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2014.05.12

第13回

微積は積分から 前編

大栗 博司

微積は積分から 前編

 高校の数学に出てくる微積こと微分と積分。「何?この変な記号」「何やってんのかさっぱり分かんない」と思いながら、イヤイヤ機械的に練習問題を解いていた人はいないでしょうか? 歴史をさかのぼれば、積分は微分より1800年以上も前に登場。しかも、それを編み出したのは、「分かった!」と叫んでお風呂を飛び出したエピソードが有名なアルキメデスです。アルキメデスはなぜ積分の計算法を発明したかったのか……から始める、まさに生きた、血の通った、微分・積分のお話です。

 

第$11$回の「宇宙のかたちを測る 前編」の話の初めに、紀元前$3$世紀の第二次ポエニ戦争で、カルタゴの名将ハンニバルがアルプス山脈を越え、北からローマ共和国に攻め入った話をした。しかし、ローマ軍は持久戦に持ち込む。そして、地中海の制海権を確保するために、カルタゴの同盟国であるシチリア島の都市国家シラクサを攻めた。

 シラクサを包囲したローマ軍を迎えたのが、古代世界最高の科学者といわれるアルキメデスと、彼が発明した数々の兵器だった。アルキメデスは、投石器の投げた岩が放物線を描いて着弾する点を、幾何学の方法で予測することができたので、彼の投石器にはブラインド・スポットがなかった。城壁に近寄ることができなかったローマ軍は、包囲網を解いて一時撤退せざるをえなかった。

 しかし、シラクサではアルテミス女神の祭日に宴が開かれ、見張りの中には持ち場を離れるものも現れた。密告者によってこれを知ったローマ軍は、少数精鋭の兵に城壁を乗り越えさせる。城門が開くと、$1$万のローマ兵がなだれ込んできた。その後のアルキメデスの運命は定かではない。

 シラクサ包囲戦から$1$世紀以上たった紀元前$75$年に、ローマの属州となったシチリアの財務官キケロは、アルキメデスの墓を探した。彼の見つけた墓には、球とそれに外接する円柱の図が刻み込まれていた(図$1$)。球の体積は、それを包む円柱の体積の$2/3$であるという発見を表すものだ。アルキメデスは、数々の実用的な発明でも知られているが、彼が最も誇りに思っていたのは純粋数学の発見だった。アルキメデスが自ら設計したといわれる墓の姿も、それを物語っている。


* * *
 

 積分の研究は、面積や体積を測るために発達した。土地の大きさを測って徴税をするためには面積の計算が必要になるし、穀物倉の容量を測ったりピラミッドなどの建築に必要な材料を見積もるためには体積の計算が役に立つ。アルキメデスは、放物線や円のような曲線で囲まれた図形の面積や、球面で囲まれた体積を計算することもできた。アルキメデスの墓に刻まれていた球と円柱の体積の関係は、そのひとつだ。

 アルキメデスは、第二次ポエニ戦争の前に、積分の方法をパピルスに書き記し、シラクサから船に乗せて、アレクサンドリアの大図書館の館長であったエラトステネスに送った。この手紙は次のように始まっている:

「エラトステネス君、僕は君が勤勉で、哲学のよき教師であり、また数学の研究に大いに興味を持っていることを知っているので、僕が見つけた特別な方法を書き送ることにした。ここで説明する方法を使って、僕らがまだ知らない定理を見つけることができる人が、現在もしくは将来に現れるだろうと思う。」

 この書き出しのため「方法」として知られているこの手紙が、図書館に保管されていたことは、$300$年後の紀元1世紀に数学者で工学者のへロンが借り出して読んだという記録からわかっている。アルキメデスが友人たちに送った手紙の多くは、ローマ帝国の崩壊とともに散逸してしまったが、その一部はビザンチン帝国の時代に羊皮紙に写本された。これらの写本も$1204$年に首都コンスタンチノープルが十字軍によって略奪されたときに持ち去られ、その後の行方がわかっているのは三冊だけだ。その一冊は$1311$年以来行方不明、もう一冊はルネサンスの時代にレオナルド・ダ・ビンチなどにも影響を与えたといわれているが、$1564$年以降の記録はない。

 現在、僕たちがアルキメデスの「方法」を直接知ることができるのは、最後に残された三冊目の写本のおかげだ。この写本は$20$世紀の初めに発見され、それを解読したヨハン・ハイベルクによって、アルキメデスの数学の全貌が明らかになった。その後、一時行方不明になっていたが、$1998$年にクリスティーズのニューヨーク競売場に現れ、匿名の個人が落札した。彼は、写本を購入しただけでなく、その補修と解読に多額の費用を投じ、現在ではそのデジタル・イメージをウェブで見ることもできる。

 今回は、アルキメデスの「方法」を現代数学の言葉で解釈しながら、積分の考え方を説明しよう。その後で、微分の話をする。

 

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