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2004.06.01

vol.94

第7回 清少納言 その3

酒井 順子

第7回 清少納言 その3

 トランプでもオセロでも人生ゲームでも鬼ごっこでも、何か勝敗のつくゲームをやる時はとにかく、「勝つ」ために一生懸命になる子供でした、私は。
 トランプでスピードとかうすのろまぬけといった遊びをする時は、爪を折っても気付かぬほどに没頭。大貧民において、いつまでも貧民階級から抜け出せない時は「チックショーッ」と、歯噛みをした。
 ところが世の中には、どんなゲームをしても「勝ち」を求めない人も、いるものです。トランプで負けても、
「へへ、また負けちゃったぁ」
 と全く悔しそうでなかったりする人もいて、そんな人とゲームをするのはこちらとしても張り合いがなく、勝ってもちっとも嬉しくない。
 勝負事自体が嫌い、という人もいるものです。
「勝ち負けがついたりするのって、どうもねぇ……」
 と、彼等は絶対、ゲームと名のつくものには手を出さない。
「私は平和主義者なんです」という顔をしているその手の人を見ると、
「本当は尋常じゃないくらいに負けず嫌いで、負けるのがイヤすぎるからゲーム
に手を出さないんじゃないのゥ?」
 とつい勘繰ってしまう私。負けた姿を素直に他人に見せられないっていうのも大人気無いのではないか、と思うのですが。
 清少納言は、勝負事が大好きな人です。であるからして当然、負けず嫌いでもある。
「嬉しきもの」と題された段には、
「物合だの何だの、勝負事に勝つことが、どうして嬉しくないことがあろうか!」
 としてあるほど。
「物合(ものあわせ)」とは、たとえば歌合、貝合、菊合、謎合など、様々な事物の優劣を、左右に分かれた人達の間で競うという遊びです。平安時代の貴族社会において、盛んに行なわれていました。枕草子にも、とある謎合(まぁつまり、「ぴったんこカンカン」とか「連想ゲーム」的な、左右対抗なぞなぞ合戦みたいなものです。ちなみになぞなぞのことは、平安時代も「なぞなぞ」と言っていた)の様子が記されたりしています。
 清少納言は、その手の「物合」において、非常に発奮し、かつ活躍するタイプであったのです。
「たとえゲームであっても、どうせやるのだったら勝たなくては意味が無いでしょうが!」
 とばかりに頑張って、チームの勝利に貢献していたのではないか。
 彼女は常々、
「自分が想う相手から一番に愛されていないのなら、どうしようもないわ。そうでないなら、いっそすごく憎まれた方がマシ。二番手・三番手なんて、死んだってイヤ!」
 といった発言を、皆の前でもしていたそうです。この時の「想う相手」とは、彼女の主である中宮定子様であり、また愛する男性であったりするのでしょうが、とにかく人間関係を成立させる時も、彼女は「勝ち」を求めていたのです。
 そんな清少納言の激しい負けず嫌い性がよく理解できるエピソードが、第八十二段に載っているので、ご紹介してみましょう。
 十二月の十日過ぎに、大雪が降った時のこと。雪が大好きな清少納言は、
「この雪で、本当の山を作りましょうよ!」
 と、大はしゃぎで家来達に命じて、庭に大きな雪山を作らせました。
「この山が、いつまで残っているかしらねぇ」
 という話になると、
「十日間くらいでしょう」
「いや、もう少しは……」
 と、女房達はそれぞれの予想を言い合うのですが、清少納言だけは、
「正月の十日過ぎまでは、あるでしょう」
 と、大胆な予測をします。
 他の女房達は全て、
「大晦日まではとてももたないわよぅ」
 などと言うので、清少納言も「ちょっとオーバーに言い過ぎたかしらん。せいぜい元旦あたりにしておけばよかったかも」とは思うものの、「一回言ったことは撤回しないわ!」という、いかにもの意地を見せて、最初の予測を覆さないのでした。
 それからの清少納言は、雪山のことが気になってしょうがありません。十二月二十日過ぎに雨が降ると、白山の観音様(白山の雪は、一年中消えないとされていたので)に、
「消えさせないで下さい~!」
 とお祈りしつつ、そんな自分を「馬鹿みたいだわね」なんて思ったり。
 雪山は、しかしおおかたの予想に反して、大晦日を越して元旦になっても、まだ存在していました。だんだん黒ずんではきましたが、「何とか、十五日まではもたせたい!」と、清少納言も意地になってきます。
 そんな折、正月三日に、定子様が内裏に参上しなくてはならなくなりました。もちろん清少納言達女房も、お供をしなくてはなりません。定子様や女房達は、
「雪山の結果を見届けたいのに!」
 と悔しがっています。
 雪山への執着が最も強い清少納言は、一計を案じました。敷地内の掘っ立て小屋に住んで庭の手入れなどを行なっている“木守”という役の女を、普段はそんな身分の低い者と話したこともないのにわざわざ呼び寄せ、
「この雪の山を、子供なんかに踏み散らされないようにしっかり監視して、何とか十五日まで守るのよ。それまで残っていたらご褒美をいただけることになっているから、あなたにもたんまりお礼はするつもり」
 と、果物などを渡して頼み込んだのです。 定子様と一緒に内裏に行った後、七日に宿下がり(実家に戻って休暇、みたいな感じ)した後も、雪山のことが気になってしょうがないので、しょっちゅう様子をチェックさせている、清少納言。十日に、
「あと五日もつくらいは残ってますよ」
 という報告を受けてホッと安心しますが、それからも昼夜欠かさず、確認させるのです。
 いよいよ十五日まであと二日ほど、となった夜にはひどく雨が降り、「この雨で雪が解けてしまわないか」と思うと心配で夜も寝られない、清少納言。そんな様子を見て、
「頭、おかしいんじゃないの?」
 と、家族に笑われるのです。
 寝ずに起きていた清少納言は朝イチ、まだ寝ていた下人を「何でこんな時に寝てんのよッ」とばかりにたたき起こして、様子を見にやらせます。すると戻ってきた下人は、
「まだ、座布団くらいの大きさは残っています。明日までもつでしょう」
 と報告するので、「わーい、明日になったら、残った雪を器に入れて、歌を詠み添えて定子様に進呈するんだ!」と、清少納言は大喜び。明日が来るのが待ちきれません。
 いよいよ、当日の朝がやってきました。まだ暗いうちに起きて、雪を入れるための器を下人に持たせて使いにやらせると……。
 なぜか下人は、カラの器を持って、さっさと帰ってきてしまったのでした。そして、
「雪山、なくなってました……」
 と報告するではありませんか。清少納言は、
「昨日まであったものが、どうして一晩で消えるわけ?」
 と、愕然とします。
「いやぁ、木守の女も残念やら悔しいやらで騒いでいまして……」
 などと下人の報告を受けている折も折、定子様から、
「どう? 雪は今日まで残っていた?」
 というお手紙が。清少納言はものすごく悔しい気持ちで、「昨日の夕方まではあったのですけれど、夜中のうちに誰かが私をねたんで壊して捨ててしまったのです」と、お返事申し上げるのでした。
 しばらくして、清少納言が内裏に行った時のこと。定子様の前で、「せっかく歌を詠み添えようと思ってましたのに!」などと雪山の件をまだ悔しがっていると、定子様は衝撃の発言をなさるのです。すなわち、
「実はね、あれは私が命令して、壊させたのよ。でもちゃんと雪は残っていたのだから、お前の勝ちよ。その歌を、詠んでみなさい」
 と。
 清少納言は驚き、
「そんなに情けない事実を聞いた上で、歌を申し上げられるものですか……」
 と、激しく落ち込みます。一条天皇が、
「全くだ。お気にいりの女房だと思っていたのに、怪しいものだね」
 と冗談半分におっしゃるのを聞いても、清少納言は泣きそうな気分になるのでした。
 ……と、いうことで。清少納言が本当に負けず嫌いな性格であるということが、よーくわかっていただけるであろう、この一段。
 それにしてもよくわからないのは、「なぜ定子様は、雪山を壊したのか」ということでしょう。
 定子様がイヤな性格の人で、清少納言と仲が悪かったのであれば、それも納得はいくのです。が、定子様は人格者で、かつ清少納言とは実に仲が良い。
 となると定子様は、勝負にあまりにもこだわる清少納言のことが、少し心配になったのではないかと思うのです。夜も寝られないほどに雪山の賭けに夢中になる清少納言を見て、「もし十五日まで雪山が残っていたら、どれだけこの人はテングになることか」と思い、たしなめる意味をも込めて、雪山を壊したのではないか。ま、「ちょっと清少納言をからかってやろうっと」という気分も、あったかもしれませんが。
 清少納言は、こういう主を持つことができて、幸せだったのだと思います。枕草子には、「私はこんなに機転がきいている」「こんなに教養がある」という自慢話が数々あるわけですが、このように鼻をへし折られたという話もあるからこそ、自慢話も生きてくる。
 確かに、あまりにも勝負にこだわりすぎる人というのも、うざったいもの。
「上司に恵まれてよかったね」
 と、清少納言に言いたくなるのでした。 

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