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2014.02.12

第7回

素数のふしぎ 前編

大栗 博司

素数のふしぎ 前編

  2、3、5、7……。1とその数以外では割り切れない数「素数」。フェルマーやオイラーほか、名だたる数学者が、素数に魅せられ、有名な定理や公式を発見してきました。いったいなぜ数学者は、こんなに素数に萌えるのでしょう? そして萌えないあなたも日々お世話になっている、驚きに満ちた素数の性質とは?

 

 フランク・ネルソン・コールは1861年生まれの数学者で、コロンビア大学などで教鞭(きょうべん)を執った。アメリカ数学会の秘書官を25年の長きにわたって務め、この役を退くときに集まった資金で始められたコール賞は、数学界の最も権威のある賞のひとつになっている。

 コールは、1903年10月31日にニューヨーク市で開かれたアメリカ数学会の総会で、「大きな数の因数分解について」と題した講演を行った。会場の大きな黒板の左端に立ったコールは、チョークで$$ 2^{67}\ ,$$

と書く。そして、$2$の$67$乗を計算して、これから$1$を引き、

\begin{align} & 2^{67}-1\nonumber \\ & = 147573952589676412927 \ ,\nonumber \end{align}

を示した。次に、黒板の右端に移って、$$ 193707721 \times 761838257287 \ ,$$

と書く。終始無言である。筆算でこの掛け算を計算し、

\begin{align} & 193707721 \times 761838257287\nonumber\\ &= 147573952589676412927\ , \nonumber \end{align}

であることを確認して、左端の$ 2^{67}-1$と等号で結ぶ。コールは無言のまま、チョークを置いて、席に戻った。沈黙に包まれていた場内には、拍手が巻き起こったという。

 コールが黒板に書いた数は、メルセンヌ数と呼ばれているもののひとつだ。17世紀フランスの数学者マラン・メルセンヌは、$275$以下の自然数$n$について、$$ 2^n - 1 \ , $$

というかたちの数を考えると、$n=2$、 $3$、 $5$、 $7$、 $13$、 $17$、 $19$、 $31$、 $67$、 $127$、 $257$のときに限って、素数になると予想した。「素数」は今回の話の主役なので、後で詳しく説明するけれど、それ以上割り切れない数のことだ。たとえば、

\begin{align} & 2^2 - 1 = 3 \ , ~~ 2^3-1 = 7 \ , \nonumber\\ &2^5 - 1 = 31 \ , ~~ 2^7 - 1 = 127 \ , \nonumber \end{align}

で、$3, 7, 31, 127$は確かに素数だ。

 ところが、このメルセンヌの予想は間違っていた。まず、メルセンヌが予想した数以外に、$2^{61}-1$、$2^{89}-1$、$2^{107}-1$も素数だった。

 メルセンヌの予想から200年以上後の1876年、フランスの数学者エドアール・リュカが、19年かけた手計算で、$2^{127}-1$が素数であるというメルセンヌの予想を確認した。これは当時知られていた最大の素数で、この記録は、計算機を使ってさらに大きな素数が発見される20世紀半ばまで破られなかった。メルセンヌの予想が$n=127$のときに正しいことを確認したリュカは、同じ年に、予想に反して、$2^{67}-1$が素数ではないことも証明している。素数でないということは、この数は、何か複数の数の積として表すことができるということだ。しかし、リュカの証明の仕方からは、それがどのような数の積であるかは、わからなかった。コールは、この数が$193707721$と$761838257287$の積として書けるということを示したのだ。コールは、毎週日曜日の午後に計算をして、3年間かけて、この分解を見つけたという。

 メルセンヌの考えた$ 2^n - 1$というかたちの数の中には、素数が多く含まれている。これをメルセンヌ素数と呼ぶ。2013年の時点で知られている最も大きな素数も、$$ 2^{57885161}-1 \ ,$$

で、メルセンヌ素数だ。


* * *
 

 自然数の性質を調べる「整数論」は、純粋数学の中でも特別な地位にある。たとえば、人類史上最高の数学者の$1$人とされるガウスは、

「数学は諸科学の女王であり、なかでも、整数論は数学の女王である」

と語ったとされている。また、$19$世紀のドイツ数学界で指導的立場にあったレオポルド・クロネッカーは、

「神は自然数を作りたもうた。その他のものは、すべて人間の仕業である」

と述べている。

 これから説明していくように、自然数は素数の積に分解され、しかも分解の仕方は一通りしかない。ものごとの性質を調べるときに、それをできるだけ小さな構成要素、つまり最小単位、に分解して、その最小単位から理解しようとするのは、科学の基本的な考え方だ。たとえば、物質の性質を調べるには、それを原子や素粒子に分解する。同じように、自然数は素数の積に分解されるので、自然数の最小単位は素数だ。数学者は、数の秘密を解き明かす鍵が、素数にあると考えている。素数の研究が、整数論の中心的問題のひとつになっているのはそのためだ。

 純粋数学の華である素数の研究は、現代のインターネット経済を支える基盤でもある。私たちは、インターネットサイトで買い物をするときに、クレジットカード番号などの個人情報を送る。これが途中で盗まれないためには、情報が暗号化されていないといけない。これから説明していくように、この暗号化に使われているのは、フェルマーやオイラーなどの数学者が見つけた素数の性質なんだ。

 今回は、素数の性質を解き明かしながら、純粋数学が現代社会に果たしている役割について考えてみよう。

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