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2014.07.28

第1回

戦前日本にはなぜトンデモ軍歌が溢れていたのか

辻田 真佐憲

戦前日本にはなぜトンデモ軍歌が溢れていたのか

今日、軍歌というと、軍部が民衆に押し付けた退屈な音楽だと思うのではないでしょうか。街宣車から鳴り響く物々しい音楽を思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、実際は、軍歌は戦前の生活に根付いた娯楽だったのです。『日本の軍歌』の著者が軍歌の知られざる一面を紹介します。

 

「決戦盆踊り」「爆弾位は手で受けよ」

「日本は右傾化している」という議論が、最近ではエンタメ業界にも押し寄せています。昨年6月には、NHKのサッカーワールドカップ放送のテーマ曲として作られた、椎名林檎の「NIPPON」が物議を醸しました。その歌詞が純血や死を賛美していて、軍歌みたいだというのです。また7月には、AKB48の島崎遥香が出演した自衛官募集CMが注目を集めました。こちらも、「アイドルが軍歌を歌う日も近い」というような意見を巻き起こしました。

 このように、エンタメの「右傾化」が問題になる時には必ずといっていいほど軍歌が引き合いに出されます。どうやら軍歌は「右傾化」の指標のようです。

 しかし、我々は軍歌についてほとんど何も知らないのではないでしょうか。これでは「右傾化」の議論も空回りしかねません。そこで今、軍歌の歴史を振り返ることにも意義があるはずです。戦前の「右傾化」の歴史を知れば、今日の「右傾化」もよりクリアに見えるでしょう。

 さて、今日軍歌と聞くと「怖い音楽」というイメージが先行するかと思います。しかし、実際はそんな印象を覆すほど、滑稽でトンデモな軍歌が戦前社会には溢れていました。

リットン調査団の団長を揶揄する歌まで作られた。(保利透氏提供)

 例えば、1943(昭和18)年制作の「決戦盆踊り」。タイトルからして失笑モノです。これが軍歌なのかと思われるかも知れませんが、制作した大日本仏教会はしっかりとその目的を「盆踊りを通じて戦力増強に邁進」するためだと強調しています。「盆踊りを通じて戦力増強」。どう考えても正気の沙汰ではありません。誰か止める人はいなかったのでしょうか。ともかく、死者を供養するという本来の目的もどこへやら、戦時下には、盆踊りまで軍歌に変化してしまったというわけです。

 他にも「愛国子守歌」という歌があります。こちらは子守歌の軍歌バージョンといえるでしょう。「日本は神の国だから安心して眠りなさい」というわけですけれども、このレコードが出たのが1944(昭和19)年末。もう本格的な本土空襲は目の前でして、本当に安心して眠っていては焼け死んでしまうという、ブラックジョークのような歌になってしまいました。

 またタイトルで滑稽なのは、「爆弾位は手で受けよ(*)。このレコードは日米開戦目前の1941(昭和16)年に作られたもので、音頭のようなリズムと明るいメロディが印象的です。歌詞では「防火の訓練怠るな」とか、「守れこの土、この空を」とか、いろいろ教訓めいたことをいうのですが、最後の結論は「いざという時ゃ体あたり」と投げやりなもの。そして「ソレ!」という合いの手が入って、歌手が総出で「爆弾位は手で受けよ」と締めくくります。控えめにいっても狂っています。

 しかもこの軍歌は10番もあって、9番まで延々と「いざという時ゃ体あたり。ソレ! 爆弾位は手で受けよ」と繰り返すのです。これにはさすがに当時の音楽評論家も呆れて「くどい」と一刀両断しています。ちなみに10番では「いざと言う日はもうすぎた。ソレ! 今こそ一億体あたり」と更に破滅的な歌詞に変化。聴く者を唖然とさせます。この頃の日本はまだそれほど切迫した状況ではなかったはずですが、まるで戦争末期のような絶望感には驚きを禁じ得ません。

*「爆弾位は手で受けよ」
「爆弾位は手で受けよ」をYouTubeで検索

 

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