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2008.04.01

雨宮塔子の食事日記5

雨宮 塔子

雨宮塔子の食事日記5

2月24日

 日曜日のブランチに家族全員がそろったのは何週間ぶりだろうか。ブランチを外で摂ったのなんて、数カ月ぶり!? こんなにもブランチ好きなのに。
 とにもかくにも、モンパルナスへ生ガキを食べに行った。日本でいうお正月の三箇日には、パリで必ず生ガキを食べるのが我が家なりの慣わしだったのに、去年は彼がショコラ作りに本格的に乗り出したこともあって、年が明けても忙しく、家族そろっての外出がままならなかったのだ。
 さとちゃん(家に同居して4カ月になる彼の仕事のパートナー)にとっては、生ガキは初モノではない。恋人を日本から迎えていた年末年始のうちの一日に、ちゃんと二人で生ガキの貝柱をほじっていたのだ。それにしても、その二人のデートからすでに2カ月近くが経過している。数日は会えたとはいえ、付き合い始めて間もない二人が、4カ月も異国に離れ離れというのは、本当に気の毒だ。さとちゃんをはじめ、どうも彼と関わると、皆プライベートがかなりおろそかになってしまう。申し訳ない。
 せめて、さとちゃんの心がここにないことがあっても、気がつかないふりをしよう。この店は彼女と来た店だというさとちゃんの言葉を聞きながら思う。
「子供たちは生ガキ、いけるかなー。いずれにしても、生ガキの山を見せてやんなきゃな」
 メニューを見ながら、彼が脳天気につぶやく。この人は他人様の恋路に関しては、必要以上に無関心を決め込む。というより、自分のデリカシーが表われそうになると慌てふためき、照れ隠しにわざと粗暴なふるまいをする癖があって、これもそのパターンに見えなくもない。

 そんなことを考えているうちに“soupe de poisson”(魚のスープ)が登場。いわゆるヴイヤベースの、具材が入ってないヴァージョン。生ガキがメインだから、具はいらないのだ。とはいえ、おそらく岩場にいるカニなども煮つめて漉されているとあって、濃厚なコクのあるスープだった。このスープにさらに備えつけの2種類のディップを落とす。白っぽいのはにんにくとマヨネーズを和えたもので、オレンジ色のはアイヨリ(アイヨリペッパーにサフランが入ったもの)だ。このアイヨリには、よく見るとカニミソが混じっている。もう痛風になろうがなんだろうが、入れるとより奥深い味になるので、ついついつぎ足してしまった。
 元からスープが好きではあるけれど、ガーリックトーストを浮かべて食す飲み方に、子供たちも大満足の一品だった。

 続けて、本日のメイン、生ガキ登場。先ほどの彼とギャルソンのやりとりが思い出される。
「0号を(一番大きいカキ)」“Ca marche.”
「“bulot”(巻き貝)と“cravette grise”(小海老)もつけて下さい」“Ca marche.”
“Ca marche.”というフランス語は訳しづらいけれど、ここでは“ほいきた”的なニュアンスかな。


そのギャルソンの威勢の良さがそのまま乗り移ったようなカキだった。このカキの瑞々しさも久しぶりっす。
 ここでも食べ方に個性が出る。レモンしか絞らない彼に対し、さとちゃんと私は赤ワインビネガーにエシャロットを浮かべたソースをかける。そういえば、実家の両親はレモン汁にタバスコを一滴、垂らすのを好んでいたっけ……。日本のカキといえば、カキフライも食べたいなぁ。一番大きいカキを頼んだので、四つも食べれば満腹なのに、そんなことを思う。ちょっと飽きたところで巻き貝や小海老をつまむ。満腹じゃなかったら、ソーセージもよかったな。グルメチーフ、さとちゃんの話では、地方によってはカキの合間にソーセージをつまむのは、カキの連投でおながが冷えるのを防ぐためなそうな。
 子供たちには、今年もまだ早かったようだ。息子は果敢に食いついたものの、馴染みのない食感のせいか、口から出してしまうし、娘ときたら最後まで食わず嫌いで、“bulot”ばかり攻めていた。
 彼らのカキへの開眼を心待ちにしながら、我が家の風物詩を、たとえどんなに遅ればせながらも重ねてゆけたら、と思う。
 ※本文中の“Ca marche.”のCは、正式にはCのセディーユです。

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