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2014.07.10

第11回

ゴール裏でガイドたちが考えていること

岡田 仁志

ゴール裏でガイドたちが考えていること

  Avanzareつくばの連覇で幕を閉じたブラインドサッカー日本選手権大会(6月28~29日)を、私はガイド(コーラー)に焦点を当てて観戦した。ゴール裏から声で選手をサポートするガイドは、このサッカーに特有の存在だ(※)。しかし観戦中はどうしても選手のプレーに目を奪われるので、ガイドが何をしているのかはあまり注目されない。私自身、これまで彼らの発する言葉にさほど耳を傾けてこなかったので、前回のコラムで自ら書いたとおり、「耳をすまして」みたのである。

 印象的だったのは、この大会で準優勝を果たしたラッキーストライカーズ福岡の三原健郎が、FC長野RAINBOWとの試合(グループリーグ)で先制ゴールを決めた場面だ。ドリブルでゴールに迫った三原に対して、福岡のガイド・藤井潤がかけた言葉は「来てる来てる!」だけだった。敵のDFが迫ってるぞ、という意味である。

 ガイドの役割は、まず第一に「ゴールの位置を知らせること」だ。だから、経験の浅いガイドは「ゴール、ゴール」と連呼する。私も練習の手伝いでガイドをやったことがあるが、まあ、それだけで精一杯だ。だが、ガイドが声を出せばそこがゴールだとわかるのだから、どうせ何か言うなら、もっと役に立つ情報を選手に与えたほうがいい。そこで少し経験を積んだガイドは、ボールを持った選手にゴールまでの「距離」や「角度」を伝える。「8メートル、45度!」「6メートル、角度ない!」といった具合だ。

 しかし、日本代表チームでもガイドを務める藤井は、「距離や角度は選手が自分でわかるようになってほしい」と言う。ガイドが距離や角度だけ伝えたのでは、選手が「自分とゴール」の位置関係しか把握できないからだ。それでは、次のプレーを正しく選択できない。どちらの方向にドリブルすべきなのか、シュートするのかパスを出すのかといった判断には、敵や味方の状況に関する情報が必要だ。それをガイドが与えようと思ったら、距離や角度を伝えている余裕はない。

日本選手権の決勝(対Avanzareつくば)でゴール裏から戦況を見守るラッキーストライカーズ福岡のガイド・藤井潤。1-0の接戦を制したAvanzareつくばが優勝した。

 だから藤井はチームの練習中も、距離や角度を伝えないそうだ。選手がシュートを打った後に、「今どこから打った?」と聞くなどして、選手が「自分のポジション」に対する感覚を養えるようにしている。三原のゴールは、そんな練習の賜物だろう。もし藤井が敵の接近を知らせていなければ、三原はすぐにシュートを打たず、チャンスを逃していたかもしれない。距離や角度は自分で判断できたからこそ、ガイドからの情報を生かして、絶好の位置から絶妙なタイミングでシュートを放つことができたのだ。

 優勝したAvanzareのガイド・神山明子も、距離や角度はあまり伝えない。選手がボールを持ったときはその位置を教えるが、「自分の位置がだいたいわかる選手が多いので、あとは次のプレーにつながる情報提供を優先します」と言う。ただし神山の場合、伝える内容は選手のレベルや要求に合わせるそうだ。

「ゴールまでの距離だけ知りたい選手、角度だけでいいという選手、それは必要ないから周囲の状況を教えてくれという選手など、求められる情報はさまざまですね。シュートのときゴールの中央にいてほしい選手もいれば、シュートコースに移動して声を出してくれという選手もいます。すべて個別に対応するのは難しいけれど、選手に必要な情報はできるだけ伝えたいと思っています」  ゴールの位置、選手の距離や角度、周囲にいる敵や味方の状況――これらはいずれも、ガイドが選手の「目」となって与える視覚情報だ。しかしガイドは、時に選手の「頭」にもなる。選手が「次に何をすべきか」を判断し、指示するのである。ガイドというより、コーチの役割に近いと言っていいだろう。

 だが、これについては「どこまでガイドが指示すべきか」が難しい。よく言われるように、サッカーは「自由なスポーツ」だ。ルール上の制約が少ないので、あらゆる場面に数多くの選択肢がある。ボールを持ったとき、ドリブルで前進するのか、味方にパスを出すのか、シュートを打つのか……といった判断は、ふつうのサッカーでは基本的に選手自身の役目だ。それがサッカーの楽しさでもあるだろう。

 

※日本では「コーラー」と呼ぶことが多いが、ルール上の正式名称は「ガイド」。ブラインドサッカーでは、GK、監督、ガイドそれぞれのガイドエリアが決められており、ゴール裏のガイドは相手ゴールからセンターラインに向かって3分の1のエリアにいる味方選手に指示を出すことができる。

 

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