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2013.12.30

ここまでハマって熱く語れば納得の2冊

佐々木 克雄

ここまでハマって熱く語れば納得の2冊

『裏 最強 土下座』
板垣恵介/幻冬舎刊 \1,260
「刃牙」シリーズで「究極の強さ」を追求してきた著者が土下座を語りつくす。土下座は攻撃性と破壊力を秘めた、もうひとつの闘い方なのだ。

 『ゴーマニズム宣言スペシャルAKB48論』
小林よしのり/幻冬舎刊 \1,365
少女たちが現代日本に突きつけたものは何か? これほどの本気・ストイック・実存を見せるものは今の日本にはない! 画期的日本論。

最近、何かにハマっていますか?
熱く語れるモノってありますか?

 人は何かしら興味を持ち、とことんハマってみたくなるものですよね? ジャニーズや韓流スターといったイケメン。フラダンスやヨガといった身体を動かすもの。ハワイや沖縄、バリ島などなど……。
 飲み会などで友人たち(ご自身も含みますが)にハマっているモノの話を振ったら、それはそれは盛り上がって、ずっとその話になってしまった……なんてこともあるかと思います。好きだからこそハマって、ハマったからこそ、さらに極めようとするスパイラル。端から見たらちょっと引いてしまうかもしれませんが、本人はいたって真剣に、こだわり、熱く語るのです。
 そんな「ハマってしまった」というのは、何も女子だけの特権ではありません。当然ですが世の殿方にもあるわけでありまして……それがですねえ、今回紹介します2冊というのが女子のみなさんには、ちょっとオドロキのネタなんですよ、というのを前置きしてから本論に入ろうかと思います。
 2冊に共通するのは「漫画界の重鎮が」「意外なテーマを」「熱く語る」というものです。

格闘漫画の第一人者が語る
土下座の秘めたる力とは?

 まず紹介しますのは板垣恵介先生の『裏 最強 土下座』です。本一冊まるごと土下座。どうしてここまで土下座にこだわるのか、なぜ土下座なのか?
 その前に板垣先生のプロフィールなのですが、自衛隊出身の漫画家というちょっと変わった経歴をお持ちです。一九八九年にデビュー、「週刊少年チャンピオン」で『グラップラー刃牙』の連載を開始し、以後、刃牙シリーズは絶大なる人気を博し、格闘漫画の第一人者として現在に至っています。女子のみなさんに馴染(な じ)みはないかもしれませんが格闘漫画って男子の中では根強い人気があるんです。ムキムキ筋肉の男たちが「最強」を競い合って熱い闘いを繰り広げる──そんな世界。
 格闘技を描き続けてきた板垣先生ですが、ここ数年手掛けているテーマが土下座です。
「えー何で? 土下座と格闘技って真逆でしょ?」
 てな声が聞こえてきそうですが、板垣先生は序章でこう語っておられます。
「両者には、ある共通点があった。それは、格闘技にも土下座にも、とてつもない強引性がある点だ」
 駅前の道路でいきなり土下座をされた経験のある先生は「筋違いのお願いも無理やり押し通す破壊力」があると気づいたそうです。二〇一〇年に土下座をテーマにした『どげせん』の連載がはじまり、現在は『謝男(シャーマン)』を不定期で連載中です。
 考えてみれば、この土下座。二〇一三年の日本を象徴するキーワードではなかったでしょうか。大ヒットドラマ「半沢直樹」で主人公が床にひれ伏し、またライバルを跪(ひざまず)かせたシーンは記憶に新しいところです。ほかにもツイッターでの土下座写真騒動や宮藤官九郎脚本の映画「謝罪の王様」など、あらゆるところで土下座が見られました。
 土下座の力に注目した先生が、その可能性について語る本書ですが、そのカテゴリ分けが見事です。まずは謝罪を表し、自らを貶(おとし)める「黒土下座」──それは相手に強烈なストレスを与えることができる。次に感謝、信頼を表す「白土下座」──これには50対50のバランスが偏りすぎた、居心地の悪い状況を打破する力がある。最後は誠意の感じられない「ニセ土下座」──先生は謝罪会見で詫びる東電幹部にそれを見たそうです。
 圧倒されるほどの熱量で語られる土下座のあれこれ。読んでいるうちにアナタも土下座の魔力に引き込まれること請け合いなのです。

国民的アイドルグループについて
「ごーまんかましてよかですか?」

 2冊目は小林よしのり先生の『ゴーマニズム宣言スペシャルAKB48論』です。
 AKB48については、わざわざ説明する必要はありませんから割愛するとして、注目すべきは筆者である小林よしのり先生です。前述の板垣先生同様、漫画界ではかなりのビッグネームであることは間違いありません。
 一九七五年に『ああ勉強一直線』でデビュー。以降は少年ジャンプで『東大一直線』、月刊コロコロコミックで『おぼっちゃまくん』など、ギャグマンガのヒットを飛ばしました。三十代~四十代男子なら先生の作品を通ってきたはずです。
 それらの作品をご存じなくとも、一九九〇年代以降に手掛けられた「ゴーマニズム宣言」シリーズならご覧になったことがあるかと思います。政治、歴史、戦争、天皇制など、タブーとも言えるテーマに漫画で「ごーまん(傲慢)かましてよかですか?」と持論をぶつけてこられたわけです。
 その小林よしのり先生が……AKB48。
「いったいどうなってしまったの!?」といった声がファンから上がったでしょうが、当の本人は本書で「だがわしは嵌(はま)ってしまった! ええ年こいてなっ‼」と否定しません。
 しかも「ついに還暦になったぞ。異常だろう!」「てゆーか、総選挙で票を入れたい子が多すぎてとうとう人に言えない枚数、CDを買ってしまった」と開き直ったような言動。かつては藤あや子をはじめとする演歌にハマっていた時期もありましたが、ここにきてAKB48とは……です。
「こうなったら一冊かけて説明しよう!」と先生は続けます。
「AKB48は必ず後世に伝説となる!」
「この社会の問題点もよく見えてくるだろう!」
 つまり、この国民的アイドルグループを通して、現代日本を斬っていく覚悟がある本なのです。
「……そ、そこまでしなくても」と腰が引けてしまいそうなのですが、ページをめくって現れるのは、メンバー全員を娘or 孫だと思っている、惜しみない愛です(大島優子だけは「妄想ガールフレンド」として別枠だそうですが……)。
 小林先生は、その「ゴーマニズム宣言」シリーズで鍛え上げた論法で彼女たちを守ろうとします。
 マスコミやネットでバッシングを繰り返すアンチには、彼女たちが被災地の子どもたちを元気づける姿から「アンチの連中は少しは世のため、人のためになる存在だと自分を思うか?」「心のど汚いアンチは地獄に堕(お)ちろ!」と容赦ない言葉を投げます。
 AKBファンをロリコンだと決めつける女性論客には十代前半が恋愛対象だった『源氏物語』や、昭和初期までの結婚適齢期は十代後半からだったことなどを例証した上で「アイドルが低年齢なのは当たり前である」と反論します。
 そのほか丸坊主になったあの子のことや、福岡に移籍になったのち総選挙で1位になったあの子のことなど、本人たちと実際に会ったエピソードを交えながらAKB48愛を綴り、彼女たちをとりまく社会の問題点を突いていきます。これ、ファンでなくともAKB48がわかってしまう一冊なのです。

 いかがでしょう。その世界では揺るぎない地位にある大御所漫画家が「土下座」「AKB48」という意外なテーマにハマって、熱く語るこの2冊。未知の世界を覗くのも楽しいものですよ。

 

『GINGER L.』 2012 SPRING 6号より

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