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2009.08.01

雨宮塔子の食事日記31

雨宮 塔子

雨宮塔子の食事日記31

6月27日

 結婚式に出るのはほぼ8年ぶりではないだろうか? 最後に出席したのは、大学のスキー部時代からの友人の結婚式で、彼女はフランスでもレモンの産地として名高いマントンで式を挙げたので、たしかオルリー空港から国内線で向かったのを覚えている。
 ジャン・コクトーの壁画が残る市役所での挙式、素敵だったな──。あの市役所ではもう式を挙げられなくなったと聞いたことがあるけれど、もし事実なら、本当に貴重な体験をさせてもらった。
 今回結婚する友人M子も、スキー部時代からの友人。この8年の間に、部に所属していた他の友人たちも次々に結婚していったけれど、私はフランスにいて、子供が産まれたりしていたので、なかなかお祝いに駆けつけられなかった。この春にM子から結婚の報告メールがあり、結婚式にもぜひ来てもらいたい、招待状を送ってもいいかと打診があった時、「行く、行くー」と即答してあげたかった。が、少し躊躇したのは、子供たちの学校を10日ほど早く切り上げねばならなかったこと。とくに娘は幼稚園の年長さんで、卒園式にあたるバザーに出られないことが気がかりだった。娘を可愛がってくれた先生にも申し訳ない。
 それでも最終的には参加したい気持ちが勝った。M子は苦楽を共にしてきた大切な友人だし、スキー部の皆にも久しぶりに会いたい。子供たちが小学校に上がったら、それこそ学校を早目に切り上げることなんてできなくなるだろう。
 そんなわけで、少し早目の夏休みのスタートを切り、日本へ帰国した私の、帰国第一弾イベントが今日なのであります。14時30分から始まった教会での挙式に参列した後、17時からの披露宴の会場である「オーベルジュ・ド・リル トーキョー」へ友人たちと一緒に向かう。
 M子によると、「オーベルジュ・ド・リル トーキョー」はミシュランの三つ星を40年余り堅持しているアルザスの名店の出店だそうで、M子と新郎のYさんが何度となく通っている店でもあるという。M子といえば、学生時代、自宅で魚の形のパイ包みのパテや、丸ごと一羽の鶏に詰め物をした本格的な西洋料理でもてなしてくれたことが懐しく思い出される。
 元からの料理上手に加え、とことんやり抜く頑張り屋さんの一面を持ち、バイタリティに溢れたM子のこと、「コルドンブルー」で料理を習っていたとのエピソードにも、納得なのだった。ご主人になるYさんも相当な美食家とのこと。ご友人の「社食に行っても、一番高級なメニュー、たとえば“~のサーロインステーキ”などを決まって頼む」といった暴露話に、思わず吹き出してしまう。
 そうした披露宴の進行に沿って、さりげなく料理が運ばれる。そうそう、この完璧なセレモニーの流れ、懐かしいです。フランス人という人種は、たとえば子供の誕生会やフェット(パーティ)でのオーガナイズは完璧なものを望むくせに、こと結婚式に関しては、もっと手作り感が漂う、素朴なものを常とするような気がする。
 M子とYさんの結婚式のスペシャルメニューが記されたカードがテーブルに置いてある。シェフであるマルク・エーベルラン氏の直筆のサインが踊るそのカードをめくってみた。

タラバ蟹のカクテル トマトのコンソメジュレ キャビア添え
フォアグラポワレ アンディーヴのコンフィーとパンデピス ポルト酒風味
《オーベルジュドリルのスペシャリテ》 グルヌイユのムースリーヌ“ポールエーベルラン”
天然ヒラメのポワレと南仏風タルト ソース・バジリック
特撰和牛フィレ肉のポワレ ポテトと牛テールのシャルトリューズソース・ヴァンルージュ
プレデセール ウェディングケーキ “幸せなお二人からの贈り物” コーヒー

 「ねぇねぇ、この“グルヌイユ”ってカエルのことでしょ!?」
 授業にはまともに出たこともないくせに、雑学の鬼で、論文だけで乗り切ってきた親友、りかが隣でつぶやく。くると思った。やつは昔からお肉は牛か豚しか口にしない。
「でもここのスペシャリテって書いてあるよ。黙って食べなさい」
 それにしても、“カエルのムースリーヌ”とあえて訳されていないのは正解かもしれない。“カエル”のせいで食わず嫌いが出てはもったいないし。“ポールエーベルラン”とは、シェフのお父様か誰かだろうか? 恐らく、エーベルラン家がこれからも受け継いでいく、代表的な料理なのに違いない。
 そんなこともあって、このグルヌイユのムースリーヌの味はよく覚えているのだけれど(ムースリーヌは西洋風茶碗蒸し、と説明すればいいでしょうか。スプーンで食べ進んでいくと中から上品なカエルのお肉が出てきて、それを泡状のクリーミィなスープと共にいただきます)、他の料理に関しては細部までは覚えておらず……。ごめんなさい、M子の所に話しに行ったり、色々な方々のご挨拶に聞き入っていたりと、料理に集中できなかったのです。なので、メニューと写真とで想像していただければ幸いです。
 いずれにせよ、一貫して繊細で丁寧で、メニューを見てもわかるように、ビストロメニューではけっしてなく、やはり星を維持している人ならではのメニュー構成なのでした。どれも美味しかったです。
 それにしても、こうしたお上品なデートを重ねていると思われるお二人には、今度は是非、ディープなパリを案内して差し上げたい。

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