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上野千鶴子×國分功一郎対談「上野先生、民主主義はお好きですか?」

2014.02.03 公開 ツイート

第2回

直接民主主義VS.間接民主主義の二項対立発想ではダメ 上野千鶴子/國分功一郎

◆議会が蛇蝎のごとく嫌う「市民ワーキンググループ」

上野 國分さんは、たとえば住民投票や直接選挙などのルールをつくることを含めて、民主主義は市民の政治参加の1つのルート、そしてそのルートは1つじゃなくて数が多いほどいい、つまり複数の民主主義という素晴らしい提案をしておられます。

國分 はい、そうなんです。

上野 ただ私が「哲学者っていうのは、能天気で楽天的な人なんだなあ」と思っちゃうのはさ(笑)、こういうルールを決めるのはすべて議会でしょ? 議会っていうのはね、住民参加が大嫌いなんですよ。自分たちの意思決定権の基盤が取り崩されちゃうわけだから。

 國分さんは本のなかで「市民のワーキンググループ」とか、いろんなアイデアを出されていますし、実際にいろんなところですでに実施されています。でも、どこでもワーキンググループ方式は、議会から蛇蠍(だかつ)のごとく嫌われていますね。

國分 それはよく知っています。

上野 現状ではどんな改革案にしても議会が決めるということ自体は、変えられないんじゃないですか?

國分 その点は、「決める」という行為をきちんと腑分けする必要があると思うんです。僕は「行政が決める」とは言っていますが、最終的にハンコを押してるのは議会ですよね。そうやってお墨付きを与える行為と、内容をかたちづくる行為とを、区別しなきゃいけない。

 議会が最終決定するということは動かないにしても、それ以前のかたちづくるところには影響を与えられるかもしれない。甘いかもしれませんが、たとえば世論、あるいはこういう本によって、「今の議会制民主主義だけではダメだから、いろんな制度がなきゃいけない」という声が高まって、議会でも受け入れざるを得ない、そういう状況をつくっていかなきゃいけないというのが、僕のいちおうの答えです。

上野 こういう話をしていていつも思い出すのは、かつて日本一の福祉の町と言われていた秋田県鷹巣町のことなんです。ここではワーキンググループをつくって市民の要求を引き出しました。人口1万9000人の町で、100人以上が福祉政策を提言するワーキンググループのメンバーとなり、これが完全に議会と対立しました。

 このワーキンググループは町長主導だったんですね。町長と議会とがねじれ構造になっていたために、町長が市民を味方につけて二重権力状況をつくり出すために、ワーキンググループを利用したというのが議会の見方でした。そして町長が落選したことで、ワーキンググループが主導していた福祉事業も頓挫してしまいました。

國分 その点は非常に注意しなきゃいけない。市町村合併のケースが典型なんですが、市長など首長が、自分たちを正当化するために住民投票を利用することがあります。僕は住民投票はあくまで住民主導で、住民が署名集めして実施するということが決定的に重要だと思います。住民投票さえやれば素晴らしい民主主義だっていうことには全然ならない。この点は本でもはっきりと書いておきました。議会と首長が共謀すれば、住民投票を実施させるのは簡単です。だから、住民投票もワーキンググループも、やればいいってことじゃないのは、強調しておきたい点ですね。

 でも僕は「住民投票なんかやらないほうがいいよ」と直接言われたことは、まだ一度もないんです。ツイッターでも一度もないんじゃないかな。「道路なんかつくらせておけばいいんだよ」とは言われたことがありますけど。だから「行政はあまりにも住民の意見を聞かなすぎる」というコンセンサスは、人々の間にわりとできているのかなという実感を持ちました。

上野 こういう例はどうですか? 原発再稼働をめぐって、都民投票をやろうっていう運動がありましたね。あれに良識ある人の中から反対がありました。「今、都民投票なんかやってしまったら、取り返しのつかないことになるかもしれない」という不安からです。投票する都民を信頼できないっていうね。

國分 それは原発というイシューの特殊性もあったのかもしれない。原発をつくる云々っていうのは、東京都庁が決めていることではなかったわけですから。

上野 それはそうですが、東京都は東電の最大の株主ですよ。

國分 そういう意味ではもちろん大きい影響力を及ぼす可能性がありましたけど、道路とはちょっと違うように思います。

 ただ僕は、思い上がりかもしれませんけど、今回の小平の件で、住民投票という言葉がだいぶ広まったような気がしないでもないんです。これをきっかけに、民主主義をめぐる議論、あるいは世論を、いろんなかたちで醸成していけるんじゃないかっていう希望は持ってますね。

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上野千鶴子×國分功一郎対談「上野先生、民主主義はお好きですか?」

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上野千鶴子

社会学者・立命館大学特別招聘教授・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。『上野千鶴子が文学を社会学する』、『差異の政治学』、『おひとりさまの老後』、『女ぎらい』、『不惑のフェミニズム』、『ケアの社会学』、『女たちのサバイバル作戦』、『上野千鶴子の選憲論』、『発情装置 新版』、『上野千鶴子のサバイバル語録』など著書多数。

國分功一郎

1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授。専門は哲学・現代思想。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社、第2回紀伊國屋じんぶん大賞受賞、増補新版:太田出版)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)、『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)、『近代政治哲学』(ちくま新書)、『中動態の世界』(医学書院、第16回小林秀雄賞受賞)、『原子力時代における哲学』(晶文社)、『はじめてのスピノザ』(講談社現代新書)など。訳書に、ジャック・デリダ『マルクスと息子たち』(岩波書店)、ジル・ドゥルーズ『カントの批判哲学』(ちくま学芸文庫)など。

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