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2014.03.25

「マンガとは何か?」に答えた繊細なる知的蛮勇
三輪健太朗『マンガと映画―コマと時間の理論』

中条 省平

「マンガとは何か?」に答えた繊細なる知的蛮勇<br />三輪健太朗『マンガと映画―コマと時間の理論』<br />

『テヅカ イズ デッド』以来、最も重要な研究書

 今回は1冊のマンガ研究書を取りあげることにします。三輪健太朗の『マンガと映画―コマと時間の理論』(NTT出版)です。

 三輪健太朗は現在27歳で、学習院大学大学院・身体表象文化学専攻の後期(博士)課程に属する学生です。私はこの専攻で講師をしており、三輪氏の修士論文も審査しました。『マンガと映画』はその修士論文をもとに大幅に加筆増補したものです。私はこの本の帯に推薦の言葉を書いていますし、三輪氏を学生として知っていますが、そうした個人的事情から、本時評で『マンガと映画』を扱うわけではありません。

 その理由は、この書物が何よりも「マンガとは何か?」という根源的な問題に答えようとする知的な勇気を示し、驚くべき高水準でその解答の試みを実践しているからです。

 私の知るかぎり、『マンガと映画』は、伊藤剛の『テヅカ イズ デッド』(NTT出版、2005年)以来、最も重要な日本のマンガ研究書といえるでしょう。

 伊藤剛の『テヅカ イズ デッド』はマンガが描く作中人物を取りあげて分析し、現代のマンガの主流は、「キャラクター」という人間を模倣する存在から離れ、「キャラ」という人生や内面をもたない仮想現実的存在を積極的に用いるようになっていると論じました。マンガの読者は、キャラクターへの人間的共感よりも、キャラへの萌えのほうに大きな興味や価値を見出すようになったというのです。

 今から9年前に『テヅカ イズ デッド』が出たときには、この見解は非常に新奇なものに映りましたが、その後、現代マンガの研究が進むなかで、この本の主張はゆらぐことのない正統性を獲得することになりました。

「同一化技法」と「フレームの不確定性」

 伊藤剛はこの本の最後で、「同一化技法」と「フレームの不確定性」という二つの概念を論じています。

 同一化技法とは、マンガの作中人物と読者が同じものを見るように導く(その視線を同一化させる)作画法のことで、要するに、物語や作中人物への読者の感情移入を視覚的に操るためのテクニックです。

 もうひとつの「フレームの不確定性」という概念は、マンガにはコマとページ(紙面)という二つのフレームがあって、マンガではひとコマの絵を見ているときにも、ページというもうひとつのフレームを意識せざるをえないということです。つまりマンガは、映画のようにひとつのフレームを見つづけるのではなく、つねにコマとページという二つのフレームのあいだを往還しながら読み進まなければならないのです。ですから、「フレームの不確定性」という用語はいささか曖昧で、もっと正確には「フレームの二重性」というべきでしょう。

 それはともかく、同一化技法とフレームの不確定性という概念を用いて伊藤剛が主張しようとしたのは、戦後日本マンガの主流は、同一化技法を駆使して、読者の視線をコマからコマへと誘導することにもっぱら意を注いできたが、1980年代後半以降のマンガでは、コマからコマへという読者の視線を線状に進行させることだけを重視するのをやめて、コマとページというフレームの二重性を意識しながら、その仕掛けと戯れるようなマンガが増加してきたということです。

 つまり、手塚治虫流のスピーディに一方向に流れるストーリーマンガだけが主流であることをやめて、コマの枠線を複雑にいり組ませる少女マンガや、キャラが活躍する萌えマンガのようにページ(紙面のコマ構成)を用いて読者との共犯的遊戯を楽しむようなスタイルが好まれるようになっている、というのです。

 

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