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2014.01.12

第5回

大きな数を恐れないということ 前編

大栗 博司

大きな数を恐れないということ 前編

平成26年度の日本の国家予算は96兆円と過去最高規模になりそうと言われていますが、まだまだカワイイもの。地球上の大気の総重量とか、地球が公転する軌道の長さとか、世の中にはとてつもなく大きな数が存在します。コンピュータもない時代、人はどうやってこんな大きな数を計算してきたのでしょうか?

 

 $1945$年$7$月、米国ニューメキシコ州のトリニティ実験場で世界初の原子爆弾の実験が行われた。その$3$年前にシカゴ大学で原子炉を建設し、原子核分裂の継続的な連鎖反応を実現したエンリコ・フェルミも、マンハッタン計画の一員として実験に参加していた。

 爆発から$40$秒後に、観測基地にも爆風が届く。爆心地の方を見ていたフェルミは、立ち上がり頭上に両手を上げる。手には、あらかじめ細切れにしていたメモ用紙。爆風が届くとともに両手を開けると、紙切れは$2$メートル半ほど飛んで地面に落ちた。それを見たフェルミは、ちょっと考えてから、参加者の方を向いて言った。「TNT爆弾$2$万トンに相当する威力だ。」

 マンハッタン計画の科学者たちは、爆発のデータを調べ、$3$週間かけた精密な計算の挙げ句に、フェルミと同じ答えに到達した。

 簡単に手に入る情報でも、工夫すればいろいろなことが分る。フェルミは、シカゴ大学の学生にいろいろな量を即興で見積もらせる問題を好んで出した。たとえば、「シカゴ市内にはピアノ調律師は何人いるか」というのは有名な問題だ。

 フェルミ推定と呼ばれるこのような問題は、有名企業の入社試験で出題されたこともあって、日本でも何冊もの解説書が出版されている。しかし、このような問題を解く方法は単純だ。一見難しそうな問題でも、簡単な部分に分解して、その各々を見積もり、それを組み合わせればいいだけだ。


* * *
 

  たとえば、ピアノ調律師の人数を見積もる問題では、まず、シカゴ市内にピアノが何台あるかを考える。

 僕はロサンゼルス市の近郊に住んでいるので、この全米第2の都市が、人口$400$万人ぐらいであることは知っている。シカゴ市は全米第3位なので、$300$万人ぐらいだろう。普通の家庭は$3$人家族だとすると、およそ$100$万軒の家庭があることになる。どの家庭もピアノを持っているとは考えられないが、$100$軒に$1$台では少なすぎるだろう。小学校のときに、クラスの中の数名の家にはピアノがあったように覚えている。そこで、$10$軒に$1$台とすると、$100$万軒には$10$万台のピアノがあることになる。

 個人の家庭以外にも、学校や演奏会場などの公共の施設にもピアノがある。しかし、たとえば小学校のピアノを考えると、何百人もの生徒に対して数台だから、無視してもよいように思える。

 そこで、ピアノが$10$万台あるとしよう。これだけのピアノを調律するのには、何人の調律師が必要か。

 我が家にもピアノがあって、調律は半年に$1$回だ。まったく調律をされていないピアノもあるだろうから、平均して$2$年に$1$回調律するとしよう。$1$年は$365$日で、調律師が仕事をするのは平日だけだとすると、$365\times 5/7$でおよそ$260$日。$2$年でおよそ$500$日だ。$10$万台のピアノを、各々$2$年に$1$回調律するためには、$1$日当たり$100,000 \div 500 = 200$台を調律する必要がある。$1$台調律するのには大体$1$時間かかるから、その場所に行く時間も考えると、$1$日に$4$台ぐらいが精一杯だろう。そうすると、$200 \div 4 = 50$人程度の調律師が必要になることがわかる。

 ここでは調律は$2$年に$1$回とするなど大雑把(おおざっぱ)な見積もりをした。もっと正確な値を使えば、より正確な見積もりができるけれど、この計算でも桁数は合っているだろう。実際、「イエローページ」で見ると、シカゴ市内には少なくとも$30$人のピアノ調律師がいることになっている。掲載されていない調律師もいるだろうから、$50$人程度というのはそれほど外れていないようだ。


* * *
 

  手元にある情報だけで、大まかな見積もりをするということは、日常生活でもよくあることだ。たとえば、結婚をすることになって、結婚式場に相談に行くと、まず、「何人ぐらいの式をお考えですか」と聞かれる。人数だけでも、大まかな予算を見積もってもらうことはできる。もちろん、パーティの料理をどうするかとか、引き出物をどうするかなどを詰めていくと、より正確な計算ができるけれど、その前にあらかじめ大まかな答えを知っておいた方がよい。この値段では、とてもこの結婚式場は使えないということになったら、それ以上正確な見積もりをしてもらっても無駄だからだ。

 もうひとつ、フェルミ推定の例を説明しよう。

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四茂山治樹2014.11.13

「なんか数字も、よく読むと…文字の一種になる」のですね。というのが分かりました。

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