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2009.11.01

雨宮塔子の食事日記36

雨宮 塔子

雨宮塔子の食事日記36

10月9日

 料理研究家の渡辺有子ちゃんが再びパリに遊びに来た。オーヴェルニュ地方にある三ツ星レストラン「ミッシェル・ブラス」へ行くことが今回の彼女の渡仏目的なのだけれど、その前に私たちと会いたいから、とパリに寄ってくれたのだ。
 有子ちゃんとはじめて会ったのはおよそ1年前。ノリノリ(お向かいに住む関西人マダム)と共通の友人に紹介されたという有子ちゃんは、しばらくの間パリでゆったり過ごしたいからとアパルトマンを借りて、ここで暮らすように過ごしたのだった。ノリノリとまりちゃん(16区に住む美貌の友人。大阪は河内長野で育った、これまた生粋の関西人)、有子ちゃんとの四人でさんざん飲み食いした日々が昨日のことのようだ。
 今回の有子ちゃんのパリ滞在は、比較的短いので、ノリノリが事前にメールして、行きたいレストランのリクエストを聞いておいてくれた。到着日は他に予定があるらしく、私たちと過ごせる夜は3日間。そのうち2日間はノリノリと私の家で“家めし”を食べることになっているので、外食の機会はたったの1回。さて、どんな店が挙がってくるのか!?
 返ってきた答えは、“ANAHI”だった。北マレにあるこのアルゼンチン料理店には、去年も一緒に行っているのだけれど(昨年の11月14日、第21回のブログ)、ぜひまた一度、行きたいのだそうだ。お肉も美味しかったけれど、なによりあの“gambas”(大型海老)のリゾットがなかなかありつけない味だからと。たしかにあのリゾットは絶品だった。有子ちゃんと行って以来、「アナイ」には私も食べに行っていない。突然、無性にガンバリゾットが恋しくなる。
 家を出ると、大粒の雨が降ってきた。たしか、去年もアナイで食べた日は、雨が降っていたっけ。ここのところパリではずっと雨にはご無沙汰だったから、よけいにこの偶然性が胸に残る。あるいは有子ちゃんが雨おんななのか。彼女が日本を発った昨日も、台風で飛行機が飛ぶかどうか危ぶまれたというから、あながちガセでもないかもしれない。
 パリも日が落ちるのがぐっと早くなった。22時を過ぎてもまだどこか明るかったような空が、今では19時も過ぎると真っ暗だ。街灯がほの暗く、雨でかすんでいるせいか、「アナイ」の店内の窓辺に置かれているトレードマークの金の燭台が幻想的に揺れている。1年前と同じ光景。まるで“de ja-vu”(デジャ・ヴュ)みたい。
 この夜は一貫してデジャ・ヴュな夜だった。注文したものも、去年とまったく変わっていない。アボカドディップにとうもろこしのグラタンに、“carviche”というマリネしたスズキを前菜として、アルゼンチンのワインを飲んだ。アボカドディップは以前より少し、甘味が増した。バナナのような風味がする。とうもろこしのグラタンは、コーンの粒が前よりゴロゴロ入っていて、なめらかだった前の食感とは異なっている。“carviche”だけが昔のままの味わいで、なんだかホッとする。
 続いては定番のヒレ肉のステーキなのだけれど、四人で二皿のうち、一皿をリブロースにしてみた。去年は、あっさりめのヒレ肉しか頼まなかったから、リブロースの方も味見してみようと。
 お肉を待つ間、隣のテーブルの人が食べているピロシキのようなものに皆の興味が集中して、追加を頼む。突然頼んだのに、メインのお肉の前に間に合わせてサーブしてくれるのに感激する。が、これはちょっと期待はずれだった。想像通り、ピロシキと似ているのだけれど、パイ生地が厚すぎるのと、中身のひき肉が少しパサパサしているので、もそもそと喉につまりやすい。なのに、お腹だけは膨れてゆくのだ。
「やっぱり私たちのセレクトした組み合わせが最強でしょ」
 ノリノリの言葉に、皆で大きく頷く。
“ピロシキ”を食べている途中、お肉がテーブルに届いたので、一同、ピロシキはさておき、まずはアツアツのお肉にかぶりつく。相変わらずの質のよさ。が、ヒレとリブロースの好みは微妙に分かれた。魚より圧倒的に肉好きのまりちゃんは、「今回のヒレは少しケモノっぽい」とリブロースに軍配。日本の霜降り牛のようなわかりやすいお肉が好きな私もまりちゃんに賛同。
 対するノリノリと有子ちゃんは「やっぱりヒレの方が美味しい」と。リブロースより硬めで、噛むごとに味わいが出てくるヒレの方が大人の味なのかもしれない。
 続いては、お待ちかねのガンバのリゾット。この大ぶりな海老、久しぶりのご対面です。まずは海老のエキスが滲み出たリゾットを。
「うん、やっぱり美味しい」
 しみじみと呟く有子ちゃん。今回のリゾットは、ナッツ類があしらわれていたエスニック風な前回のリゾットとは少し違って、トマトなどの酸味がほのかに利いた、より洋風なリゾットだ。こちらも前回のと甲・乙つけがたく美味しかった。
 年に一度訪れて、変わらないメニューを食べる、そんな“デジャ・ヴュ”のようなレストランを一軒ぐらい持っていてもいいと思う。ポイントは、まったく同じメンバーでテーブルを囲むこと。味の共有はやはりひとつの経験の共有だと思うから。

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