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オンリー・イエスタディ

2002.12.15 公開 ツイート

第13回 見城徹が選んだ「カッコいい男」「抱かれたい男」は…… 見城徹

見城徹が選んだ「抱かれたい男」は……

村上龍さん(作家/50歳)
選考理由:謎だらけのヴァンパイアゆえ、寝てみたい

 分からないことが多いんだよ、あまりにも。二五年も付き合っているし、一番親しい作家のひとりだけど、謎だらけなんですよ。私生活の断片も、原稿を書いているところも一度として見たことがない。若い頃、執筆のためという理由をつけて、会社(角川書店)の金を使って二人で川奈ホテルに泊まりこんでいた時代もあったんです。一番いい部屋に泊まって、極上のワインをガンガン注文して、美食の限りを尽くして遊ぶわけ。当時はゴルフをしなかったので、陽が照っている限りテニスをして美しい汗を流していた。一ヵ月に一週間は泊まっていたね。それを2年ぐらい続けていたんです。その後、そこでの話を龍が小説に書いたら、『テニスボーイの憂鬱』になっちゃった。そうやって甘い蜜の時間を共に過ごし、その後も間断なくつき合ってきても、謎だらけなんだよね。
 最初の出会いは、群像新人文学賞ですごいヤツが出たという記事を朝日新聞に見つけたときですね。ごく小さな顔写真が紙面に印刷されていた。その顔写真を見て、感じるものがあったんです。あらゆる手段を使って住所と電話番号を調べ上げ、『群像』が発売される前に会いに行ったんだよね。新井薬師の喫茶店だった。美しい鳥の目だと感じた。傷ついた手負いの鳥が軒端で小刻みに震えながら羽を休めている、そんな鳥がまだ生きようとする意志をはらんだ目にそっくりだと思った。龍は、「どうして作品を読んでもいないのにあなたは僕のことをすごいと言うんですか?」と不思議がっていたけどね。僕は、運命的にあるエロティシズムをその小さな写真に見たんだけど、会ってますますただものじゃないなと感じましたね。
 何に悲しいと思い、何に苦しさを感じ、何に喜びを覚え、何に恍惚としているのか、見えているようで実は見えないんだよね。それでいて率直だしクリアなんですよ。それって完璧な謎でしょう。僕らはすごくクリアな関係だと思う。お互いに自立し、依存せずに生きている。よく龍が言うんだけれど、「見城とは、もたれあうことは1度もなかった」って。これが長い付き合いの秘密なんでしょうね。もたれあうことをしないセックスっていうのはどんなもんだろうと思う。もたれあうことをしないセックスを一度アイツとやってみたい(笑)。一度は裸同士で、いわゆる肉体をこすり合わせてみないとわからないだろうな。一度でいいよ、オレは男の趣味はないから(笑)。きっと謎はいつまでも謎なんだろうけれど、寝ることによって、肌を重ね合わせることによって、臭いを直接嗅ぐことによって、何かが見えてくる、糸口があると思うんだよね。あの頃の鳥の目とは違って、年を重ねたいまはもう少し猛禽類のようにアグレッシブな目にはなっているけれど……もともと人を射る目なんだよね。一番の心の窓だから、その目に出会うといっも胸騒ぎがするんです。
 動物なんですよ。本能がちゃんと時代のスイートスポットを撃つんです。特別な感覚器を持っている。先天的なものなんだよね。自分が好きだと思うこと、自分が快楽だと思うことにものすごく忠実。それを目指して、単に生理的な好き嫌いで動く。それが全部時代を芯で捉えている。そのための稀有な臓器を備えている。たしかにすごくブッキッシュに勉強するヤツだし、理論も構築する。全部理論構築したあとで動いているというふうに龍自身も思っているかもしれないけれど、実は全く本能の声に耳を澄ませて動いているだけ。そこがすごく彼を見えづらくするわけですよ。本能に忠実に動いているのに、非常に考え抜いているふうに見えるんです。もちろん、考え抜いてはいるんだけど。でも、考え抜いているだけだったら、五回のうち一回くらいは外す。宇宙の法則に導かれて、他の人よりも全然強いセンサーで感知して先に行くというところで、彼はかならず時代の真っ芯にいる。文明にも犯されていない。野性だから、宇宙の全てを支配している法則の中でそれを感知しながら生きている。明日のことも考えていない。自分の快楽に忠実に、自分の官能に忠実に今日を過ごし、月の満ち欠けによって動いているヴァンパイアなんですよ。だから謎なんだ。イメージを喚起し、ぬめるような、想像力を刺激する、あの文章もいまだに変わらない。エロティックだよね。熱帯の腐った果実からポツッポツッとしたたり落ちる果汁。なんとも言えない温度や湿度、味とか色とか匂いとか表現不可能だと思われるものをちゃんと言葉で捉えることができるクリアだけど謎だらけの動物=ヴァンパイア。それが村上龍だよね。

村上龍さんからのコメント

「僕と見城って、別に気が合うわけじゃないんだよね。ただね、一緒にいて全く疲れないんですよ。飯とか食うと必ず1回は口論になるし、「それは違うだろう!」とか言ってさ。でも、なんかね…こういう人はいないですよね。幻冬舎を作るときは周囲も妬み半分で結構いろんなこと言ったから、僕が幻冬舎を潰させないっていうか…売れる本を作るのは難しいけれど、幻冬舎のクオリティーみたいなものはとりあえず確保しようと、役割分担のように思ってさ。それは今でもすっと続いているんですよ。ただ、お互いにいると便利だよね。オレは幻冬舎があるとすごく便利。リーズナブルだし(笑)。でもまあ、いい関係ですよ、ずっと」 

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