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2010.06.15

第五十四回

「『冷たい怒り』とギスギスする女たち」の巻

堀越 英美

「『冷たい怒り』とギスギスする女たち」の巻

 PTAが怖い。

 いや、子供はまだ2歳なのでPTAとのご縁はないのだけれども、とかくPTAについては恐ろしい話を聞く。会社勤めのお母さんたちは、平日昼間に会合が開かれる役員の仕事はなるべく避けたい。しかし役員を避けてばかりいると、「仕事してるからって逃げないでよ!」と役員を押しつけられた皆さんが黙っちゃいない。そうした声に対し、「それは皆さんの旦那に言ってよ!なんで女ばかりが無償労働を引き受けなくちゃいけないの!」と反論しているキャリアウーマンの言い分も。確かに正論。でもそれを言ったところで、「そっかー。旦那に役員をやらせればいいんだ!」とは、まずならないだろうなあ。そうして「子供のため」という名目で無償労働を押しつけられた女性たちの寄り合いは、自然ギスギスに発展し……やだよう。ギスギス、怖いよう。

 実は去年一年間、保育園の会計監査役員を務めさせていただいたのだが、そうしたギスギスとは無縁だった。まず役員決めからして、5分とかからない。体育会系キャリアウーマンのオーラ漂うお母さんが「皆さんお忙しいでしょうからポンポン決めちゃいましょうね」と心強い仕切り。ここで数人の立候補があり、(さっすがキャリアウーマン、積極的だわ~人間力高いわ~)と感心していると、「あなた、やりません?」といきなりご指名が。あわてて「あ、はい。やります~」と返事をして、何をやるのかよくわからないまま役員になってしまった。会計の知識なんてまったくないんですけど、大丈夫なんですかね。私が指名されるくらいだから大丈夫なんでしょうね、きっと。幸い、父母が忙しいという前提で成立している保育園だからか、大した仕事はなくて助かった。

 伝聞でPTAにおびえているけれども、実際はPTAもこんな感じでゆるいのかもしれない。だといいな。公園デビューだって、メディアではあれだけ恐ろしいと煽っているけれども、大したことはなかった。少なくとも私は一つの公園に定住しない流しのオカンなので、その場にいる親子とは仲良く話すけれども、ギスギスを感じたことはない。むしろ皆さん、コミュニケーション能力の高いよくできたお母さんお父さんたちである。

 いや、一回だけすごい親子に出会ったことがあったっけ。娘を公園の砂場で遊ばせていたときのこと。いきなり娘の手からスコップを奪う3歳児が乱入。「●ちゃんの~」と所有権を主張する娘を、スコップで砂をばんばんかけて追い払おうとする。おもちゃの取り合いの経験はあれども、純粋イヤガラセを受けたことがない娘はびっくりして泣き出してしまった。わー、3歳児にしてすでにワルの風格たっぷり。お母さん、よくぞここまでワルに育てなすった。ていうかそろそろ叱ったほうがいいんじゃない?と母親をチラ見すると、どうやら日本人ではない様子。無言・無表情のまま、じっと男児を見つめている。その顔は開き直った放置親のそれではなく、感情をあらわにすることを諦めきった「無」の顔。しばらく「無」のたたずまいで立ち尽くしていた彼女は、子をむんずとつかみ、無言のまま尻でたたき出した。ギャンギャン泣きわめく男児。

 昭和の『婦人公論』脳の私は、すかさず彼女の人生を想像するのだった。豊かな暮らしに憧れて来日し、パブで働いているところを「若ければなんでもいい」という金満オヤジに見初められて結婚。ところが妊娠が発覚したとたんDVの嵐。絶望した彼女は国に帰ろうとするが、DV夫にパスポートを切り刻まれるはめに。父親が母親を殴るのを見て育った子供もDV男児化。夫の親族は外国人妻に白い目を向けるだけ。言葉がわからないからママ友もできず、相談する相手もいないまま次第に絶望にも無感覚になってゆき、ストレスを子供にぶつけるほかない日々……。

 そこまで想像して悲しくなり、いいよいいよ、お砂場道具貸してあげますよ、何だったら持っていってもいいですよ。どうせDV夫に財布をにぎられて子供のおもちゃも買ってあげられないんでしょ? さあ、しばし親子でご歓談を、とお砂場道具を残し、じょうろだけを手に娘と別の場所に移動することにした。すると男児もあとからトコトコ付いてくる。仲直りしたいのかな?と思いきや、そのじょうろを寄こせというジェスチャー。殺し尽くす、焼き尽くす、奪い尽くすか。1人三光作戦か。考えてみれば、「みんな仲良く」なんて平和な国の育児モットーにすぎず、『北斗の拳』さながら戦って奪い尽くせ、だけが生き延びるための唯一のルールだったりする国もあるのだろう。「愛や情は哀しみしか生まぬ…」という聖帝サウザーのごとき親にワルメン早期教育を施された結果がこれなのかも。それならそれで、覇道目指して健やかにワルく育ってね。私たち流しなんでもう会うことはないと思うけど。というかママ友について語るはずが、なぜ三光作戦と聖帝サウザーの話に行き着いているんだろうか。あまりにも世界観の違う人とは、そもそもギスギスしようがないということを言いたかった。

 私が経験した範囲で言えば、女集団のギスギスの原因はたいてい「冷たい怒り」である。「冷たい怒り」はessa氏というブロガーの造語なので、氏による語の定義をここに引きたい。

「冷たい怒り」とは「同調圧力に対する反発に対する意識化されない反発」である。日本のように同調圧力の強い社会では、この感情が社会的規範=同調圧力に対して適合的であるので、心的エネルギーが病的な水準まで高まっていても、行動の破綻が見られず顕在化しないことが問題である。多くの場合、同調圧力に同化する形での微妙な攻撃性となる。
「圏外からのひとこと(2003-10-17)」

 たとえば一般職女性が総合職女性に向ける「同じ女なのにお茶くみから逃れてズルイ!」という怒り。美容プレッシャーに追い立てられる人がモサい子に向ける「なぜ女のくせに努力しないの!?」という怒り。世代的に自由なファッションが許されなかった女性たちが若い女性に向ける「そんな格好してるから性犯罪に遭うんだ!」という怒り。そういえばベストセラー『負け犬の遠吠え』には、「子を産まない人達は贅沢三昧の生活をしているのに、子育てで苦労している私達と同じ年金をもらうのはやっぱりいかがなものか」という主婦の言葉が紹介されていた。贅沢できる独身女性は自力で税金も年金もたんまり払っているはずだし、そもそも年金は「子育てがんばったで賞」ではないのでこの理屈はおかしい。おかしいが、追い詰められた女性の怒りは、往々にして抑圧それ自体には向かわず、抑圧から逃れている同性に向かいがちだ。

『負け犬の遠吠え』には、「勝ち犬(専業主婦)」と「負け犬(勤労独身女性)」との違いを、「偉い」と「すごい」との違いなのだとするくだりがあった。「ワガママなお姑さん(夫)に仕えて偉い」「子供の学費のために低賃金のパートに出て偉い」の世界と、「お金をたくさん稼いですごい」「センスがよくてすごい」の世界。より正確には、「偉い」と「すごい」の違いは、男尊女卑を規範化しているか、していないかの違いと言えるのかもしれない。勝ち犬負け犬関係なく、「偉い」の世界の人々と「すごい」の世界の人々は、なかなか交わることがない。そして「偉い」の世界の住人は、住人同士でも「あそこんちは育児を怠けていたくせに県で一番の進学校に合格してズルイ」「私は出産前日まで働かされたのに今の若い女は大事にしてもらってズルイ」と、延々と冷たい怒りを燃やし続ける。これが女同士のギスギスの正体なんじゃないか。

 もちろん男性の世界にだって、「30時間くらいのサービス残業で会社を訴えやがって。俺なんか100時間だぞ」というような冷たい怒りの発動はあるだろう。しかしこうした意見にはすぐに「奴隷の鎖自慢だな」というツッコミが入り、冷たい怒りの主が覇権をとることはない。

 しかし女の世界では、「偉い」の世界の住人のほうが圧倒的に力を持っている。なぜならそのバックには、「男社会」という日本No.1組織が控えているからだった。「抑圧をなくしましょう!」よりは、「あたしが耐えてるんだから他の女も耐えろ」の価値観のほうが、組織には都合がいいに決まってる。バックがでかいからこそ、「偉い」の世界の住人は自信満々に他の同性を攻撃できるのだ。きっとPTAは女だけに無償労働が課せられる場だけに、「偉い」の世界の住人が活躍しやすいのだろう。とりわけ「無償労働は女がやってよね」というバックからの要請を、「子供のためにどこまでも自己を犠牲にして尽くす女こそが正義」という価値観にコンバートして内面化してしまった人がPTAに参加したら……。そりゃ、悪書追放もがんばるよねえ。

 と、PTAへの不安から逃れるためにギスギスの原因を解明しようと試みたものの、ますます不安は高まる一方なのだった。願わくば、これらすべてが私の妄想でありますように。 

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