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2009.05.01

雨宮塔子の食事日記25

雨宮 塔子

雨宮塔子の食事日記25

3月29日

「今日は『ラファイエット』が開いているから、見に行こう」
 久しぶりに休みを取った日曜日、夕方までどこにもでかけず、家でまったりとしていた彼が、おもむろにソファから起き上がった。
 パリは9区にある『ギャラリー・ラファイエット』が日曜日もオープンしている日が、年に数回ある。セール期間中だとか、今日のような冬と夏のセールの間の中間期。来客が遠のくこの時期に、なんとかまた呼び戻そうとする策のひとつなのだろうけれど、休みが取れたとしても日曜日だけの彼には、こうした機会でもないと家族でデパートのひとつにもでかけられない。
 とは言っても、お目当ては「ラファイエット・グルメ」と呼ばれる食品館の方。この人には普段、服を見に行く暇など1分もないくせに、こうして寸暇ができたとしても、その時間があるなら“食”の興味で満たしてしまいたいらしい。
“食”関係の人って、総じてそんな傾向があるんでしょうか? いや、モード関係の人で食にうるさい人は多いし、食関係の人でお洒落に興味がある人も知っている。以前、数回会ったことのあるアラン・デュカス氏なんて、お洒落でエレガントで本当に素敵だった。でもあれは、全身に漂わせているオーラのようなものが、あそこまで素敵に見せているのかもしれない。
 話がそれたが、私だって食品館をぶらつく方が楽しい。子連れで洋服を見るくらい、辛いものはないからね。以前もこうして家族でデパートにでかけ、子供たちを見ているから、たまには自分の洋服でも見てくれば、と単独行動を許されたものの、騒ぐわ泣き叫ぶわでお手上げとなった彼に、ものの10分も経たぬうちに携帯で呼び戻されたことがあったっけ。
 日曜日の夕方のデパートは、比較的空いていた。こんなご時世だからか、あるいは今日ここが開館しているのを知っている人が、少ないのかな。同行のさとちゃん(彼の仕事のパートナー)とワインを選んだ後、「ビザンス」のカウンターでグラスワインを傾けながら、どんぐり豚の生ハムをつまむ。子供たちもハイストールに腰かけながら、炭酸水で生ハムをつまむ。ちっ、生意気だ。うちの子供たちは父親と公園などで遊んだ記憶は少なくても、一緒に美味しいものを食べてる回数はかなり誇れると思う(どっちがいいかは別にして)。
「よし、さとし、食材を好きなだけ買ってくれ。今夜は任せた」
「うわーい、さとちゃんのごはん、久しぶりー!!」
 夫婦でかぶせる。
 そう、私と子供たちが日本から戻った時には日本へ一時帰国していたさとちゃんと、日曜を一緒に過ごすのは三カ月以上ぶりなのだ。
 料理の腕前は玄人はだしのさとちゃんは和・洋・中なんでもござれで、冷蔵庫にある食材でいつも気の利いたものを作ってくれる。この夜も結局「ラファイエット・グルメ」で購入したものはワインとフロマージュだけで、あとは、
「いいよー、家にあるもので何か作るよ」
 と堅実な妻役を引き受けてくれたのだった。
「塔子ちゃーん、家に何があるー?」
「うーんと、例のイベリコ豚のステーキ用肉を解凍してある他は、ほうれん草でしょ、にんじんに、あ、マッシュルームもあるよ」
「うん、だいたいいける」
 何と心強い返事。家に戻ると、さっそくキッチンに立つさとちゃん。

 イベリコ豚のステーキをメインに、できた前菜はマッシュルームとほうれん草を別々にソテーして、タプナードを伸ばしたソースでいただく温かいサラダ。ほうれん草の方にだけ、にんにくを効かせてあります。その間に茹でていたにんじんは、それじゃあステーキの付け合わせ?
 イベリコ豚のステーキは、前回のブログでも紹介しているけれど、ここでもさとちゃんと私の仕事ぶりの違いが出てしまうのだった。なんと、筋などを丁寧に取って、ステーキ用肉をきれいに掃除したさとちゃんは、その筋の部分の肉を捨ててしまわず、そのままエシャロットのみじん切りとにんにくと共に、小鍋の中に入れて、火にかけるではないか。小鍋の中に元から入っていた水分は、どうやら先ほどのマッシュルームを炒めた時に出た(煮)汁らしい。なるほど、即席のソースを作るのですね。なんでも勉強になるなぁ。
 煮詰まってきたソースにちょっとの水分とオリーブオイルをふりかけて伸ばしながら、
「このお肉は塩、こしょうだけで充分美味しいと思うけど、一応、ね。好みでかけたい人だけかければいいよ」とさらりと言い添えるさとちゃん。
 塩こしょうで下味を付けておいたステーキを両面こうばしく焼き、そのまま休ませている間、そのフライパンに残った肉汁で先ほど下茹でしておいたにんじんと、洗って切り揃えておいたにんじんの茎を炒めている。にんじんの茎!? 葉っぱの方は、私もじゃこと一緒に炒めたりして使ったことがあるけれど、まさか茎とは。さとちゃん、私がさとちゃんの代わりに彼の仕事を手伝うから、妻の役割を代わってくれ──!!
「塔子ちゃん、クミンない!?」
「クミン!? ないけどどうして?」
「にんじんにはクミンが欲しいな、と思って」
 すいまじぇ──ん。今度買っておきます。

 そうしてソテーしたにんじん&茎を敷きつめたお皿の上に、スライスして飾りたてられたステーキは、まるで星付きレストランの一皿のよう。これが本当に、1時間前に急に今晩のシェフに任命された人の料理なのだろうか?


 お味の方も、もちろん完璧。出来たての料理を堪能し、「ラファイエット」で買ったばかりの二種のフロマージュをワインで味わっている時、ふと彼がキッチンから戻ってこないことに気がついた。
 キッチンを覗くと、そこには昨日マルシェで買っておいたイチゴをフランベしている彼の姿が……。
「お──っと、デザートですかぁ!? プロが立ち上がったぁ」
 せっかくの彼の気勢を損なわない程度に盛り上げてみる。
 シャンパングラスに子供の朝食用のショコラ味のケロッグを注ぎ入れながら、彼がのってくる。
「題して、子供のお菓子で作るデザートでーす」

 ケロッグの次に、これまた朝食用のプレーンヨーグルトをスプーンで注いでいる。そこにバターときび砂糖、ハチミツとバルサミコブロン(先日ビオの見本市で買ってみたバルサミコは、白バルサミコ。ほんのりハチミツの風味がして絶品です)で軽くソテーした後、残った赤ワインでフランベしたイチゴを慎重に重ねる。ちなみにこの間、1回の味見もなし。ものすごい自信です。ここでさらに子供のおやつ袋の登場。これまたショコラ風味のクリスピーなお菓子、これを手でパリパリと砕いて散らしかけ、完成かと思いきや、また冷蔵庫を覗く彼。身をかがめてガサゴソやって手にしたものは、なんとセロリの葉っぱだー。色どりにピスタチオか、せめてパセリあたりが欲しかったのだろうけれど、セロリでいいのか!? 青木定治。
 その冷た温かいデザートは、色どりのはずのセロリの風味が時々漂うのは「?」としても、とっても美味しいのでした。日曜日を寝過ごされるのも、こういうフィナーレがついてくると、とても嬉しいものです。

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