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上野千鶴子×國分功一郎対談「上野先生、民主主義はお好きですか?」

2014.02.05 公開 ツイート

第3回

「民主主義イコール多数決」ではない 上野千鶴子/國分功一郎

◆「僕はネトウヨの気持ちがわからないでもない」(國分)

上野 もう1つ、私が國分さんのこの本で学んだことはね、「人生というのは第二形式の退屈を生きることだ」と。「第二形式」ってよくわかんないでしょ。わかんない人は本を読んでください。私は解説しませんので。

 ここから抜け出す方法が、何を決断するかよりも、決断すること自体のほうが大切だという「決断主義」。「決断の奴隷」になるという方法です。こうやって説明されるとね、最近のヘイト・スピーチとか、ネトウヨ(ネット右翼)になる人たちの気持ちがよくわかる。彼らは「決断の奴隷」になってるんでしょうね。そこにはある種のヒロイズムもあるしね。

國分 彼らは決断してるのかな。「決断の奴隷」というより集団神経症という感じがするんですが。

 これは今日ぜひ上野さんに聞いてもらいたいと思ってたんですけど、僕、ネトウヨの気持ちがわからないことはないんです。僕自身は「志」が違うからネトウヨには絶対ならないんですけど、彼らのパッションはわからないことはない。つまり、「上の世代はさんざん俺たちにいいこと言ってきたけど、結局自分では何も考えてなかったんじゃねえかよ」という気持ちです。それはものすごく強くあります。
 だから、僕がネトウヨに対して言いたいのは、「てめえら怒ってんだったら、それを近隣諸国に向けるんじゃなくて、上の世代に向けろよ」ということですね。

上野 上の世代と言うとアタシのこと?……(会場、笑)。

國分 すみません(笑)。別に上野さんに対してじゃなくて、学校の先生とかに対してなんですけど。たとえば例をあげると、僕、湾岸戦争はけっこうショッキングな出来事だったんですよ。

上野 私だってショッキングでしたよ。こんなバカげたことが20世紀も終わろうとするときに起こるのかって。

國分 そういう意味もあるんですけど、僕はあのとき、新聞の社説って社によって違うことを言うんだなって、初めて知ったんです。僕はそれまで、社会にはなんとなく一定の正義というものがあって、どこの社説も、それを適当に薄めて書いているのかと思ってたんですよ。

上野 そんなナイーブな坊ちゃんだったんですか。

國分 はい(笑)。そうしたら、湾岸戦争のときに、多国籍軍の行動を支持するかとか、自衛隊を派遣すべきかとか、各社の言っていることが違うと気がついた。

上野 あなたはたった今、私の過去の記憶を呼び覚ました(笑)。湾岸戦争のとき、私は某私立大学の教員をやっておりました。そのとき倫理社会の入試問題に、湾岸戦争を支持するかどうかをめぐって新聞の社説を複数出して、「あなたはどれに賛成するか。その理由を述べよ」というような問題を出した覚えがあるのよねぇ。

國分 それくらい新聞によって言うことがずれてましたよね。

上野 完全にずれてましたね。ずれてるのが健全だと思いましたけれど。新聞が「中立公正」だなんてナイーブな信念を持っていないもので。

國分 あんな明確に対立したのを僕は初めて見た。しかもその対立した意見がどれも不出来だし、それらの間の議論も全然なってない。「なぁんだぁ、大人は今まで平和だとか、民主主義だとか言ってたくせに、いざというときには役に立たないきれいごとを並べてただけで、何にも考えてなかったんじゃないか」と思った。そういう反発が、上の世代に対してあるんですよ。

いつも女性たちの戦友でいてくれた上野さんが、男女雇用機会均等法成立からの30年を総括。雇均法第一世代も、いままさに就活で奮闘する女子たちも、涙なしでは読めない一冊。

上野 はい。それはおっしゃるとおりです。最近出した『女たちのサバイバル作戦』(文春新書)に私はこう書きました。「こんな世の中に誰がしたと詰め寄られれば、今年高齢者になった上野はもはや申し開きはできませぬ。あんたたち、考えなしでやってきたんでしょって言われたら、考えなしでやってきたツケが原発事故でしたから。考えなしでやってきたツケが今日の雇用崩壊ですから」。私は、この本のなかで痛恨の念を込めて、あとから来る人たちに「ごめんなさい」と言いました。

國分 非常に強く受けとめました。その言葉は僕にとって今日最も重い言葉です。

上野 この本のあとがき、わりと皆さんがよく読んでくださいました。20代の女性読者から「電車のなかで読んで思わず泣いてしまった」という感想をいただいて、大変ありがたかったです。ところであなたはアラフォーですよね。

國分 はい、そうです。

上野 私ね、20代の人にはまったく申し開きができないが、アラフォーの人がこれからどんな目に遭うかは楽しみに見ている。あと20年経てば、きっとキミたちが「こんな世の中に誰がした」と詰め寄られる立場になるから(笑)。

國分 はい、そうかもしれません。

上野 小平市の道路通したのは誰だってね。でも先ほどの「集団神経症」というのは、哲学者として言っちゃいかん言葉じゃないですか。「あいつらは病気だよ」というのは、完全に他者化する言語ですから、これは哲学者はやっちゃいかんよ。

國分 いやまあ、精神分析的には、正常な人はみんな軽度の神経症なので(笑)。

上野 言い逃れだ(会場、笑)。

 

*この連載は全4回です。次回掲載は2月7日(金)の予定です。

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上野千鶴子

社会学者・立命館大学特別招聘教授・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。『上野千鶴子が文学を社会学する』、『差異の政治学』、『おひとりさまの老後』、『女ぎらい』、『不惑のフェミニズム』、『ケアの社会学』、『女たちのサバイバル作戦』、『上野千鶴子の選憲論』、『発情装置 新版』、『上野千鶴子のサバイバル語録』など著書多数。

國分功一郎

1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授。専門は哲学・現代思想。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社、第2回紀伊國屋じんぶん大賞受賞、増補新版:太田出版)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)、『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)、『近代政治哲学』(ちくま新書)、『中動態の世界』(医学書院、第16回小林秀雄賞受賞)、『原子力時代における哲学』(晶文社)、『はじめてのスピノザ』(講談社現代新書)など。訳書に、ジャック・デリダ『マルクスと息子たち』(岩波書店)、ジル・ドゥルーズ『カントの批判哲学』(ちくま学芸文庫)など。

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