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2014.06.06

第4回

すべて見ている

松本キック

すべて見ている

 コンビニの支払いに石ころを出してみた。
 くるみパンにカフェラッテにでん六のコーンチョコ。茫然とする店員のバイト学生。  数秒後、怒りと怖れを抱いた439円の顔がのどを震わせた。
「あのう……この石ころじゃダメですか」
「はあ??????」
「石ころじゃ買えないですか」
「はぁ……! お金でお願いします」
 殺意のため息を吐き捨てた439円顔。ボクはポケットから500円玉を取り出し、もう一度聞いてみた。
「どうして、このお金と言われるものじゃないといけないんですかね」
「はぁ? 常識じゃないですか、社会の」
 常識……。本当にそれらの色模様紙や円形金属が価値あるものなのだろうか。常識という一言でなんの疑いもなく信じてしまっていいのだろうか。もしかしたら、その辺の石ころがとんでもない価値を持っているかもしれないじゃないか。
常識。
 生きていく為の一般知識、当然のこと。一方、目にも見えない手でも触れられない不確かなもの。
 ボクは考える。本当の唯一の常識とは「人は死ぬ」ということだけではないのだろうか。
 コンビニを出る時、439円顔がボクを呼び止めた。
「これもって帰ってよ」
「ごめんなさいね」
 ボクはそう言い残し、価値ある石ころをポケットにしまい込んだ。


 部屋を整理していたら、20年ほど前に書いた文章がいくつか見つかった。これはその内の一つ。つたない文章だけど、改めて読んでみると自分でも新鮮だったので載せてみた。ちなみに439円顔というのは、会計が439円ということ。439円の売り上げを死守するためだけに作られた店員の形相だ。
 言いたいことはともかく、こんなことをして、よく何のお咎めもなかったものだ。バイト学生もよく付き合ってくれたし、時代として許されたのだろう。今の時代に同じことをしていたら、不審者として通報されていてもおかしくない。
 どこへ行っても監視カメラが見ている。良いことも悪いことも区別することなく、機械的に人を捉え、今という時代を無機質に映し続けるカメラ。犯罪の証拠として有効に活用されるが、犯罪を抑止する効果も少なくない。
 昔は、『神様がぜんぶ見ている』と言って抑止をした。神様が見ているから「悪いことは止めよう」と罪を犯すことを留まらせた。そのポジションは神様の専売特許として不動だったが、今や監視カメラに取って代わられている。
 神様はどう思っているのだろう。仕事が減ったと喜んでいるのか、威厳が薄れたと嘆いているのか。でも、機械的な抑止の方が問題が起こらないということもある。今の社会に照らし合わせると、たとえ神様とて、『ぜんぶ見ている』という行為は、いろんな問題を孕んでいる。おそらく神様は、了解を得ず、人の生活すべてを見ている。了解を得ていないということは覗きに当たり、これは明らかに軽犯罪法違反となる。
 王子が、本当に白馬に乗ってやってきたら道路交通法違反、天使が裸でラッパを吹いていたら公然猥褻罪に当たるのと同じようなものだ。今の世のルールにそぐわない。もし神様が、ある女性のすべてを見ていたという罪で訴えられたら、裁判でどう釈明するのだろう。
 

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