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2002.10.01

第9回 グレイを飲み込め!

見城 徹

第9回 グレイを飲み込め!

 グレイとは最高に豊かな色だと見城徹は言う。黒と白が激しく混交して作り出されたグレイの領域にこそ、ベストセラーは潜んでいると――。
「僕は、売れたものは全て正しいと思っている。売れたものはすべて、いい本なんです。『なぜこんなものが売れるのか?』と思っている人は、世の中をよくわかっていない。いい本が必ずしも売れるとも限らない。売れる本には、必ず白と黒の豊かに混じり合ったグレイが存在する。両極を抱きかかえて混交させ、両極を激しく振幅させて初めて、人を無意識に刺激させるものができるんです。読者はバカじゃない。それがフラットか豊かであるかは一発で見抜かれる。『ダディ』(郷ひろみ著)にしてもそう。男と女が出会い、恋に落ち、結婚して、家庭をつくって別れていくという、純白で普近的な物語なわけです。それは、確かに郷ひろみという生身の人間が血を噴き出して書いている誤魔化しも何もないものなんですよ。そこには、原初から人間が繰り返してきた男と女の営みがきちんと書かれている、そんな純白さがあった。もう一方で、速報性のメディアである新聞やテレビが全く知らないところで、6ヵ月以上もの時間をかけて作ったその本が、離婚当日に出版されてスクープになるという、そのスキャンダル性が黒の部分だったんです。その黒をもっと黒くするために、僕は、初版を50万部刷った。周囲からは『失敗したら会社が潰れるぞ』と言われたけれど、僕には必要だったんです。初版50万部がもうひとつのインパクトであり、これが離婚当日に出版するというスキャンダルに加わることによって、黒がより深くなると思ったんです。白と黒を深い豊かなグレイに染め上げて、結局『ダディ』は百万部までいった。もし10万部から始めていれば、50万部で終わっていたかもしれない。それは、『ふたり』(唐沢寿明著/単行本137万部、文庫本50万部のベストセラー)でも同じなんです。あのタイトルには、唐沢寿明と本名である唐沢潔との『ふたり』と、女房である山口智子との『ふたり』というダブルミーニングがある。俳優である自分と生きることにのたうちまわって、ひとつひとつの物事に決着をつけていく唐沢潔との『ふたり』が黒の部分だとすれば、山口智子との『ふたり』は白の部分で、その二つが混じり合った唐沢寿明という個体が、見事に深みのあるグレイに染め上がっているんです」
 グレイゾーンのないところに宝はない。ベストセラーを狙う編集者ならば、そこはわかっている。しかし、いまだ日本の出版業界には見城を超えるベストセラーメーカーは出てこない。見城は、「僕自身、人間としてすごく汚いところも持っているし、とんでもなくピュアなところも持っている」という。文学の中毒になったときもあれば、週刊誌のスクープ記者のような仕事をやっていた時期もあったと――。
「まだ駆け出しの頃だったけれど、最初に就職した出版社で『公文式算数の秘密』というベストセラーを作ったことがある。ある日、『公文式』と書かれた新宿御苑の小さな雑居ビルの看板を見たんです。しばらくして新聞に小さく『公文式算数教室指導者募集』という広告が出ていた。なんだ、あの看板は『こうぶん』ではなく『くもん』と読むのかと……。早速調べてみると、そこにはあるノウハウがあり、そのノウハウのテキストをもとに先生が自宅で生徒を集めて教えていることもわかった。これはもしかすると商売になるかもしれないと思い、そのテキストに基づいて1冊の本を出したんです。僕が半分以上書いたようなものなんだけど、38万部も売れてしまった(笑)」
会員5万人程度の「公文式算数」は、この出版を機に電話が鳴り止まなくなるほどの勢いで成長し、いまや年商600億を超える企業となっている。創業者が亡くなった現在でも、その社史には若き見城徹の業績を称える文面が載っているという。
「それでいながら、文学の虫みたいなところもあって、中上健次をはじめとする(当時は)売れない作家を真剣に世に送り込みたいと願っていた。ブラックゾーンとホワイトゾーンを抱えて生きてきたんでしょうね。ものすごく慎重な部分もあるし、ものすごく大胆な部分もある。繊細が白で、したたかさが黒だとすれば、その二つがせめぎあって初めてグレイができる。よく、『天使のように繊細に、悪魔のようにしたたかに』と言うけれど、それは違うと僕は思う。『天使のようにしたたかに、悪魔のように繊細に』。そこで初めてとてつもなく豊かなグレイになれる。だから、『噂の真相』のような本を『あんなスキャンダル雑誌』と言って切り捨ててしまえば、それでお終いですよ。僕もかなりひどいことを書かれて、角川時代に『噂の真相』のせいで辞表を出しかけたことが何度もあったけれど(笑)、そのときでさえ面白いと思えた。僕自身のなかにも『噂の真相』はあるし、中上健次の文学を何とかしたいと思うようなピュアな一面もある。人は、その多面体が合わさったところに大きな魅力ができてくる……。警察の容疑者も星(ホシ)だし、輝くスターも星でしょ。スキャンダルを含まない星なんて、星じゃない。ただ美しく光り輝くだけの星は、フラットで真のスターではないんですよ」
 グレイは作り上げるものだと見城は言う。しかし、見城自身、その対象に身を引き裂かれながらグレイゾーンに突入し、白と黒と両極が全て分解されてわからなくなるまで染め上げなければ、これほどのヒット作を生み出すことはできなかった。見城のなかには「グレイゾーンをわかっていて、それを仕掛けて成功するには、相当臆病できめ細かくないとダメでしょう。僕は小心者で臆病でいつもくよくよしている。しかしどこかで向こうみずで、強気で、アラも沢山ある」そんな自分もいる。見城は、自身の白と黒の激しいせめぎあいを待って、ターゲットとのせめぎあいに挑んでいる。
「グレイゾーンに入れば、信頼関係を積み重ねていくしかない。俺が言ったら断らないという関係をお互いに作るしかない。向こうが言った時も断らないという関係だから、ヤバくなるなという恐怖心との闘いですよ。ああ、ヤバくなる、面倒くさくなる、リスキーだと思いながら、しかし足を踏み込んでしまう。踏み込んでから考えればいいと思う。だから常に混沌の中にいる。混沌の中に身を浸してしか、物事は進まない。『噂の真相』も好きだし、真っ黒な悪だくみをしている奴も好き(笑)。一方で真っ白なものも好きだし、その両極を受け止めて、楽しめなければ、クリエイティブな世界は渡っていけないと思う。なぜならば、僕らは、人の精神を商売にするのだから。原料なんて何もないところからモノを作り、百万部売る宿命なのだから。手品と同じで、僕らの商売こそがスキャンダラスなんですよ。いや、手品にはネタがあるからまだいい。詐欺師に近い。だからものすごく誠実じゃなきゃいけないところもある。誠実さと詐欺師を並立させていなければこの世界では生きていけない。警察が動く事件とスター誕生は紙一重だと思って生きなければ、ベストセラーは作れない……」 

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