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『野武士のグルメ』を味わい尽くす

2014.03.19 公開 ツイート

大根仁×久住昌之対談
第1回 「食」は、あれこれ悩む姿がおもしろい 大根仁/久住昌之

不本意な腹いっぱいは困る

大根 僕は基本、昼メシはひとりで食べることにしています。撮影などで時間が自由にならないとき以外は、昼メシを基準に1日の行動を考えてしまうんですよね。
 たとえば今日だと「午前は外出時間ギリギリまで事務所で仕事を片付けて、昼はこの対談に臨むから、途中で食事をするのは不可能。でも、15時前には終わるだろうから、近所にあるあの店でカレーを食べようかな……」なんて考えていた。ただ、いざ対談の席に着いてみたら、目の前にこんなに食べ物が置かれていたワケです。「まさか、ここで俺の段取りが崩れてしまうのか!?」「クッキーくらいは大丈夫か。イヤ、待て」みたいな葛藤と、いままさに闘っています。

おやつは、おいなりさん、クッキー、カツサンド、桜餅、おせんべいなど。でも、おふたりはいっさい手を付けられませんでした
 

久住 手を付けるべきか否か、いままさに食べ物のことで葛藤している状況というわけですね。

大根 ええ、まだ迷ってます。それにしても、井之頭五郎よろしく「誰にも邪魔されず、ひとりで優雅に食べる」時間は、実にいいものですよ。自分が食べたいモノを好きなように食べることへの思い入れは強いです。ときには、11時くらいから店を探してさまよい歩き、気付けば15時すぎなんてこともある。もっともそのころには「俺、そもそも何を食べたかったんだろう」みたいな気持ちになって、困り果てたりもしますけど(笑)。

久住 困るといえば、「不本意な腹いっぱい」ってありません? すごい残念な満腹感。僕は地方取材に行くことが多いんですが、先方が接待モード満々で待ち構えていることが多いんです。それはそれでありがたいことなんですが、着いた途端、昼から刺身とか珍味がバンバン出てくる……みたいな状況はときどき困るんですよ。
 たしかにうまいモノだけど、昼からは食べたくない、みたいなメニューもあるし。こんなにいっぱい出されても食べきれないなぁ、というのも残念。「ここに来るまでの新幹線のなかでお弁当食べちゃったよ」とかね。でも、残したら悪いし、高価なモノもあるし……と本当に困ってしまうんです。さらに昼の取材前なのに「お酒、いかがですか?」なんて。

大根 地方の激しい歓待は、ありがたいけど時々困りますよね。俺もトークショーで地方に招いていただいたりするんですけど、夜に案内してくれたのがフレンチやイタリアンだったりして(笑)。
 いや、嬉しいし、ありがたいことですよ。でも「本当は地元の人が行くような居酒屋に行きたいんだよ」なんて思うこともありますね。そこで地元のちょっとキレイなオネーチャンと知り合えたらいいな、くらいのことを夢想しているだけなのに。

久住 その気持ち、わかるなぁ。ちなみに、今日用意されているのは『野武士グルメ』の主人公が“野武士のおやつ”として食べるならこんな感じか……というテーマでスタッフが選んだものらしい。ボクは「ふーむ、そう来たか」という感じです。
 「久住は食についてこだわりがある人」みたいに思われることが多いんだけど、よく知ってる店で、同じようなものばかり食べてる感じです。“グルメ”みたいな斬り口で質問されたりもするけど、ちょっと困る。

大根 久住作品って、ありがちな“グルメ”視点ではないですよね。

久住 ええ。『野武士のグルメ』も『孤独のグルメ』も、たしかに「グルメ」って入ってるけど、世間でいわれているような“グルメ”をテーマにはしていないんです。そもそも、グルメというのは孤独じゃないものだから。
 一般的にいわれている“グルメ”は汎用的というか、誰が食べても「おいしい」といえるものを指すのだと思うんです。いわゆる「グルマン」とは、誰が食べてもおいしいものをよく知っている人ということ。つねに世間一般とも繋がっているんです。つまり『孤独のグルメ』は矛盾した表現なんですね。『孤独のグルメ』『野武士のグルメ』は、要するに自分だけの「食」であり、ニュアンスとしてはマイブームに近い。ですから、人それぞれでいいんです。
 きっと今回の“おやつ”も、僕らのことを考えて、このへんだろうなと選んでくれたワケでしょ? 僕は品物そのものより、選んだ人がどう考えたのか、ということのほうに興味がある。味というのは最後の結果でしかない。プロセスがボクにはドラマなんです。
 

(構成:漆原直行 撮影:菊岡俊子)

(第2回に続く)

 

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『野武士のグルメ』を味わい尽くす

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大根仁

1968年生まれ。ADとしてキャリアをスタートさせ、テレビ演出家・映像ディレクターとして、数々の傑作ドラマ、ミュージックビデオを演出。『劇団演技者。』『週刊真木よう子』『湯けむりスナイパー』など深夜ドラマでその才能をいかんなく発揮し、話題作を連発。業界内外から高い評価を受ける。テレビドラマや舞台の演出を手掛ける傍ら、ラジオパーソナリティ、コラム執筆、イベント主催など幅広く活躍する先鋭的なクリエイター。脚本・演出を手掛けたドラマ『モテキ』(テレビ東京)が2010年7月より放送開始し大ブレイク。待望の映画監督デビューを映画『モテキ』(東宝)にて飾り、映画界に参戦する。

久住昌之

1958年東京都生まれ。マンガ家、ミュージシャン。1981年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」の『夜行』でマンガ家デビュー。実弟・久住卓也とのユニットQ.B.B.作の『中学生日記』で第45回文藝春秋漫画賞を受賞。谷口ジローとの共著『孤独のグルメ』、水沢悦子との共著『花のズボラ飯』など、マンガ原作者として次々と話題作を発表する一方、エッセイストとしても活躍する。現在、幻冬舎plusにて『漫画版 野武士のグルメ 3rd season』(画:土山しげる)を大好評連載中。

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