毎日を1%ずつ新しく生きる! 刺激と感動のマガジン&ストア

★がついた記事は無料会員限定

2014.04.09

現役の税理士があぶりだす、〝マネー〟という怪物の正体

関口 苑生

現役の税理士があぶりだす、〝マネー〟という怪物の正体

『マモンの審判』宮城啓
小社刊/1300円(税別)

 物語において、敵役の存在というのはかなり大きな要素を占めるものだ。敵役=悪との対決は主人公の根源的な行動理由となり、何よりモチベーションを高める最高の推進力となるからだ。また、勧善懲悪の物語はあらゆる年代の読者層に無理なく受け入れられ、納得するものでもあった。

 ただし、この場合の敵=悪の存在というのが問題で、何を以てして悪とするのか、どういう事情で悪と断言できるのか……など、拠って立つ位置によって大きく異なってくる。かつては、単純にヒューマニズムやイデオロギーといった観点から二極分化されていた時期もあったが─たとえば冷戦時代における東西陣営の対立といった具合に、目に見える形での絶対的な敵役だ─いつの頃からか、次第に敵の正体が見えにくくなってきたのだった。というのも、冷戦が終わって敵がいなくなったはずなのに、世界は相変わらず争いが絶えず、貧富の格差は拡がる一方で、人々が重圧に苦しみ喘ぐ姿がいたるところで見られたのである。

 これは一体どうしたことだ、と思って不思議はない。しかしながら、今度の敵はすこぶる厄介な代物だったのだ。それはつまるところ、身内の錆とも言える、西側資本主義先進国の市場経済が生み出した〝マネー〟という怪物であった。こやつらはIT技術の発達により、いとも簡単に国境の壁を超え、世界各地を瞬時に渡り歩いて経済を混乱させ、紛争を煽り、富の偏在を実行してきたのだった。そこには思想もなければ信条もない。ましてや正義や理想などは、かけらもなかった。ただただ利益追求が絶対的な命題であり、人がどれだけ死のうが、はたまた企業が潰れようが国が滅びようが、何ら痛痒は感じないのであった。

 

 前置きが長くなってしまったが、本書が処女作だという作者が挑んだのが、この〝マネー〟という敵=悪との闘いである。

 発端は、欧州のベルクールというタックスヘイブン国にある銀行で、日本人が関与していると思われる裏口座が発見されたことだった。そこには1000億円近い大金が眠っていたのである。かりにこれが日本でのマネーロンダリングだとしたら、史上最大級の事件となる。情報を受けた警視庁刑事局は、即座に捜査を開始する。マネーロンダリングやテロ資金にかかる情報を分析、捜査する専門の部署(FIU)の出番だった。そこに監査法人から出向してきたという形で加わるのが、主人公の公認会計士・岸一真である。

 この人物の過去が興味深い。岸はかつて欧州最大と言われたM&Aファンドの、日本企業買収プロジェクト要員だったのだ。その当時、彼はアングロサクソン系の人種が圧倒的に支配するグローバル金融の世界に身を置くことで、ある種の優越感に浸っていたというのである。資本主義市場という「フェア」なマーケットを舞台に、世界を動かしている興奮に酔いしれていたのだった。だがその彼がインサイダー疑惑の参考人として事情聴取を受け、そうしたさなかに本社ビルが何者かに爆破される事件が起こる。といささか複雑な過去を持ち、今もトラウマを抱えているのだった。

 そんな人物が巨額のマネーロンダリングを捜査し、やがて投資を利用したファイナンシャルトリックを暴いていく。これが実に詳細に描かれるのだ。それもそのはずで、作者は現役の税理士であり、本書に描かれる投資トリックも実行可能なものだという。

 しかしまあ事が金融関係、それもかなり専門的な話に及ぶだけにわたしたち素人には複雑怪奇きわまりないと思える部分もある。ところが、そこを分かりやすく説明する工夫が素晴らしいのだ。と言っても難しいことではない。ミステリーでは基本中の基本と称していいだろうが、主人公がホームズ役となり、金の動きや投資の仕組みを説明していくと、ワトソン役の刑事がそれに応じてさらに分かりやすい言葉と例で解き明かしてくれるのである。決して作者の独り合点で物語を進行していくのではなく、読者と一緒にゴールへ辿り着こうとする努力が、行間から匂い立つように窺えるのだ。こういう作家は、まず間違いなく成長していく。

 そしてまた、本書の最大のテーマと言っていい〝マネー〟の正体にも鋭く言及する。つまり─

「おカネって何?」

 という問題である。カネと暇があったら、誰からも束縛されない生活ができるのか。それがカネが持つ最大の魅力なのか……。

 主人公がカネに対する思いは、次第に変化していく。その変化こそが、成長物語として本書を良質のものにしている所以だ。

 

『ポンツーン』2014年4月号より

★がついた記事は無料会員限定

関連書籍

書籍はこちら(Amazon)

関連雑誌

→小説幻冬の購入はこちら(Amazon)
→小説幻冬の購入はこちら(Fujisan)

記事へのコメント コメントする

コメントを書く

コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください

おすすめの商品
  • ピクシブ文芸、はじまりました!
  • 文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
  • 無理しないけど、諦めない、自分の磨き方
  • 時短、シンプル、ナチュラルでハッピーになれる!
  • ビジネスパーソンのためのマーケティング・バイブル。
  • 有名料理ブロガー4名が同じテーマでお弁当を競作!
  • ドラマこそ、今を映すジャーナリズム!
  • 砂の塔 ~知りすぎた隣人[上]
  • 小林賢太郎作品一挙電子化!
  • あなたがたった一人のヒーローになるためには?
朝礼ざんまい詳細・購入ページへ(Amazon)
文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
ピクシブ文芸、はじまりました!
エキサイトeブックス
今だけ!プレゼント情報
かけこみ人生相談 お悩み募集中!