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2008.02.15

雨宮塔子の食事日記2

雨宮 塔子

雨宮塔子の食事日記2

1月12日

“ガレット・デ・ロワ”はもう日本にも定着しているのだろうか? 新年のお祝いにいただく、古い歴史のあるパイ生地のお菓子。中にフェーブと呼ばれる陶器製の小さな人形などが入っていて、切り分けられた中でこのフェーブが当たった人は、その1年はついている(本当の意味は少し違うようだけれど……)とされ、フランスではこの1月、家族や友人たちとガレットパーティを開く人が多い。
 そのガレットパーティに、ヒロミさんが呼んでくれた。ヒロミさんは娘の通う日本語塾で知り合った方で、「KENZO」でメンズのアートディレクターを務めていらした旦那様のツトムさんと一緒に、「TSU TSU」というブティックを経営されている。以前からヒロミさんと親しいノリノリ(前回登場の関西人マダム)から、お料理も、家のインテリアもセンスに溢れていると聞いていたので、お宅拝見も楽しみだ。
 そうだ、ガレットパーティに、菓子屋の女房がガレット持っていかなくてどうする!? 彼に頼んで、アーモンド風味のナチュールと、抹茶味のとを2つ、取り置きしておいてもらわなければ……。
 ノリノリはノリノリで「ラデュレ」のガレットを持参するという。「塔子ちゃんだってたまには青木さんのじゃない、ほかの店のお菓子も食べてみたいでしょ」いいねー、ノリノリ。粋なお心遣いっす。
 とにもかくにも、二人で大きな菓子箱を持ってヒロミさんちへ乗り込む。


 ヒロミさんの家は玄関の構えから違っていた。こっちでいう開業医が、自分の診察室用に好んで借りるようなゴージャスな造り。バスチーユ広場近くというから、もっとカジュアルなアパルトマンを想像していたけれど、まだまだパリは奥深い。サロンは少し南仏の雰囲気が漂う淡いブルーで統一されていて、居心地の良さそうな空間が広がっていた。
 ローマ神話に出てくるミネルバの石膏像に真鍮のエッフェル塔のオブジェetc.……。個性的なデコに、在住期間の長さがうかがえる。<駐在組>と<在住組>の違いは、身につけるものよりも、身を置く空間の方に顕著に現れるのかも、と思う今日この頃だ。
 キッチンでアペリティフの準備をするヒロミさんに促されるまま、ビールを飲む。キッチンって、人の家のでもどうしてこんなに心休まるのだろう。
 今夜のヒロミさんのメニューは、ちらし寿司でコースの最後を締めくくるという和食だそうだ。
 ビールをチビリチビリやりながら薄焼き卵を錦糸にしていると、キミさん(ノリノリの旦那様)登場。「エレガント・キミヨシ」なる異名を持つだけに、キッチンドランカーと化した女三人の姿に、一瞬背中をのけ反らせて引いたものの、同じくビールグラス片手にキッチンテーブルに腰を落ち着ける。
「フランス人もフェットの最後は必ずキッチンに集まって飲んでるよね」
 キミさんの言葉に、キッチンの魔力は国籍を問わないことを知る。
 その時、玄関で物音がした。マサト夫妻(美容室「MASSATO PARIS」オーナー)が到着したようだ。
「ボタン海老よー、ボタン海老」
 玄関に迎え出たヒロミさんがキッチンに駆け戻る。
(ボ、ボタン海老!?)
 どうも1月に入ってから、パリではめったに食べられない貴重な和食材に縁がある。ん? ボタン海老って日本固有のものじゃないんだっけ?
 いずれにせよ、パリに暮らしたこの9年間で、初めて口にしたボタン海老は、大ぶりなのにまったりとして繊細な味のする、本当に美味しいものだった。神様、これを生で食べることを知っている日本人に産み落として下さって、ありがとう。今日お呼ばれした家が、日本人家庭でありがとう。
 やはりパリに一店しかないそうだ。ボタン海老を仕入れられる魚屋さん。入手時期も限られているのだろう。そんなものを手土産に選ばれるご夫妻のセンスに感動する。センスってなんだろう。結局、“思い”にすごく近い言葉のような気がする。自分の時間を人に惜しみなく与えられる度量、人の気持ちをこまやかに汲み取れる感覚etc.……。
 今夜のパーティは、そんなセンスを随所に感じる、本当に気持ちのいいパーティだった。気持ちよすぎて、験担ぎなんてどうでもよくなってしまい、誰がフェーブを当てたかも忘れてしまった。
 パリの風は時として手ごわい。そんな風にさらされているうちに、“不思議ちゃん”になっていく日本人が多いと思っていたけれど、今日お会いした方々のように、在住が長くてもいい意味で普通のセンスを持ち続けられている人もいる。いや、むしろそんな揺るぎない人だからこそ、フランスを舞台にしても確固たる地位を確立できたのかもしれない。

最後に、今夜の“真似したい大賞”一等賞だったヒロミさんの「カモのたたき」のレシピを……。

1. マグレドゥキャナー(カモのささみ)の表面の脂を落として焼く(火は通っているけど中はピンク色、というのを目指すため、ひんぱんに竹串などでチェックする)。
2. それを、すきやきの割り下のようなもの(おだし、お醤油、みりん)にユズの輪切りを加えた漬け汁に20分ほど漬け込む。
3. 取り出したカモ肉をスライスし、残った漬け汁はゼラチンを入れてかため、サーブする時に半解凍にした状態で上から散らしかける。

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