき料理愛は
食べる人への……

 佐々木が「大日本帝国食彩全席」のレシピを探していくと同時に、八十年前の山形はそのレシピを作っていきます。よく練られたプロットだなあと読みながら舌を巻いていたのですが、この物語には重要な、第三の主人公ともいえる存在がいるのに気付きます。それは言うまでもなく料理です。
 全身全霊をかけて「大日本帝国食彩全席」のレシピ作成に没頭する山形。料理人としてのプライドが彼を精神的に追い詰め、身の破滅を招く結果となってしまっても、料理を愛する彼には後悔はなかったのだろうと読了後しみじみと感じました。冒頭で触れましたが、料理って食べてくれる人がいたら嬉しいじゃないですか。山形のようなプロでも思いは同じなんですね。
 佐々木もまた然(しか)りです。実は彼、無茶な仕事を引き受けたのは高額な報酬が理由でもありますが、店の経営に失敗して借金を抱えていたのです。彼もまた自分の理想の料理を追い求めていったためにそうなったのですが、レシピを求めて山形の足跡を辿るうちに、山形の料理愛に心が動かされていきます。
 そして、過去と現代を結ぶすべての謎が解けたとき、作中の彼らと同じように、とめどなき料理愛の深さにホロリとなってしまうでしょう。う~ん、さすが「料理の鉄人」を作り上げた人の小説ですね。キッチンスタジアムのガチな料理ドラマは、こうして小説という姿に形を変えても、普遍的に感動をあたえてくれるのです。ミステリーが好き、料理が好きな貴女に、是非とも読んでいただきたい一冊なのであります。
 

 

『GINGER L.』 2014 SUMMER 15号より

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