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2014.02.17

吉沢潤一とは何者か?
このデタラメな展開、無責任なユーモアがすごい!
吉沢潤一『ギャル男vs宇宙人』

中条 省平

吉沢潤一とは何者か?<br />このデタラメな展開、無責任なユーモアがすごい!<br />吉沢潤一『ギャル男vs宇宙人』

ふたりの読み巧者が熱烈に推薦するマンガとは

 前回は2種類の2013年マンガベストテンに基づいて、昨年の日本マンガの状況をざっと見てみました。はっきり申しあげて、昨年話題になった作品を見るかぎり、マンガ界のレベルは低かったように思います。

 とはいえ、ベストテンに選出されたものだけが優秀な作品というわけでは勿論なくて、個々の選者が推すマンガのなかに、あっと驚くような傑作が隠れていることもしばしばあるのです。今回、私のアンテナに引っかかってきたそんな傑作は、吉沢潤一の『ギャル男 vs 宇宙人』(小学館)でした。

 私がこのマンガに注目したのは、「フリースタイル」誌(2014年冬号)の特集「THE BEST MANGA 2014 このマンガを読め!」で、ふたりの信用できる読み巧者が『ギャル男vs 宇宙人』を昨年のベストワン(!)として異様に熱烈に推奨していたからです。
このふたりの批評家(呉智英と大西祥平)以外に、「フリースタイル」のマンガベストテンで『ギャル男vs 宇宙人』を選んだ人はだれもいませんでした。また、もう1種類のベストテンである『このマンガがすごい! 2014』(宝島社)に至っては、『ギャル男 vs 宇宙人』への言及すら一切ありませんでした。

 それでは、まず呉智英の推薦の辞から。

「『ギャル男 vs 宇宙人』の吉沢潤一は、『デザート』でちょっと注目していたが、ここまで途方もない作品を描くとは思わなかった。[「週刊ビッグコミックスピリッツ」の]連載中、読み終えるとすぐ次号が待ち遠しかった。今年ダントツの一位である」

 すごい讃辞です。呉智英がむかしから『好色哀歌 元バレーボーイズ』のような泥臭いヤンキー精神(というより、世間に逆らう不良のひねくれたメンタリティ?)を愛していることは知っていましたが、呉先生がここまでいうのならすぐ読んでみたくなります。そこで近所の池袋ジュンク堂地下のマンガ売り場に行って探したのですが、売り切れといわれ、うちに帰ってアマゾンで検索したところ、やはり品切れ。結局、アマゾンに店を出す新古書店でようやく買い求めたのでした。この不可解な一時的プチ人気は、もしかしたら、「フリースタイル」を読んだ一部の呉智英信者がどっと買いに走ったせいかもしれません。

 つづいて大西祥平(自称・漫ぶらぁ~)の選評です。

「ヤンキーマンガ『足利アナーキー』作者が手がけた『ギャル男vs 宇宙人』は、文系男子が嫌悪感を抱くタイプを徹底追求したかのような〝悪キモイ〟主人公像とその周囲の作り込みの斬新さに惚れ惚れ。是非とも『ギャル男 vs~』でシリーズ化して欲しいところ」

 呉、大西両氏の説明では皆目マンガの内容の見当がつかないのですが、なんとなくヤンキーっぽい武闘派マンガを想像しつつ、注文した翌日に新古書店から届いた『ギャル男 vs 宇宙人』を読んでみたのですが、これがもう想像を超えたトンデモないマンガでした。

 奇しくも呉智英はいま「東京新聞」夕刊に『名著の衝撃』と題する連載をしていて、そこで毎日1冊、彼にとっての「名著」を紹介しているのですが、昨夕(2014年1月30日)扱ったのは、いましろたかしのマンガ『デメキング』です。その冒頭で呉智英はこう語っています。

「マンガの中には、時々、奇妙な、いや異様な傑作が出現する。何だかよくわからないのだが、とにかく何だかすごい、という傑作である」

 そして、いましろたかしの『デメキング』がそういう傑作だというのですが、まさに『ギャル男 vs 宇宙人』も、何だかよくわからないがとにかくすごい作品なのです。

 主人公は、東京・渋谷センター街の洋服屋で働く若者・村田。これが「ギャル男」です。体は3頭身で、ただでさえデカい頭をライオンのように爆発させて、子供たちから

「宇宙人」とばかにされています。本人は『ライオンキング』のシンバだと主張しているのですが。

 村田の兄貴分にテツという男がいて、グロテスクで滑稽な村田とは対照的に、テツはファッション雑誌の読者モデルをしている美青年です。

 村田とテツの趣味は、カフェ風居酒屋でナンパした娘たちに幻覚剤入りのクッキーを食べさせてトリップさせ、乱交にもちこむことです。

 いっぽう、村田とテツのあいだにはミュウという友だちの女の子がいます。この3人は純粋な友情で結ばれているのですが、ミュウが行きずりで知りあった男とエンコーしたせいで、膣を中心に全身にデキモノができてしまうという出来事が起こります。

 村田とテツはミュウの復讐をするために、男の正体を突きとめ、男と対決することになりますが、この男はじつは宇宙人だったのです……。トンデモないマンガですね。かくして、渋谷のセンター街に蝟集(いしゅう)するギャル男やチーマーや不良どもを巻きこんで、宇宙人との大乱闘が展開するというのが、このマンガの主な筋立てです。

 まったく先の見えないデタラメな物語の展開と、全体に漂う無責任なユーモアがこのマンガの魅力で、ついどんどん読みすすんで終わりまで一気に引っぱられてしまいます。そして読後感はひと言。何だかよくわからないがとにかくすごい、ということになります。

 初めて読んでから今日まで3回ほど読みなおしたので、冷静になってこのマンガの根底にあるものを考えてみたいと思います。

 

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