1. Home
  2. 生き方
  3. 恨みそずい
  4. お金の裏事情

恨みそずい

2006.04.01 公開 ツイート

第10回

お金の裏事情 光浦靖子/大久保佳代子

光浦靖子さま

 拝啓 小銭持ちねぇ。
 確かに10年前に比べたら小銭は持ってますね。
 先日も、ジーパンを25000円で購入しました。気付いたんですが、ジーニストの私の場合、ジーパンの値段て、お金の余裕っぷりと比例してるんですよ。28歳位までは8000円前後、28歳~32歳位までは15000円前後で、現在は20000円超えるジーパンですよ。ジーパンに25000円出せるなんて、ホント充分な暮らしが出来るようになりました。

 10年前、24歳の頃、スゴい貧乏ではないですがお金はなかったですね。当時、ノルマ満載劇団に入りつつ、アルバイトの日々。光浦さんの知らない私のプチ暗黒時代です。まず、住んでたところが江戸川区の築20年1Kアパート。この部屋クーラーがなかったんですよ。夏は最悪でした。
 アパートが隣接してて、窓開けても風通しはゼロだけど、なぜか日当たりは良いという、まさにサウナ状態。早朝、汗びっしょり暑くて目を覚まします。水シャワー浴びて、もう一度寝ようとしますがすでに身体は汗まみれで、だんだん息苦しくなって…。
 なんで、徒歩15分のイトーヨーカドーが開店すると同時に、涼みに行ってました。噴水広場がみんなの集合場所です。みんなというのは、同じ目的で同じメンツが自然と集うんですね。年輩のおじさんが多かったかなぁ。新聞読んだり、鼻歌歌ったり自由空間です。
 ある時、住所不定っぽいおじさんから見たことのないデザインの缶コーヒーをもらいました。「あっ、すいません。いただきます」と受け取ったものの、仲間意識を持たれたことが妙に頭にきて、
「私はお前たちとは違う。私は小岩の眠れる獅子だ。今は眠っているだけだ」
 ガツンと心の中で言ってやり、それ以来、一線をひくようにしました。
 大好きな飲みも、貧乏劇団員の仲間とチェーン店の安居酒屋ばかりです。ここで、当時よくやっていた裏ワザを紹介。会計時、お金を集める係りを率先してやります。ジャスト割り勘にできるはずないので、ちょっと多めに集めます。すると、あら不思議。会計すましても手許にお金が残ってるという具合。かつ割引券ももらえたりします。あまり多いと怪しまれるので、1人200円増までにしましょう。
 コソドロじゃないですよ! 会計労働料ですよ! こんな状況でも、お金なくてツライとは思っていませんでしたけどね。

 ただ、「この生活に戻れるか?」と訊かれたら「絶対嫌です」。だって、今、快適ですもん。現在の我が家は世田谷区の冷暖房完備2LDK(ルームシェアですが)。早く家に帰りたいって思いますもん。飲み代だって、ホイホイ払いますよ。ホント、酔っぱらってくると財布のヒモがゆるむというか……。
 この前も、楽しかったんですよ。気心知れた仲間4人で、場所もチェーン店じゃなく、薄暗い創作ダイニングバーです。箸置きが落花生ですよ。終電近くなり、会計をしようということになりました。
 この時点から、自分でも分からないのですが、急に「みんな、ありがとね。こんなカバみたいな女と付合ってくれて。本当ありがとね。申し訳ないね」という気持ちがわいてくるのです。で、「いいよ、いいよ、お金は。そう? じゃあ、1人1000円オールで」と。
 みんな、別に私のために集まった訳じゃないんですよ。飲みたいから来てるだけです。
 で、申し訳ない気持ちが終わると、こんな楽しい時間は、もう二度とない。今楽しまなくてどうするんだ! 刹那的な気分になっちゃうんですね。
「まだ時間ある人、もう1軒行く? お金無ければ出すよ。」
 財布のヒモ、パーパー全開ですよ。で、みんなが笑ってる姿見て、「人間っていいな。捨てたモンじゃないな」と、しみじみ噛みしめて終了です。財布は小銭のみです。
 この一連の行動は、なんなんでしょう? 更年期ですかね?

 まぁ、お金に余裕があるから出来ることなんですけどね。それもこれも、OLのお給料プラス芸能活動のギャラのおかげ。ギャラって大きいですね。たまに、あんな楽な仕事でこんなにっていう時あります。思っちゃ駄目だと思いつつも、OLの仕事、割が悪いわ~。
 先日もね、年下の女上司から呼び出されたんですよ。理由は、芸能仕事がたまたま連続して入り、欠勤が続いてしまったため。この時点で、迷惑かけているのは私で、100%悪いのは私です。
 分かってます。
 テレビの仕事黙認してもらってるだけで感謝です。
 分かってます。
 でも、その尻デカの女上司がなんかムカつくんです。化粧気なく、髪も黒髪を一つにまとめ、野暮ったいけど体つきがエロいみたいな。男好きするタイプです。それ本人も自覚してるんだよなぁ。だっていつもタイトスカートで尻デカ強調スタイルですよ。
 で、正論ばっか言うんですよ。正論言われるの嫌じゃないですか?
「コピー取るとき、スタートボタン押す前にもう一回、設定間違ってないか確認したら失敗せずコピーできるよ」
「分かってるよ!」
 それでこの前も、勤怠についてですよ。
「大久保さんに休まれると、その分他の人に負担がかかるんですね」
「すいません」
「テレビの仕事が大変なのも分かりますけど、こっちも仕事ですからね」
「もちろんです」
「このままだと、ペナルティーで減給という事もせざる負えない場合が出て来るんですけど、大丈夫ですか?」
 こっからです。逆切れもいいとこですよ。
「大丈夫って何が?」
「いや生活とか……お給料下がってしまうと……」
「はっ? お金ですか? お金なら全然大丈夫ですけど。ええ、お金はまったく問題ないです。何だお金の話?」
 もー最悪な大人ですよ、私。なんで、あんな言い方しちゃったんでしょう? 更年期ですかね?
 減給どころかクビになるかも……。

 ちょっとだけお金持って謙虚な気持ちがなくなってるんですかね? そんなこと、ないはずなんだけどなぁ。所詮、田舎の地道なサラリーマンの娘です。お金はコツコツ真面目に働いて貰うモノだと思っています。
 ギャラが実動に比べ多いなと思った時、嬉しいけど「いいのかな?」と不安にもなりますもん。
 光浦さんもよく、クイズ番組の賞金とか私にくれますよね? 「賞金出たから、1万円あげる」と。普通感覚でいったら1万円あげるっておかしいですよ。でも、「どうせ賞金なんてあぶく銭だからパーと使わんと」って言うじゃないですか?
 分かります。その考え方いいと思う。なんでこれからも賞金くださいね。まぁ、多いギャラは自己投資代に使うのが正しい使い道だと思うので、本やDVD買ったり、無駄に脱毛したりするようにしてます。あとそれでも余った時は、貯金に回す感じですかね。
 現在、定期預金とか意図的には貯めてないですけど、所詮、私のメイン出費は飲み代位で、ブランド品とか車とかお金かかる系に全く興味ないから、ありがたいことにちょっとずつ貯まっていってる状況なんです。
 周りを見ると、真剣に貯金してる同年代の未婚友人、結構います。マンションを購入したという話もぼちぼち聞きます。みんなはっきりとは言いませんが老後のことを考えてでしょう。偉いなぁと思います。
 今年で35歳、考える時期です。でも、何か嫌なんですよ。そこに手を出したくないんですよ。だって老後のために貯金したり、マンション買ったりって、要は、結婚諦めたってことになるじゃないですか?
 一人で生きていく準備始めたってことでしょ? 私は、まだ男の人に養われて生きていきたいと思ってますから。諦めてませんから。
 男って、基本「養いたい」本能があるんですよ。だから金持ってたりマンションもってる女とか好きじゃないんですよ。飲みに行ったりした時も「奢る」ことが男の「養いたい」本能を満足させるらしいですから。すぐに「いいよ、お金あるから出す」とか言ったら駄目なんですって。今まで、出してばっかりいたから、モテなかったんですね。
 とにかく頭では、そろそろ本気で、一人で生きてくと仮定し、死ぬまでにいくら必要なのか計算し、貯金に取り組まないとヤバいというのは分かっています。今の状況だとかなり節約していかないと、貯まらないでしょう。
 分かっちゃいるけど……もうちょっと、もうちょっと待って。ギャラのいい芸能界の仕事だって、いつまでもありませんよ。明日なくなってもおかしくないです。
 尻デカ女上司のもとで、OL仕事をもっと謙虚にしないと。
 今度、シュークリームの差し入れでもした方がいいかな。
 とりあえず定期1個組んでみようかしら。
 それとも合コン組んでみようかしら。
 あ~こんなん考えてたら頭痛くなってきた。
 う~ん、もうちょっと待って、今考えてるから。

 中銭持ちの光浦さん、以前からちょいちょい話してる老人ホームを建てる資金貯まりましたか? 入居者候補に私も考えてもらえませんかね? でも、最近ブランド品に興味持ったりしてるでしょ? ブランド品も良いですけど、私たち老後のことも考えて下さいね。
 本当、他力本願で申し訳ない。

敬白 大久保佳代子

{ この記事をシェアする }

恨みそずい

小学校以来、20年の付き合いで、お互いのことを骨の髄まで知り尽くしたお笑いコンビ「オアシズ」の光浦さん(芸人)と大久保さん(芸人兼現役OL)が、互いに宛てた手紙のなかで、ミソジの憂いを明け透けに告白!恋愛、結婚、出産から仕事、老後まで、尽きない憂鬱を乗り越え、幸せを手にすることはできるのか!?

 

バックナンバー

光浦靖子/大久保佳代子

光浦靖子
1971年愛知県生まれ。東京外語大学卒業後「オアシズ」でデビュー。数々のバラエティ番組に出演する一方、コラム等の執筆活動も。

大久保 佳代子
1971年愛知県生まれ。千葉大学卒業後「オアシズ」でデビュー。テレビ、ラジオの他、舞台にも数多く出演。現役のOL。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP