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2014.04.09

第7回

パンラボ研究員のNY出張報告

池田 浩明

パンラボ研究員のNY出張報告


 東京のパン屋200軒を3年以上かけて取材したり、日本全国のパンの聖地を巡って旅したりと、パンに対して並々ならぬ愛情を持つライターの池田浩明さん。フランスでパンの魅力にとりつかれた池田さん、今回はアメリカのパン文化を研究すべくニューヨークへ。1日に5軒のパン屋さんを巡り、まさに“粉まみれ”となった1週間の食事から、厳選して紹介していただきました。出発前日からのレポートです!


3月8日(土)

 走り回っていてきちんと座って食べた記憶がない。そんなときでさえ、コンビニに立ち寄ればパンが食べられる。セブンイレブンでいちごホイップサンドを買って歩きながら食べた。食卓についたといえるのはロイヤルホストでドリンクバーを飲んだときだけ。北海道アグリシステムの伊藤専務と、アグリ社の粉を使う、カタネベーカリー、365日、ダンディゾンのパンについて語り合う。テーブルに食べ物は見えなかったが、その上にはおいしいパンの話が飛び交っていた。

 

3月9日(日)

ブルックリン側から見たマンハッタン橋   

 AM8:40 ブルックリン、ベルゲン・ベーグル。六穀、全粒粉、シナモンなどからベーグルを選び、クリームチーズや豆腐のペーストを中心にした30種類のスプレッドの中から好きなものを選んでサンドしてもらうシステム。冷蔵ケースの前に並ぶ、ビジネスマン、土木作業員、おばあさん。ベーグルは老若男女ひとしなみに彼らの胃の腑に入り、ビッグアップルを作動させる原動力となるのだ。プレーンベーグル + ロックス・スプレッド(サーモンクリームチーズ)。はじめて食べるNYベーグルは、硬いという先入観を吹き飛ばす。皮一枚で包まれた、そばがきならぬ小麦がき。たっぷりの水分を含んだくにゅくにゅの中身からは、北米産小麦の荒々しい穀物感が濃厚に立ち上った。

 

3月10日(月)

 ウエストビレッジのブルーリボン・ベーカリー。このレストランは地下に備えたオーブンで、フレンチスタイルの自家製パンを焼きだす。その瞠目すべきおいしさもまた、アメリカの豊穣なる大地が生みだす小麦の力が大と思われた。食卓を囲んだのは、NEW YORK BURGER MAP、NEW YORK DOUGHNUT MAPを現地で出版する松尾由貴さん、弱冠二十代そこそこの食ブロガーとして彗星のように現れ、大人たちを大騒ぎさせている平野紗季子さん、コーディネーターの大山幸希子さん。特に秀逸だったのは、ベーコンパンが添えられた牛の脊髄。コクのとろけに、脳みそがよじれるような快楽を覚える。牛の脊髄といえば、狂牛病の危険部位として輸入禁止のはずだが、アメリカで気にする者は皆無とのこと。

 

3月11日(火)

マンハッタンのベーグル屋のドアに貼られたシール。スモークサーモンはYES,(煙草の)スモークはNOという洒落だ   

 マンハッタン・チェルシーにあるサリヴァンストリート・ベーカリー。腕利きイタリア人オーナー、ジム・ラーイの名は日本でも知る人ぞ知るところ。カウンターであたためてもらったピッツァを受け取り、テーブルで食べる。揚げたような底面の香ばしさとさっくり感とコクのある小麦感のつながり。マッシュポテトとジャガイモのスライスを共存させたり、刻んだマッシュルームを大量にのせ真っ黒にしたり。自由なノリとライブ感にあふれるそのおいしさは記憶にないもの。同行したル・プチメックのオーナー西山逸成さん、ブーランジェリー ボヌールの箕輪社長も、この店は日本でも流行ると口を揃える。

 

3月12日(水)

 ロウワー・イーストのカッツ・デリカテッセンはコーシャー(ユダヤ教の戒律にのっとった料理)料理店。カウンターで皿をもらって、大空間の下の大テーブルで食べる、まるで学食。供するのは自家製のパストラミハムとコンビーフ。パストラミが湯気を吹き上げるのを見るのははじめてだった。薄荷の香りがするライ麦パンにマスタードを塗り、分厚く肉をはさむ。鮭のハラミのようにやわやわと身をよじらせるようにちぎれ、甘い肉汁をぐわぐわと氾濫させるこのパストラミは本能に直撃する。食卓を囲んだ誰もが遠慮して残していた最後の一切れをがむしゃらに奪いにいったのだった。
 

3月13日(木)

 3食機内食。シベリア上空で食べるキッシュ。小さな窓の向こう側、眼下に雪原が見えていた。ただ丘陵の上がり下がりと川の黒いくねくねがあるだけで、当然ながら人ひとり、動物一匹の姿も見えない。同じ風景が延々と3時間はつづいていただろうか。世界は広い。関東で降った先の大雪で大騒ぎしていた自分はなんとちっぽけだったことか。


3月14日(金)

 夕食に家で餃子を食べる。この日記がはじまる以前の1週間は、1日5軒のパン屋を訪ねパンを食べまくるという荒行を行っていた。思えば、2週間ぶりの米。それでもなお、餃子には小麦粉の皮がついているではないか。お天道様とともについてまわるものとは、私の場合、小麦なのかもしれない。

 

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関連書籍

『日本全国パンの聖地を旅する パン欲』(世界文化社)


『サッカロマイセスセレビシエ』(ガイドワークス)


『パンラボ』(白夜書房)

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