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2009.07.15

雨宮塔子の食事日記30

雨宮 塔子

雨宮塔子の食事日記30

6月14日

「美食家の約束」という名のついたデギュスタシィオン(試飲、試食)の会に行ってきた。このブログでも私が“回し者”のように書き連ねているから、もうご存知の方もおられるかもしれないが、例の“どんぐり豚”のイベリコハムで名を上げた“BYZANCE”社の試食会だ。
 6月と11月の年に2回催される、この「美食家の約束」も、今回で12回目になるという。まだ6年と歴史の浅いこの試食会だが、前回顔を出してみて、出てくる食材のすべてがこれほど粒ぞろいの試食会は他にないのではないかと衝撃を受けた。パリへ来て10年。パリ郊外を含め、そこここで催される食品展や農業市に毎年のように出かけているけれど、このビザンス社のクオリティの高さに釣り合うようなものに出合ったことは一度もない。

 そんなわけで「美食家の約束」なるタイトルもけっして大仰ではなく、すんなりと腑に落ちたのだった。
 今回の試食会は南オーストラリアで4月から収穫が始まっているカキがメインだということで、出かける前から士気が上がる。生ハムやサーモン、キャビアやイクラの絶品ぶりは、何度となく体験しているけれど、ビザンス社のお目がねにかなったカキを味わうのは初めてだった。スペイン産の名品の目利きで有名なフィリップさん(ビザンス社オーナー)は、こんどは南オーストラリアに目をつけたのだ。南オーストラリア産なる生ガキとは、いったいいかなるものぞ!?

 デギュスタシィオン用のお皿の上で脂身がかすかに溶け出し、なやましく光っているイベリコハムを横目に、まずは本日の目玉、カキのブースへ向かう。そこには、氷の山の上にこんもりと並べられた生ガキが!! モンパルナスの“DOME”(魚介類で有名なレストラン)で見かけるようなものよりちょっと小粒で、丸みを帯びた形をしている。色味の方は、“DOME”の青みを帯びた白、とは違って、クリーム色がかった乳白色。見た目からなんとなくただ者ではないオーラが漂っている。そのカキの山の傍らにあったボードの地図で確認すると、収穫地は南オーストラリア州の州都の“アデレード”のようだ。
 さらに、6つの生ガキとバター付きパンとソーヴィニヨンのワインのセットで15ユーロと書かれたカードを見つけ、その場で、隣接したカウンターバーに腰を落ち着けることにする。それにしても、セットメニューのひとつひとつに抜かりがない。パンは“エリック・カイザー”、バターは“ボルディエ”(料理人から指名されることの多いバターのひとつ。少量生産が特徴です)と、細部までフィリップさんのこだわりがうかがえる。
 店頭のお兄さんが氷山の上のカキを選び出し、殻を開けてくれるのをカウンター越しに見守る。
(あっ、その汁、捨てないで!!)

 涼しげなガラス皿に盛り付ける際、底に溜まった汁を、捨てようと殻を傾けるお兄さんに、ついつい声を上げてしまいそうになったが、ぐっと堪える。ここではいやしい食い意地をあまり晒しちゃいけない。ビザンス社は彼とコラボレーションすることが少なくない会社だし、なにより私だってこれから先ずっと、このデギュスタシィオンに呼んでもらいたい。“旅の恥はかき捨て”とはまいらぬのだ。

 生ガキをつまみに白ワインをカウンターでいただくのは、パリでは珍しいことではなく、最近では、“ギャラリー・ラファイエット・グルメ”(デパートの食品館)の一角にも、こうしたオイスターバーがあるくらい。友人のまなさんなどは、この辺に用があると、必ずといっていいほどこのバーに立寄って、カキをつまんでくるという。パリの女友達は皆、一匹狼的行動を取れる人ばかりだけれど、ランチ客の引いた昼下がりに女一人、まなさんのようにカウンター席を温めているのが寂しげに映らないところもパリという街の魅力のひとつだ。私はまだ一人で行けたためしがないけれど、近い将来、「おひとりさま」デビューしてみたいと思う。
 殻をはずし終えた生ガキが6つ、カウンターテーブルに差し出された。さっそく口に含んでみる。……、こ、これは!? なんと表現していいかわからないのが率直なところ。深い磯の香りをたたえながらマイルドな風味、歯に確かな弾力を残す食感……。これまでもフランスの地方やあちこちの名産地で数多くカキを食してきたけれど、このカキはまったく味わったことのないものだった。一人6つずとなんてあっという間に平らげ、彼と二人で分けるつもりでもう一皿追加したけれど、この宝石のようなカキにふさわしい表現は、ついに見つけられなかった。

 カキにノックアウトされたような状態のまま、いつもの食材を物色へ。近いうちに日本へ帰国するので、お土産の調達もしなくちゃ。イベリコハム、イベリコハム入りフォアグラのブロック、スモークサーモン、にしんの酢漬け、アンチョビ、イクラの瓶詰めといった我が家のビザンス社の愛用品が次々と紙袋に溜まっていく。

 今回見つけた新たな掘り出し物は、
 “TORTA CANAREJAL QUESO DE OVEJA”(Nは正確には“エニュ”)
 というスペイン産の“とろとろフロマージュ”。薄くスライスしたバゲットに、このフロマージュをスプーンですくってのせ、おまけに赤ワインのジュレをちょっぴりトッピング。赤ワインのジュレはコニャックのような濃厚なコクとかすかな甘みが利いていて、このコックリとしたフロマージュと抜群のハーモニーを醸し出すのだ。

 コストパフォーマンスの高い赤ワインのいいのも、2種類、ゲットしました。これも箱買い。こうした美味しいものばかりを紙袋に詰め込んでいくと、なんだかホクホクと満ち足りた気分になる。あえて譬えるなら、冬眠に備えて食料を蓄えるヒグマといったところ。これでしばらく大丈夫という、絶対的な安心感。なにが大丈夫なのかは不明だけど……。
 大丈夫じゃなかったのはお会計。カードを持つ彼の表情を盗み見るも、あっぱれなぐらい澄み切っている。この人は、私の買った服や靴がこれと同じような値段になってしまった時はショックを隠せないくせに、食料品となるとこうも割り切れるから不思議だ。

 最後に、後日同じようにビザンス社の生ガキを味見したカメラマンの友人、篠さんから目からウロコの感想を頂いたので、ここに紹介しようと思います。

 生ガキの既成概念を壊された感じです。
 ブロンと赤貝を併せたみたいな印象?

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