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2014.04.10

第5回

障害者スポーツは「純粋で美しい」!?

岡田 仁志

障害者スポーツは「純粋で美しい」!?

 ツイッターやフェイスブックでは、しばしば「美談」が飛び交う。多くは出所不明で、実話もあればデマもある玉石混淆の世界だが、心やさしい善意の人々を瞬時にウットリさせるので、その拡散力はきわめて強い。視覚障害にまつわるウットリ話もある。少し前からツイッター上で盛んにリツイートされているのがこれだ。

〈ファミレスにて作業中。後ろの席のにぎやかな高校生男子集団が、メニューを片っ端から全部楽しそうに読み上げていくのでなんのこっちゃと思ったら、席に一人、白杖の子が混じってた。なんか泣きそうになった。最近涙もろい。だってさ、その子も含めて、本当にすごく楽しそうなんだよ。〉

 ふだん視覚障害者と接していない人々がこの話に共感するのは、ごく自然なことだ。目の見えない人のためにメニューを音読する人がいれば「なんて心がやさしいんでしょう」と尊敬し、障害があるのに楽しそうに振る舞う人を見れば「ケナゲだわ」と涙ぐむ。それが世間の良識だから、このツイートを見て「いやいや、それ、泣くところじゃないでしょ。楽しそうな人たちを見て、どうして泣きそうになるの?」なんてケチをつける私は、「人でなし!」と軽蔑されるかもしれない。

 だが、このような食事風景は、視覚障害者やその周囲にいる人々にとって、単なる日常だ(※1)。私も、ブラインドサッカーの選手と飲食店に入れば、メニューを読み上げる。外国のレストランで、英語のわかる人がわからない人にメニューを説明するのと同じこと。そうやって食事を楽しむ日本人を見て、「英語がわからないのに楽しそうにしてるなんて……」と涙ぐむ人はいない。ところが相手が障害者となると、なぜか「泣ける話」となってしまう。そこにあるのは「障害者は自らの境遇を常に嘆き悲しんでいるはず」という一方的な思い込みだろう。視覚障害者に不慣れな人々にとって、目の見えない人が楽しそうに暮らすのは「意外な出来事」だから、泣けるのである。

 これと似ているのが、「駅などで独り歩きをする白杖使用者に声をかけ、泣きながら手引きする人」だ。たまに、そういう人がいるらしい。「不幸」な人への同情心が涙を呼ぶのだろう。しかし手引きされる側は「不便」で困っているだけ。だから、「助けてくれるのはありがたいけど泣かれても困る」とフクザツな気持ちになるそうだ。障害者に対するウットリは、往々にして当事者をポカンとさせるのだった。

 ファミレスの高校生たちも、近くで知らない人が感動して涙ぐんでいたら「はぁ?」と戸惑うに違いない。私もファミレスで、白杖使用者4人をまとめて取材したことがある。白杖1人でも泣きそうになるタイプの人に見られたら、号泣されたかもしれない。いちいちそんな目で見られるのかと思うと、選手たちと飲み屋でバカ話に興じるのもためらわれる。選手たちも、隣の席で泣いてる人がいたら、うかつに毒も吐けない。シラケて酔いも醒めちゃうよ。

 もちろん、自らの境遇を嘆き悲しむ視覚障害者もいる。たとえば自分の目が不治の病に冒されているとわかったとき、絶望してヤケクソになる人もいれば、家に引きこもってしまう人も多い。ブラインドサッカーの世界にも、苦しんだ過去を持つ選手はいる。そのあたりの話は、拙著『闇の中の翼たち――ブラインドサッカー日本代表の苦闘』(幻冬舎)にも書いた(※2)。

 でも視覚障害者たちに聞くと、学校の友人と遊びに行ったり、白杖を持って独り歩きをする人の多くは、すでに悲嘆に暮れる季節を過ぎたからこそ、それができるのだと言う。「不幸」がゼロだとは思わないが、それは晴眼者も同じこと。パーフェクトに幸福な人間なんてどこにもいない。だが視覚障害者には、晴眼者にはない「不便」がある。だから手助けが必要なのだ。しかしファミレスや駅で初めて彼らと出会った人々は「いま自分が急に同じ状態になったら絶望する」と悲嘆し、相手もそうだと錯覚するから、見当外れの同情心を持つ。その勘違いが「ウットリ」と「ポカン」のギャップを生むのではないだろうか。

 

※1 「点字メニューがないのはケシカラン!」と腹を立てる人もいるだろう。しかし全盲の視覚障害者がみんな点字を使うわけではない。むしろ読めない人のほうが圧倒的に多いので、たとえ点字メニューがあっても音読不要にはならない。 

※2 4月11日に電子書籍版リリース。

 

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