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2014.07.27

第18回(最終回)

難しさを測る、美しさを測る 後編

大栗 博司

難しさを測る、美しさを測る 後編

なぜ解けたかをもう一度考えてみる

 もう一度、$2$次方程式$$ x^2 + a x + b = 0 \ , $$

の解き方を復習しよう。まず、係数$a$と$b$が解$\zeta_1$と$\zeta_2$の入れ替えで不変になっていることに注目した。この$2$つの解の組み合わせで、入れ替えで不変になっているものとして、$(\zeta_1 + \zeta_2)$と$(\zeta_1 -\zeta_2)^2$を考えると、どちらも$a$と$b$で、

\begin{align} \zeta_1 + \zeta_2 & = - a \ , \nonumber \\ (\zeta_1 - \zeta_2)^2 & = a^2 - 4b , \nonumber \end{align}

と表せるので、$2$行目の式の平方根を取れば、$1$行目と合わせて、$\zeta_1 \pm \zeta_2$の両方がわかる。これから $\zeta_1$と$\zeta_2$の解の公式が導かれた。

 $3$次方程式$$ x^3 + a x^2 + bx + c = 0 \ , $$

のときにも、係数$a$、$b$、$c$が解$\zeta_1$、$\zeta_2$、$\zeta_3$の入れ替えで不変になっていた。そこで、この入れ替えを表す$3$次の対称群$S_3$が、$\Omega$と$\Lambda$を使って表せることを使って、$3$つの解から$\beta_0$、$\beta_1$、$\beta_2$という組み合わせを作り、これから$S_3$不変な組み合わせ$\beta_0$、$(\beta_1^3 + \beta_2^3)$、$(\beta_1^3 - \beta_2^3)^2$を作ると、これらは方程式の係数$a$、$b$、$c$で表せるので、これから$\zeta_1$、$\zeta_2$、$\zeta_3$が決まった。

 どちらの場合にも、解を足したり引いたりする操作とべき乗の操作を組み合わせて、方程式の係数で表せるようにした。このときに、解の組み合わせが対称群で不変になっているようにすることが重要だ。対称群で不変なものは、かならず方程式の係数で表すことができるからだ。$2$次と$3$次の方程式のときには実際にそうなっていたが、どんな次数の方程式でもこれは成り立っている。解を足したり引いたりする操作とべき乗の操作を組み合わせたものを、方程式の係数で表すことができれば、これを逆にたどれば、解が見つかる。べき乗の操作は、べき根をとれば逆にたどれるし、足したり引いたりする操作も、引いたり足したりすれば元に戻せる。

 これからわかったことは、「解を足したり引いたりする操作とべき乗の操作を組み合わせて、解を入れ替える対称群で不変になるようにできれば、方程式は解ける」ということだ。$2$次と$3$次の方程式のときには、確かにそうなっていた。$2$次方程式では、$(\zeta_1 + \zeta_2)$と$(\zeta_1 -\zeta_2)^2$がその組み合わせだったし、$3$次方程式では、$\beta_0$、$(\beta_1^3 + \beta_2^3)$、$(\beta_1^3 - \beta_2^3)^2$がその組み合わせだった。


* * *
 

 ラグランジュは、このように、方程式の解の入れ替えに注目することで、方程式が解ける理由を説明した。ガロアは、これからさらに進んで、その理由が、$S_2$や$S_3$という対称群の性質によるものであることを明らかにした。そもそも、入れ替えの対称性をまとめて、「群」というものを考えたのはガロアが最初だった。

 $2$次方程式のときに、$S_2$不変な組み合わせができたのは、$S_2$が$1$と$\Gamma$だけでできていたからだ。だから、$\Gamma$で不変な組み合わせを作るだけでよかった。これが、$(\zeta_1 + \zeta_2)$と$(\zeta_1 -\zeta_2)^2$だった。

 $2$次方程式の場合は、話が簡単すぎて、対称群のありがたみがわかりにくいけれど、$3$次や$4$次方程式のときには、ご利益が明らかになる。

 さっき、対称群$S_3$は、$\Omega$と$\Lambda$という$2$つをネタに作ることができるという話をした。この$2$つのネタは、$\Omega^3=1$と$\Lambda^2=1$という簡単な性質を持っている。また、$\Omega$と$\Lambda$は交換しない(掛ける順番を変えると答えが変わる)けれど、$\Lambda \times \Omega = \Omega^2 \times \Lambda$となっているので、対称群$S_3$は、実質的に$2$つの群$\{ 1 , \Omega , \Omega^2\}$と$\{ 1, \Lambda \}$に分解できる。第$2$節で、$S_3$の$6$通りの入れ替えが、

\begin{align} 1, ~ & \Omega, ~~~~~~~ \Omega^2 , \nonumber \\ \Lambda , ~ & \Omega\times \Lambda, \Omega^2\times \Lambda , \nonumber \end{align}

と表現できたのはそのためだ。

 これを見ると、対称群$S_3$が、$\{ 1 , \Omega , \Omega^2\}$と$\{ 1, \Lambda \}$という$2$つの簡単な群の組み合わせでできているのがわかる。まず$\{ 1, \Lambda \}$という群があって、そこに左から$\{ 1 , \Omega , \Omega^2\}$を貼り付けると、$S_3$の$6$通りの入れ替えが全部できるようになっている。ロシアのマトリョーシカ人形は、胴のところで上下に分けることができて、それを開けると中に少し小さい人形が入っている。その人形を開けると、その中にもっと小さい人形が入っている。対称群$S_3$も、このマトリョーシカ人形のように、$2$つの群が「入れ子」になっているんだ。

 このことを使うと、$3$次方程式の解の、$S_3$での不変な組み合わせが作れる。まず$\Omega$で不変な組み合わせ$\beta_0$、$\beta_1^3$、$\beta_2^3$を作っておいて、次に$\Lambda$で不変な組み合わせ$\beta_0$、$(\beta_1^3 + \beta_2^3)$、$(\beta_1^3 - \beta_2^3)^2$にすればいいんだ。こうした組み合わせは$2$乗と$3$乗だけを使ってできているので、$3$次方程式は、これを逆に戻すための平方根と立方根だけで解けることになる。

 では、$4$次方程式ではどうだろう。このときには、$4$次の対称群$S_4$が問題になる。$2$次の対称群$S_2$は$1$と$\Gamma$の$2$つでできていて、$3$次の対称群$S_3$は$6$通りの入れ替えでできていた。$4$次の対称群$S_4$になると、$24$通りの入れ替えがある。これらは、$\Lambda_1^2=1$、$\Lambda_2^2=1$、$\Lambda_3^2=1$、$\Omega^3=1$を満たしている$\Lambda_1$、$\Lambda_2$、$\Lambda_3$、$\Omega$を使って、

\begin{align} & \Lambda_1^n \times \Lambda_2^m \times \Omega^r \times \Lambda_3^s \ , \nonumber\\ &(n=0,1; m=0, \nonumber \\ &~~ 1; r=0,1,2; s=0,1) \ , \nonumber \end{align}

と入れ子のように表すことができる。確かに組み合わせは全部で$2 \times 2 \times 3 \times 2 = 24$通りになっていて、$S_4$の入れ替えの数と一致している。言い換えると、対称群$S_4$は、$4$つの簡単な群、$\{ 1, \Lambda_1 \}$、$\{ 1, \Lambda_2 \}$、$\{ 1 , \Omega , \Omega^2\}$と$\{ 1, \Lambda_3 \}$が、入れ子になってできている。ここで「簡単な群」というのは、ひとつの入れ替えのべき乗だけで、$\{ 1, $ $\Omega,$ $ \Omega^2 ,$ $ \cdots ,$ $ \Omega^{p-1}\}$となっているということだ。数学では、このような群のことを「巡回群」と呼んでいる。

 $4$次の対称群$S_4$のこの性質を使うと、$4$次方程式の解の$S_4$で不変な組み合わせが作れる。$4$つの解から始めて、

(1)まず$\Lambda_1$で不変な組み合わせを作り
 (これは$2$乗を使えばできる)、

(2)次に$\Lambda_2$で不変な組み合わせを作り
 (これも$2$乗を使えばできる)、

(3)次に$\Omega$で不変な組み合わせを作り
 (これは$3$乗を使えばできる)、

(4)最後に$\Lambda_3$で不変な組み合わせを作ればいいんだ
 (これは$2$乗を使えばできる)。

こうしてできた組み合わせは、対称群$S_4$で不変なので、$4$次方程式の係数で書けることが保証されている。そこで、これから逆にさかのぼれば、もともとの$4$つの解も、方程式の係数で表せる。これが$4$次方程式の解の公式だ。不変な組み合わせを作るときに使っているのは、$2$乗と$3$乗だけなので、これを逆にさかのぼるのに必要なのは、平方根と立方根だけ。これで、『アルス・マグナ』に記載されていたフェラーリの公式が再現できる。

 

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