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<気持ちのいいことが、好き。>花房観音インタビュー

2014.01.25 公開 ツイート

特集<気持ちのいいことが、好き。>

花房観音インタビュー
「秘密こそ、女の快楽」 花房観音

●隙のない女なんてつまらない

――下鴨の没落老舗料亭のお嬢さんたち四人は退廃的で儚くて、一方でとても貪欲で。その不安定さが四人共とても魅力的です。書かれていて、女性として一番興味があるのは誰でしょうか。

花房 一番というのは迷いますが、あえて言うなら長女の春樹ですね。私自身も長女ですし、周りを見ても、お姉ちゃんなんだからしっかりしなくちゃという気概があるせいか、男性に対しても甘えたいのに甘え下手という人が長女には多い気がします。その屈折ゆえに、めんどくさい、ややこしい恋愛をしてしまう傾向にあるという……。

『偽りの森』の中では、ある秘密ゆえに四女の冬香もなかなか男性に対して屈折はあるんですけれど、冬香は水商売で女としての媚や嘘を武器にすることを覚えて、自分の中の「女」を利用する術を知っているから、それなりにまだ社会の中で上手く男性と接しています。

 でも春樹の場合は四十歳という、いい大人で、しかも高学歴のエリートなのでプライドも高いし、作品の中でもさんざん周りに言われてますけど、本人が思っているほど賢くない。そのくせ愛されたい、求められたいという気持ちが強い。

 春樹は、セックスすることでしか甘えられない女なんです。四人姉妹の中で、一番バカな女かもしれませんが、そこが春樹の「可愛いところ」と、妹たちは、皆、春樹に呆れつつも好意を持っていますね。もしも春樹が、高学歴で美人で恋愛も優等生だったら隙がなくて、ものすごくつまらない女になってしまいます。隙がない女なんて、私は好きじゃないし興味も持てません。
 

――花房さんの作品は女性たちが、美しいのに時にだらしなかったり強欲だったり寂しがりやだったりと人間臭く、本当に魅力的です。そんな中、今回は雪岡の父親、風見、伊久雄など、京女に寄り添う男性たちの存在が物語にとって大きな意味を持つのが印象的でした。世の中では、京女というイメージがなんとなくできていて、それが持て囃されているようなところがありますが、世の男性は、京女の何に惹かれるのでしょう。また京女に恋をする男たちとは、いったいどんな男性だと思われますか?

こんな道をたおやかに歩く京女。それでいて、強欲。

花房 以前、ネットのニュースで、男が京女を好きなポイントというような記事が箇条書きされていて、それが見当違いでおかしくて、思わず知人の「京女」たちに送ったら、彼女たちも大反論していました。

 おしとやかとか、おっとりとか、お稽古事を身に付けてるとか、観光地をよく知ってるとか、奥ゆかしいとか、男を立てそうとか……。実際の「京女」を知らないか、「京女」を上手く演じてる女を好きな男たちの考えることだなと思いました。

 真実の京女は、「よそさん」の私から見ると、気が強いし、言葉は柔らかだけど容赦ないし、肝が据わっていて、芯がしっかりしている。そこがすごく魅力的ではあるけど、「怖い女」でもあります。だから男で、真実の京女が好きな人って、マゾかもしれません。怖い、手ごわい女ですから。

 あと、京女というか、京都という街そのものでもあるんですけど、その揺るがなさに惹かれる人もいるでしょうね。京都の女の人って、京都が好きで京都から出たがらない人が多い。私みたいな地方の人間のように、東京に対するコンプレックスも薄い。歴史がある京都という街にゆるがない自信を持って根をはっています。自分たちが一番だから、コンプレックスなんて感じない。その強さとしぶとさ、けれど柔らかな言葉と品の良さ、一見優しげな風情やたおやかさとのギャップも魅力的ですね。

 ちなみに私自身は京都の女ではないので、自分の中に四人、「京女サンプル」を持っています。芥川賞作家の藤野可織さん、幻冬舎担当の宮城さん、赤裸々なプライベートを撮った作品で荒木経惟さんから賞をもらった写真家のキリコさん、弁護士でタレントの角田龍平さんの奥さんで、『仁義なき戦い』の「頂上作戦」「代理戦争」で助監督を務められた土橋亨監督の娘の角田彩子さんが、私の中の「ザ・京女」です。
 

――今作のテーマのひとつでもある、偽り。四姉妹が、家族にも言えない、裏や嘘を持つように、女性なら誰もが嘘を付いていると思います。女性にとって、嘘とは何でしょう。

花房 女性の嘘と男性の嘘は違います。男性の嘘はカッコつけのための嘘、取り繕うための嘘、自分の弱さを隠すための嘘です。そして男は嘘がへたくそです。どうしてっていうぐらい、すぐバレる嘘を付く人が多いです。後先考えず、その場を取り繕うために嘘が口をついて出てくるんでしょうね。

 女の嘘は好かれるための嘘です。同性に対しても異性に対してもです。そして女の嘘は媚です。媚を当たり前に身に付けてる女ほど、嘘が上手いです。女の嘘は男の嘘とは比べものにならないぐらい、巧みです。つまりは女のほうが当たり前に嘘をつけるんでしょうね。

 そして男の人の、騙されっぷりにはいつも呆れ感心します。でも男の人だって、嘘のない女には惹かれないと思います。女は現実的で容赦がないから、女の本心なんか見せたら男は怖がって逃げるでしょう。セックスがいい例で、男の人が「気持ちいい?」って聞いてきたら、女は内心たいしたことないと思ってても「気持ちがいい」って言います。「下手だなぁ」「こいつAVの見過ぎやな、アホか」とか思ったことを口に出したら萎えますよね。

 女の嘘は化粧と同じで、男と対峙するために必要なものです。だいたい、男の人が好きな「天然ちゃん」「ゆるふわ清純派」「エロい」「可哀想な私で同情引くのが上手い」女なんて、みんな嘘と紙一重の巧みな自己演出です。男の人は「化粧の濃い女よりすっぴんに近い娘のほうが清潔感があっていい」とよく言いますが、濃い化粧より薄化粧に見せかけるほうが遥かにテクニックが必要なのですから、それと同じ。嘘と自己演出の線引きはすごく曖昧だと思います。女が嘘を付くのは男を必要としているから、ですね。

 

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花房観音

2010年「花祀り」にて第一回団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。京都を舞台にした圧倒的な官能世界が話題に。京都市在住。京都に暮らす女たちの生と性を描いた小説『女の庭』が話題に。その他著書に『偽りの森』『楽園』『情人』『色仏』『うかれ女島』など多数。

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