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2014.06.13

サラリーマンの残業代を0円にする
ホワイトカラーエグゼンプションの真の狙い

渋谷 和宏

サラリーマンの残業代を0円にする<br />ホワイトカラーエグゼンプションの真の狙い

 どれだけ長時間働いても、ホワイトカラー(事務職)のサラリーマンは残業代や休日出勤手当を1円ももらえない時代がやってくるかもしれない。
 管理職でなくても高い専門性を持ち、いつ、どのくらい働くか自分で労働時間を管理できる社員には仕事の成果に応じた給料を支払い、たとえ深夜まで働こうが深夜手当や残業代を払わないでいい──いわゆる「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入に政府が本気で取り組み始めたのだ。
 この5月28日に開かれた産業競争力会議で安倍首相が検討(というか導入)を指示、政府は来年──2015年1月召集の通常国会で法改正する方針を打ち出した。
 対象者は当初、「職務が明確で高い能力を有する者」で「少なくとも年収1000万円以上」にとどめる見通しだが、いずれ若手にも広げていくだろう。
 そうなったらホワイトカラーは合法的なサービス残業を強いられかねない。私たちはどうすればいいだろうか──。

 知っての通り、労働基準法は1日8時間、週40時間を超えて社員を働かせた場合、「企業は役員や一部の管理職を除くすべての社員に残業代を支払わなければならない」と定めている。私たちが残業代や深夜勤務手当をもらえるのは労働基準法による労働時間規制があるからだ。
 ホワイトカラーエグゼンプションは、この規制をホワイトカラーについて「除外する」つまり「エグゼンプションする」政策にほかならない。
 政府はなぜこんな「サラリーマンの残業代を0円にする政策」と批判されても仕方がない規制緩和を行おうとしているのか。その目的を安倍首相はこう説明する。
「無駄なダラダラ残業を無くし、自分のペースで柔軟に働けるようにして、先進国で際立って低いホワイトカラーの労働生産性を高める」
 この説明に納得できた読者はほとんどいらっしゃらないのではないだろうか。仕事が終わらないから残業しているのであって残業代を稼ぐためにダラダラ仕事をしているわけではない──そう反論したくなる人も少なくないはずだ。
 確かに日本のホワイトカラーの労働生産性(一定の労働時間でどれだけの利益を生んだかを示す値)は低い。OECD(経済協力開発機構)の調査では日本は1994年から19年間、アメリカやイギリスなど主要先進7か国中、最下位であり続けている。
 しかし、その原因がすべて無駄なダラダラ残業にあると断定するのは明らかに言い過ぎだろう。ダラダラ残業以上に労働生産性の足を引っ張っているのは無駄な会議や長時間会議、働かない中高年や名ばかり管理職の存在である。
 このこと──無駄なダラダラ残業が低い労働生産性の主因ではないことは、政府や産業競争力会議のメンバーたちもきづいているはずだ。とりわけ企業トップのメンバーが知らないはずはない。

 それなのになぜ政府はホワイトカラーエグゼンプションに前のめりなのか。
 ホワイトカラーエグゼンプションが政府内で議論されるようになったいきさつを振り返ると、その狙いがくっきりと見えてくる。
 きっかけは産業競争力会議の民間議員である長谷川閑史(やすちか)武田薬品工業社長(経済同友会代表幹事)の提案だった。今年4月22日に開かれた経済財政諮問会議との合同会議で「多様で柔軟な働き方を可能にするために、労働時間と報酬のリンクを外す新たな労働時間制度の創設を」と訴えたのだ。
 安倍首相はこの提案を受け、さっそく具体案の作成を関係省庁に命じた。おそらく長谷川氏と安倍首相の間で事前のすり合わせがあったに違いない。

 経済同友会は日本経済団体連合会(経団連)、日本商工会議所と並ぶ経済三団体の一つである。2012年末の総選挙で安倍総裁(当時)が打ち出した大胆な金融緩和策に対して、経団連の米倉弘昌会長(当時)が「無鉄砲だ」と批判して以来、経団連が政権から疎んじられるのとは対照的に安倍政権の経済・産業政策への影響力を増していた。
 また経済同友会は、電力や製鉄などいわゆる重厚長大型企業が集う経団連と比べると、武田薬品工業や三菱ケミカルホールディングス、ローソンなどグローバルに事業を展開する企業の存在感が強く、先ほどの長谷川氏やローソン会長の新浪剛史氏(副代表幹事)といった海外駐在や留学経験のある国際派が要職に就いている。
 それだけに、「このままだと日本企業は国際競争に負けてしまう」という危機意識が経団連のメンバーよりも強い。人事制度や経営システムをグローバルスタンダード(というよりは英米企業のスタンダード)に近づけるべきだとの意見の持ち主も数多く、1990年代に始まった社外取締役の導入や報酬委員会の設置といった日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)改革は、日商岩井会長(当時)の速水優氏や富士ゼロックス会長(当時)の小林陽太郎氏ら、当時の経済同友会トップの主導で進んだ。
 ホワイトカラーエグゼンプションもそんな彼らの危機意識の表れにほかならない。グローバル競争の厳しさを肌で感じている彼らは、「このまま賃金が高止まりしていては競争力を失ってしまう」「硬直的な労働時間規制のままでは世界では戦えない」と痛感し、労働時間と報酬のリンクを外してほしいと訴えたのだ。
 そして、この政策は安倍政権にとっても歓迎すべきものだった。
 安倍政権の経済・産業政策は基本的に経済界・投資家を向いている。彼らの要求に応える政策を打ち出せば、株価が上がり、その資産効果によって景気が上向き、政権への支持率が高まる──アベノミクスの成功体験がそんな思考回路を形作ったのだ。ホワイトカラーエグゼンプションもその例外ではない。

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