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2014.05.06

第3回

局地的満員電車

松本キック

局地的満員電車

 ゾワゾワゾワっと、人間の集団が乗り込んできた。
 JR高田馬場駅、山手線外回り、月曜、午後4時過ぎ。

 新宿駅から山手線に乗ったボクは、トークイベントに出演するため、会場のある池袋へと向かっていた。車内は込み合うほどではなかったが、座席はほぼすべて埋まっている。居眠りをしているサラリーマン、右手で携帯を操作しながら友達とも話す女子高生、『老』がつきはじめたばかりの夫婦に、抱っこ紐で胸に赤ちゃんを匿った新人ママ、青い目をした大柄な西欧人はTシャツ姿で小さな地図を広げ、ギターを持った革ジャンの兄ちゃんは気の弱さを悟られまいと長くない足を目いっぱい広げていた。いろんな容姿をした人生が、まるでテトリスのブロックのよう座席に隙間なく嵌っていた。

 つり革にもいくつかの人生がぶら下がっている。イヤホンで音楽を聴くあごひげ男、つり広告の見出しをはしごする営業マン、スマホのゲームを止められないOLに、天井の一点をじっと見つめる壮年男。車内に設置されたつり革の、およそ4分の1がいろんな手に握りしめられていた。

 その光景をボクは、ドアの端に立って見つめていた。ドアの端はお出かけマップにも載っていない人気スポットで、座席が空いていても好んで生息する人がいる。ドア付近にはボクも含め5、6人が立っていた。車内の混み具合としてはそこそこ、7割くらいの乗車率。ボクは余裕のある空間で池袋まで揺られるはずだった。

 満員電車、ボクが何よりも嫌う代物。毎日乗っている人には「好きで乗ってる訳じゃねえよ」と叱られそうだが、満員電車に乗るとボクはいつも疲弊してしまう。感覚で言わしてもらうなら、乗り合わせてしまった後、3日分くらい疲れてしまう。物理的に人が近い。それ以上に、人間が放つマイナスの感情を近くで受けてしまうのだ。
『押すんじゃねえよ』『もうちょっと奥行ってよ』『臭いんだよ』

 密集した空間でギスギスした感情が攻めぎ合う。もちろん全員そうではないが、他のシーンに比べ、圧倒的に良からぬ感情に触れる率は多くなる。マイナスの感情を持った人は肘やカバンの角など、尖った部位に念を込め、気に食わない人の背中に押しつける。無言で。圧力を。

 ボクも何度か押しつけられた経験がある。負の怨念を押しつけられるとこちらも同じ感情に染まってしまう。『なにすんだこの野郎』と、反射的に悪い念が噴き上がってくる。そんな気持ち、欲しいと意識していないのに。

 どうせ圧をかけるなら、凝り固まった肩のつぼを指で押してくれればいいのに。なんなら乗っている皆でつぼを押し合えばいい。とにかく目の前にある誰かの肩を指圧する。自分も後ろの誰かに指圧してもらう。嫌がる人もいるからつぼ押し専用車両を作り、輪になって指圧し合う。満員電車で気分爽快、体も全快、思わぬ展開恋落ちて!
「いや~、こないだ満員電車のつぼ押し会で知り合った子と今からデートなんですよ!」

 そうかい、そうかい、あぁそうかい。会社帰りに買い物行って、高い高いごはんおごって、酒をあおって愉快、痛快、視界ぼやけて、階段落ちて顔面崩壊。
「でも後悔してないんです!」

 知るかい、アホかい、聞いてないわい! 書いてるうちになんじゃこりゃ。天網恢恢、奇奇怪怪。続きは次回でって続くかいな。
 思わず話が脱線してしまった。失礼。

 とにかくボクは満員電車が嫌いだ。できる限り乗りたくない。なのに、その日行われるイベントの集合時間は18時半、普通に移動すれば帰宅ラッシュにぶつかってしまう時間だった。ギューギューの電車はどうしても避けたい。寿司詰めにされるくらいなら、時間を無駄にしてもいいから早く行った方がましだ。移動がラッシュと重なる時、ボクはいつも、1、2時間早く家を出ることにしていた。

 新宿駅から乗った山手線は予想通り混雑していなかった。電車も順調に走っている。安心しきったボクは、ドアにもたれぼんやりと人間を観察していた。直後に、落とし穴がぽっかり口を開けているとも知らずに。

 午後4時過ぎ、電車が高田馬場駅に停車。ボクが立っていた側のドアが開くと、ホームに15人ほどの集団が待っていた。
『もしかして……』

 ホームにいる全員が乗れば確実にボクの周りはピンポイントで満員になる。まずい。退避しなければ。車内奥へと逃げようとした時だった。

 

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