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2014.07.31

第2回

軍歌は日本史上もっとも成功した音楽だった

辻田 真佐憲

軍歌は日本史上もっとも成功した音楽だった

新書『日本の軍歌 国民的音楽の歴史』の刊行にともないはじまった本連載。第1回(「戦前日本ではなぜトンデモ軍歌が溢れていたのか」)では、「爆弾位は手で受けよ」という軍歌を歌う戦前日本と現代日本にある共通性を見ました。第2回では、軍歌という音楽ジャンルは音楽史においていかに位置づけられるかを考察します。

近代音楽史を見渡すことのできる高台が軍歌

 ここ20年ほど、近代日本音楽史の研究が盛んです。唱歌、童謡、帝劇、宝塚、浅草オペラ、ジャズ、流行歌、音楽批評などをテーマに、新刊が相次いでいます。今日のJ-POP、アニソン、現代音楽などにつらなる文化なので、関心をお持ちの方も多いのでしょう。(佐村河内守のゴーストライター騒動も、その末端で起きた事件です。)

 しかし研究が進む一方で、余りにジャンルが細分化されてしまい、一般の人には全体像が見えにくくなっている憾みがあります。唱歌ではどうしても学校が中心になりますし、ジャズでは都市圏が中心になってしまいます。どこかに近代日本音楽史を見渡せる「高台」でもあればいいのですが――。いや、実は「高台」はあるのです。それこそ、音楽史研究がほとんど無視してきた、軍歌というジャンルに他なりません。

 なぜ軍歌なのでしょうか。それは、軍歌がかつて日本でもっとも成功した音楽だったからです。これほど、老若男女・官民・貴賤を問わずに消費されたジャンルもありません。軍歌は貪欲で、娯楽音楽も芸術音楽もどんどん取り込みました。その作詞者・作曲者たちをリストアップすれば、そのまま音楽史の人物群像となるでしょう。そのため、軍歌に軸足をおくと、洋楽を中心とした近代日本音楽史の全体像もまた自ずと見えてくるのです。

 そもそも、明治時代に西洋から音楽が輸入されたのは近代化のためでした。子供に「国を守ろう」という歌を歌わせて国民意識を育ませる。あるいは、兵士に同じリズムで行進させて規律を身につけさせる。このように、音楽は近代化を進めるツールとして使われました。不平等条約を押し付けられ、植民地になりかけていた当時の日本に、娯楽として音楽を輸入している余裕などなかったのです。

「蛍の光」は「国のために尽くせ」という歌だった

「蛍の光」は国民教化の歌だった。(『小学唱歌集』初編[国立国会図書館蔵]より)

 唱歌の歌詞を見ると、それがよく分かると思います。例えば、「蛍の光」(*)。今や卒業ソングの定番ですが、元はスコットランド民謡を替え歌にした明治10年代の唱歌でした。今では削除されてしまった、その3番の歌詞を見てみましょう。

筑紫の極み、陸(みち)の奥。海山遠く隔つとも、
その真心は隔てなく、一つに尽くせ国のため。

 そう、「蛍の光」は卒業してバラバラになっても「みんな国のために尽くせ」という歌だったのです。今から見ると異様に思われるかもしれませんが、これこそ他ならぬ当時の音楽の姿でした。やや後の時代のものになりますが、「我は海の子」という文部省唱歌も、戦前は「いで軍艦に乗り組みて、我は守らん海の国」と歌われていたのです。

 しかし、外国から音楽が入ってきたからといって、一般の民衆がいきなりこれに飛びつくわけがありません。洋楽ははじめ不人気でした。ところが、日清戦争で一気に風向きが変わりました。戦争でナショナリズムが盛り上がり、それを掻き立てる軍歌は大ブームとなったのです。実に1894(明治27)年と1895(明治28)年の2年間だけで、軍歌は1300曲以上も作られたといいます。

 その歌詞は酷く、中国人を「豚兵」「蛆虫」「獣」「うどの大木」「ちゃんちゃん坊主」などと罵るものばかり。「豚兵は全敗ぞ、遁(に)げ足しどろや、ワッハッハ」という感じです。下品な内容ではありますが、見方を変えれば、一般民衆も軍歌を楽しみ始めたという証拠といえるでしょう。

 軍歌以外の洋楽が本格的に消費され始めるのは、日本が「一等国」となった大正時代を待たなければなりません。日本最初の流行歌といわれる「カチューシャの歌」も、日本最初の交響楽団といわれる東京フィルハーモニーも、童謡も、浅草オペラも、音楽批評も、帝劇や少女歌劇の隆盛も、すべて大正時代の産物です。これらの文化は、軍歌によって洋楽が大衆に広がっていたからこそ花開いたともいえるのです。

*「蛍の光」
「蛍の光」をYouTubeで検索

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