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2008.03.15

雨宮塔子の食事日記4

雨宮 塔子

雨宮塔子の食事日記4

2月14日

 今まで8回は迎えたはずなのに、一度も記憶にないとはどうしたことだろう。
 原稿を書きに来たカフェ、「PAUL」で茫然と思いを巡らす。今日はバレンタインデーだったことを忘れていた。店内に一歩足を踏み入れたとたん、目に飛び込んできた赤いハートのモチーフに、その意味を悟るまで、多少時間がかかってしまった。それにしても、天井の端から端まで吊るされたハートの短冊かざりや、シャンデリアのひとつひとつに掛けられた巨大ハートといったわかりやすいデコを目にしたのは渡仏10年目にして、初めてだった。
 彼が日本に帰国してから、1カ月近く経つ。先日、友人のパスカルからその理由を尋ねられたので、「日本のバレンタインデーは、ここより商業的だからね」と答えると「?」という顔をしている。
「日本では、“義理チョコ”といって、たとえば会社の上司や同僚にもショコラを渡す人が多いんだよ」と話すと、
「なにそれ? 恋人以外にも渡すの?」と目を白黒させ、私が、
「もちろん恋人とその他の人とでは、チョコにかける値段やエネルギーは変えるけどね」と補足すると、妙に納得してにやにやしていた。
 パリのバレンタインデーは、ひっそりとやってくる。恋人同士や夫婦が贈り物をし合う日なので、女性から男性へといった一方通行でもなく、贈り物がショコラやお菓子と決まっているわけでもない。だから、“ホワイトデー”もないし、お菓子屋さんの“大奮闘”もない。誕生日や何かの記念日といった、もっと個人的な日のニュアンスに近いから、ひっそりと感じるのかもしれない。
 だから、「PAUL」の商業的なデコにはびっくりした。観光客の多い、チェーン店タイプのカフェだからだろうか?
 それにしても、パリでそのひっそりとロマンチックなバレンタインデーを満喫したことがないのはちと寂しい。いや、日本でもか!? それはこれまでイベントにまめな人とつき合ったことがないのと、なにより自分がことさらそういう日に合わせて会うことを、どこか無粋なことと感じてしまう性分なところが大きい。
 今頃、彼は日本で頑張っているんだろうけれど、パリのさとちゃん(彼の仕事のパートナー)はそう遅くならずに帰宅するんだろうな。バレンタインデーとはまったく関係ないけれど、さとちゃんの夜食には、冷凍庫にある銀ダラの粕漬けを使って、以前作って誉めてもらった香港風チャーハンを作ろう。

香港風チャーハン

1. 魚の粕漬けを焼き、骨をはずしながらほぐす。
2. 中華鍋を熱し、油を鍋肌になじませ、卵を半熟に炒めたら、小皿などにとり出しておく。
3. その中華鍋に油を足し、みじん切りにしておいた長ねぎを炒め、香りが出てきたら魚のほぐし身を入れて炒める。さらにごはん(ふつうのごはんよりインディカ米が合う)を加えて炒め、パラパラになったら卵を戻し入れ、さらによく炒める。塩、こしょう、酒、だし醤油で調味する。

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