1. Home
  2. 生き方
  3. 橋本治のかけこみ人生相談
  4. 【家族が苦しい】母親に逆らわず育ちました...

橋本治のかけこみ人生相談

2019.07.23 公開 ツイート

母と娘の確執

【家族が苦しい】母親に逆らわず育ちました。年に一度でも実家に帰省するのが憂鬱です。〔再掲〕 橋本治

心理的にも近くて仲良くなりやすい分、母と娘の距離感は難しいところがあるのかもしれません。外から見れば母を大事にする“よき娘”に、モヤモヤと湧いてきた違和感。その悩みに故・橋本治さんがおおいにエールを送った回答に、勇気づけられた人は多かったようです。そろそろまた帰省時期。みなさんは自分の気持ちに正直になれていますか。

* * *

 

●とさか・主婦・40歳・女性・青森県

実母のことで相談します。私は子どもの頃から、母親に逆らわずに育ちました。進学も就職先も言われるがままです。帰りが遅くて気に入らないという理由で、気に入っていた勤め先をやめさせられ、親の見つけてきた会社に転職させられたりもしました。

私は結婚して現在は遠方に暮らしています。帰省するのは年に1~2回がやっとです。JRで5時間ほどかかる距離です。主人はとても優しい人でおおらかな性格です。安定した職業にもついてます。

私が唯一自分で決めたのは結婚相手だけです。実家にいたときは母親の顔色を伺いながら生活していましたので、毎日はとても快適です。

母親は主人のことを気に入らないようで(実家から遠方に就職したから)罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせます。

私も実家から逃げたと思われたのか、母方の祖父が亡くなった時、産後で帰省中だったのですが「お前が変わりに死ねばよかった」と何度も言われ続け、ウツっぽくなってしまいました(今思えばさっさと帰ればよかったです)。

父親は主人を気に入っているのですが、母の報復が怖いのか庇(かば)ってくれません。

実家には35歳独身の弟がいますが、200万ほどの遊興費の借金を即、肩代わりしたりして、両親は可愛いようです。

私も言うことさえ聞いていれば、愛情をもらえましたし学校も行かせてくれました。そのことには感謝しています。

でももうこんな実家に帰省するのは年に一度でも憂鬱なのです。最近は帰省することを考えるだけでも気分がふさぎ、毎日鬱々としています。

今年のお盆には私の子どもたちだけで実家に行かせました。孫は可愛いようです。その際、なぜお母さんは来ないのと聞かれたみたいです。

母親の時折見せる悲しそうな顔を思い出すと、本当は私だけでも子どもたちと帰省して顔を見せたほうが良いのかなとも思います。

でも、実際帰省すると主人の悪口ばかりで気が滅入ります。意見すると逆切れします。でも、もう主人への悪口は聞きたくありません。

それでも年に数回のことだから我慢して行った方が良いのでしょうか? 両親から言うと、遠くに住む私たちは親不孝だといいます。

回答:「お母さんが嫌いだから私は帰らない!」と電話でぶちまけるべき

お悩みのこととお察しします。

どうすればいいのかと言うと、お子さん達だけを行かせて、あなたは実家へ帰らなければいいのです。お子さん達を行かせる前に、電話を入れて「私は行きたくない」とはっきりお母さんにおっしゃるべきです。

そうすると「なぜ?」という問いが向こうから返って来ます。

 

 

「お母さんが嫌いだから私は帰りたくない」とおっしゃるべきです。そうするとまた「なぜ? なに言ってるのよ!」という声が返って来ますから、「だってお母さん、私の彼が嫌いでしょ。私のことを幸福にしてくれる人の悪口を聞かされて嬉しいわけなんかないんだから、帰らない!」とおっしゃればいいのです。

(写真:iStock.com/natasaadzic)

そうすればお母さんは本格的に騒ぎ出して、「なに言ってるのよ!」から始まるわけの分からない話をし始めようとしますから、そうなる前にすかさず、あなたが思いつく限りの「いやな記憶」をぶちまけるのです。

「あの時はああだったから、私はすごくいやだった。それだけじゃなくて、こういうこともあった。あれもいやだった。これもいやだった」と、「お母さんは自分勝手にいろいろなことを私に押しつけた」という、思いつく限りのエピソードを、ランダムに、感情が暴発したように言い続けて、お母さんには「あんたなに言ってんのよ!」や「だって」以外のことを言わせないようにして、言うだけ言って一方的に電話を切ってしまうのです。

あなたのお母さんは、娘のあなたが前から怒っていることを知りません。ただ「バカな娘だから私の言うことが聞けない(時もある)」と思っているだけです。

あなたのお母さんは、自分の都合だけを考えて、娘であるあなたのことなんてなんにも考えていません。

考えているのは、「娘は私に尽くすためだけに存在している」です。そういう考え方をして、なにをどうとち狂ったのか、「私は別に間違ってなんかいやしない」と思い込んでいます。

だから、「それは間違っている。私は被害者で、ずーっといやな思いをし続けて来た」と、一度はっきりおっしゃった方がいいのです。

あなたのお母さんは、専制的な独裁者です。

多分、外面(そとづら)だけはすごくよくて、ご近所の評判は悪くないでしょう。

その分、家族に対して強圧的で、あなたのお父さんを黙らせてしまった後で、弾圧はあなたの方にもっぱら来てしまったのでしょう。

『橋本治のかけこみ人生相談』幻冬舎文庫

どういう根拠があるのか知らず、あなたのお母さんは弟さんのことだけを「有望だ」と思って可愛がって、現在なおも彼をだめにし続けつつあるようです。

その内に弟さんが困った問題を起こして、そのとばっちりがあなたのところに飛んで来る可能性があります。そうならないように、今の内から「お母さんが悪い、私はお母さんが嫌いだ」ということを言っておくようにした方がいいと思います。

それに関しては、実家との距離があることが幸いします。

あなたが一方的に電話で非難しまくり、その電話を切ってしまえば、あなたのお母さんは、「なに言ってんのよ、あの子は?」と思って怒りながら、すぐ忘れてしまいます。

自分に都合の悪いことを長い間自分の頭に入れておくのは、人間にとっていやなことなので、その「ムカつく問題」の解決法として、お母さんは「なかったこと」にして忘れてしまうのです。

それを思い出して、自分から電話を掛けて来るのだったら、「あれは娘のせいじゃない。娘は悪い男に騙されているのだ」と考えてのことですから、その時は「彼は関係ない。私がお母さんを嫌いで、ずーっとそのことを我慢していたから、今はっきり言うのだ」と迎え討って、たとえ同じ話でも「あの時こうだった。それがいやだった。こういうこともあった。それもいやだった」という話を繰り返して下さい。

あなたのお母さんは、「娘の都合や気持ちを考えなかった」とはまったく思っていません。

「私は娘のためによかれと思っていた」としか考えていないので、「娘に嫌われる理由はない」と思っているのですから、「そうじゃない! あなたは娘の気持ちを考えないいやな母親で、それは今も変わっていない」ということを教えるつもりで、何遍も言った方がいいでしょう。

犬のしつけと同じです。

相手は「なに言ってるのよ!」と怒り、時には「なんてひどいことを言うの」と泣き落としにもかかるでしょう。外面のいいお母さんにとって、そんなことは簡単極まりないテクニックです。

魔女の呪いを解くには、「相手の言うことに耳を傾けない」ということが必要です。「そんなこと言ったって、私、騙されないわよ!」と毅然とした態度を取りましょう。

 

こういうことを言うとあなたはショックを受けるかもしれませんが、四十年間、母親の言いなりになり、それを許して来たあなたは、四十年間母親を甘やかし続けたのと同じなのです。

あなたが「なんでも言うことを聞く娘」を演じ続けたおかげで、あなたのお母さんは「この娘はなんでも言うことを聞く娘だ」と思い込んでしまったのです。

気の利いた子供だったら、もっと早い段階で反抗的になって、「悪い親の改善」を図ったりするのですが、あなたはグレることなく、結婚までずっと母親を増長させて来たので、お母さんには自分の加害者性がピンと来ないのです。

近くに住んでいれば反撃もひどくなりますが「JRで五時間」の距離ならその心配もありません。

どうぞ何遍も同じ話を繰り返して、お母さんが「分かった」とは言わぬまでも、黙るまでは続ける必要があるでしょう。

犬よりも理屈を言う分、母親のしつけは大変です。

 

『橋本治のかけこみ人生相談』(幻冬舎文庫)Amazon

関連書籍

橋本治『福沢諭吉の『学問のすゝめ』』

君も賢くなれる、と諭吉は言った――。で結局、何を学ぶのか? いまだにベストセラー!!(当時20万部、岩波文庫71万部) 感動!興奮!泣ける!! 橋本治の熱血講義

橋本治『橋本治のかけこみ人生相談』

母親に逆らわず育ち、帰省が憂鬱と悩む女性に「『お母さんが嫌いだから私は帰らない!』と電話でぶちまけるべき」と対話法を指南。中卒の学歴を子供に言えないと嘆く父親には「語るべきはあなたの人生、そのリアリティです」と感動の後押し。橋本流の謎解きと意外な処方に、生きる気力がわいてくる。壁にぶつかる人生も、たまには悪くないのかも。

{ この記事をシェアする }

橋本治のかけこみ人生相談

「自分はあんまり幸福じゃない病」にかかったら、たまにはバカになるのも手……愛と感動の人生指南。幻冬舎plus人気連載「かけこみ人生相談」が文庫化。

バックナンバー

橋本治

1948年東京生まれ。東京大学文学部国文学科卒業。小説、評論、戯曲、古典の現代語訳、エッセイ等、多彩に活動。『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(小林秀雄賞)、『双調平家物語』(毎日出版文化賞)等、著書・受賞歴多数。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP