毎日を1%ずつ新しく生きる! 刺激と感動のマガジン&ストア

★がついた記事は無料会員限定

2014.08.06

第6回

言葉会議

松本キック

言葉会議

  脱法ハーブにまつわる事故や事件が、毎日のように飛び込んでくる。おそらくこれから先の日本風俗史の中で、今ほど脱法ドラッグが世をにぎわしていることはないだろう。誰かが「ええかげんにせえ!」とつっこんで、「♪チャンチャン」と終わればいいのだが。

 そんな中、厚生労働省は、脱法ドラッグの新しい名称を『危険ドラッグ』とすると発表した。危険な薬物だと伝わりやすくするため、ストレートなネーミングにしたらしいが、効果があるのかどうか。危険という言葉に、どれほどの抑止力があるのか疑問に感じてしまう。

 薬にスリルを求めてしまう購買層にはかえって逆効果にもなりかねない。ストレートな名称にしたいなら、脱法ドラッグは『バカにつける薬』でいいだろう。

 夕方、テレビからこんなニュースが流れてくるかも。

「今日午後1時ごろ、渋谷区の路上で、『バカにつける薬』を使用した男が運転する車が、電柱にぶつかり大破しました。男の車からは大量の『バカにつける薬』が発見されました」

 なんのことか分からないが、相当なバカだということは分かる。キャラとしてのおバカでもなく、熱血という意味のバカでもない。単なるバカ。使っていることが知り合いにバレると、「あいつ『バカにつける薬』使ってんだって」と、バカにされてしまう。バカにされると使用する意欲も失せ、「あんな薬使う奴はバカだよ」と薬から離れていく。そんなにうまくいくはずはないが、危険だということを知らしめるより、バカだということを知らしめた方が効果があるような気がする。でも残念ながら『バカにつける薬はない』のである。

 万人が共通して使う物の名前は、決めるのが難しい作業だと思う。大多数の人に、イメージを共有させなければならない。覚えやすく、浸透しやすくしなくてはいけない。言葉1つ決めるのも大変なことだ。

 そもそも、今、ボクたちが使っている言葉は、一体誰が決めたのだろうか。最初に決めた人たちが『そう』決めたから、たまたま『そう』なっているにすぎないが、誰がいつどのようにして決めた言葉なのかは全くもって分からない。

 太古の時代、なんとなく決まっていったのだろうか。それとも、話し合いがもたれ、「ああでもない」、「こうでもない」と、時には争いながら決めていったのだろうか。気になり出してきた。

 人が歴史を持ち始めた頃、言葉は重要な役割を担うようになっていた。共通の言葉は共通の価値観を生み出し、共存へとつながる。一方、相反する言葉を操れば、意思の疎通は阻まれ排他へと向かっていく。人は、生きながらえるため、言葉の統一を図る話し合いを持つことにした。

 世は、7つの集落で成り立っていた。その7つの集落から、それぞれ1人づつ、言葉を決める会議に参加する代表が選ばれた。時が来て、集まったのは5人だけ。3人が男で2人が女だった。男は皆、獣の皮を腰に巻き付け、石の槍など、武器を携えていた。2人の女は、肩から皮を纏い、武器を持つ代わりに警護の男を1人つけていた。

 集まった場所は、仰いでもてっぺんが見えない大きな木の下。遠く離れた土地からもその木はよく見えた。海からも、山からも、野原からもまんべんなく見え、天に繋がる神の木として、全ての集落から崇められていた。

 会議に参加した者は、神の木の前に腰を下ろした。

 地面にそのままベタリ。

 お互いの顔がはっきり見えるよう円形に座ったが、誰も話を切り出さなかった。何をどう始めていいのか判然としない。集落の代表が集う話し合いは初めてだったし、うかつなことを言って立場を悪くするのが恐かった。他の集落の人間を信頼していいのかどうか。どこまで自分たちの言葉を理解しているのか。確かな情報がない。

 探り合いの間が長々と続いた。

 緩やかな風が神の木の葉を揺らし、淡々と流れる時間に少しばかりの色を添えていた。
そこへ、一人の男が遅れてやってきた。背丈はさほど高くはないが、骨が太く、体の幹がしっかりしている。武器は持っていないが、吊り上がった大きな目に、他を制圧する力を備えていた。男は先に集まっていた者たちを睨みつけると、ドカドカと円の中に割って入った。

 座っていた5人は慌てふためいた。
「何者だ!」
「な、な、な、何をする!」
「助けるのだ!早く!」
「……、……」
「キャー、ギャー!」

 武器を手に取る者、武器を手にするが腰が引ける者、警護を呼ぶ者、黙って状況を見つめる者、逃げようと思うも腰が砕けてしまう者。

 混乱を尻目に、男は神の木を背にし、円の中心にドカリとあぐらをかいた。目を瞑り黙り込む男。動かず語らず、何もせず。次第に喧騒は静寂の一部と化していった。男に危害を加える意思はない。5人は、元いた場所に戻り、ほっと息をついた。
 

ログイン

ここから先は会員限定のコンテンツ・サービスとなっております。

無料の会員登録で幻冬舎plusを更に楽しむ!会員特典をもっと見る

会員限定記事が読める

バックナンバーが読める

電子書籍が買える

イベントに参加できる

★がついた記事は無料会員限定

記事へのコメント コメントする

コメントを書く

コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください

おすすめの商品
  • ピクシブ文芸、はじまりました!
  • 文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
  • 無理しないけど、諦めない、自分の磨き方
  • 時短、シンプル、ナチュラルでハッピーになれる!
  • ビジネスパーソンのためのマーケティング・バイブル。
  • 有名料理ブロガー4名が同じテーマでお弁当を競作!
  • ドラマこそ、今を映すジャーナリズム!
  • 砂の塔 ~知りすぎた隣人[上]
  • 小林賢太郎作品一挙電子化!
  • あなたがたった一人のヒーローになるためには?
朝礼ざんまい詳細・購入ページへ(Amazon)
文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
ピクシブ文芸、はじまりました!
エキサイトeブックス
今だけ!プレゼント情報
かけこみ人生相談 お悩み募集中!