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2014.07.17

「男になりたい」という根源的欲望
小林まこと『関の弥太ッペ』他「劇画・長谷川伸シリーズ」

中条 省平

「男になりたい」という根源的欲望<br />小林まこと『関の弥太ッペ』他「劇画・長谷川伸シリーズ」<br />

 

書店でなかなか見つからない本年度の最重要作

 先日、手塚治虫文化賞の授賞式のパーティがありました。その席上、呉智英さんにお会いしてマンガの話になりました。2014年も半年ほど過ぎたいま、呉さんは今年のマンガベストワンの候補として、小林まことの「劇画・長谷川伸シリーズ」(講談社)を挙げました。私は虚を突かれました。まったく聞いたことがない作品だったからです。一緒にいたマンガに詳しい関係者も同様と見えて、会話が途切れてしまいました。 

 すると、呉智英さんは、「ふうん、君たち、しょうがないなあ」という感じで、先生独特の、教えを垂れる前にきっと口をひき結ぶチャーミングなお顔をなさったのち、長谷川伸がいかに偉大な作家であるかを力説し、それなのに近頃の連中はほとんど読んでいないが、自分はかつて朝日新聞社から出た「長谷川伸全集」全16巻を読んでおり、世上人気のある股旅ものはもちろん悪くないが、長谷川の真価は『日本捕虜志』『相楽総三(さがらそうぞう)とその同志』など後期の歴史小説にあり、なかでもいちばん凄いのは、どうしようもない親不孝者の一生をリアリズムに徹して書いた『足尾九兵衛の懺悔』だとひと息にお述べになりました。

 私は、相楽総三の赤報隊は岡本喜八の映画『赤毛』やマンガの『るろうに剣心』にも出てきますねといいかけたのですが、そんなことをすれば呉さんの論及がどこまで広がっていくか見当もつきませんし、ともかく小林まことによる長谷川伸のマンガ化という話題に興味があったので、話をひき戻すため慌てて、「でも、その小林まことのマンガは本屋で一度も見たことがないんですが」と口を挟みました。

 すると、呉先生はわが意を得たりとばかりに、そうなんだ、本屋に置いてない。でも6年も前から「イブニング」で不定期連載されていて、この春に出た単行本『瞼の母』でいちおう完結した。私はこの小林まことの「長谷川伸シリーズ」を今年の最重要作品のひとつだと考えるのだが、いまの人に長谷川伸の面白さは伝わらないかなあ、まあともかく読んでご覧なさい、と締めくくられたのです。

 そんなわけで、なんともありがたい知識を授かり、私はパーティの帰り道に無駄足かもしれないと思いつつも、池袋ジュンク堂地下のマンガ売り場にたち寄らずにはいられませんでした。すると、さすが品揃えのいいジュンク堂。最新刊の『瞼の母』だけは棚にありました。

 本時評を受けもっている関係上、マンガの新刊はけっこう丹念にチェックしているつもりなのですが、『瞼の母』の表紙が新刊の平積みになっていた記憶はありません。とりあえずこの1冊を買って家に帰り、インターネット上で検索してみたところ、小林まことの「劇画・長谷川伸シリーズ」は全部で4冊あるのでした。題名だけは誰でも聞いたことがあるくらい有名な、長谷川伸の股旅ものの代表作ばかりです。

『関の弥太ッぺ』(2009年)
『沓掛時次郎』(2010年)
『一本刀土俵入り』(2012年)
『瞼の母』(2014年)

 なるほど足かけ6年を費やして単行本4冊に結実させるとは、小林まことの本格的な気の入れようがよく分かります。

 残りの3冊をさっそくアマゾンで注文しようと思ったのですが、5年前に出た『関の弥太ッぺ』はすでに絶版品切れで電子書籍版しかなく、単行本の古本には法外な値段がついていました。仕方ないのでその古本も含めて3冊注文しましたが、翌々日には全冊届きました。毎度のことながら驚きです。

 そうして年代順にまずは『関の弥太ッぺ』から胸を高鳴らせながら読みはじめたのでした。

 

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