最近、私の中高の同級生の話題が、「介護について」になってきた。どの友人も顔を見れば、制服を着ていた姿をすぐに思い出すことができるのに、話題は義理の両親や自分の両親の話だ。

 年取ったお姑さんと一緒に住んでいるJ子ちゃんは、お姑さんが、オムツをしているのに、オムツの内側にさらにトイレットペーパーを畳んで重ねて敷いてしまうので、局部にトイレットペーパーがこびりついてしまい、それを取るのが大変なのだそうだ。そして、お風呂に入ろうとすると、湯船にトイレットペーパーのかけらが浮いているのを見て、げんなりするのだそうだ。

 ある時、お姑さんがトイレに行こうとして、廊下で転び、失禁し、娘が救急車を呼びに行き、夫がお姑さんを後ろから抱え、下半身にバスタオルをかけているその様子は、まさに「絶望」の二文字だったと言う。

 J子ちゃんは、私たちと会うと、「あー、このメンバーでいると、無理して笑わなくてもいいから楽」と言う。まだ親の介護などしたことのない私は、J子ちゃんの話を聞き、介護の生々しさを感じた。

 もう一人、自由が丘の近所に、同級生のY子ちゃんがいる。彼女も小学生の子供が2人いる上に、認知症のお舅さんがいる。そのY子が、「ちょっと、うちにおいでよ」と言うので、出かけて行った。

 門のところで、ピンポンを押しても応答がないので、木戸をガラッと開け、玄関の横のピンポンも連打したが応答がない。何かあったのかと、勝手に玄関の扉を開け、「こんにちはー」と叫んだら、中から「こっちだよ」と低い声がした。玄関の近くのふすまをスッと開けると、電気もつけていない薄暗い畳の部屋で、Y子が二つ折にした座布団を枕にして寝ていた。

 そして、「ミナも寝な」と言われ、座布団を渡された。躊躇していると、今度は枕を渡された。今日は、何も気にしないで寝転がって話そうと言うのだ。Y子とたわいもない話しをしながら、部屋を見回すと、そこはお茶室の作りになっていて、私が尻に敷いている部分は、お茶のときに、お湯を沸かす炉だった。なんとなく申し訳なく思って、尻の位置をずらすと、Y子の足先には、仏壇があって、にっこり笑ったお姑さんの写真があった。

「ちょっと、仏壇に足向けているよ。悪いんじゃない」と言うと、「いいの、いいの。気にしないで」と言われた。私は、仏壇の前で手を合わせ、鐘を鳴らそうとしたら、チーンとやる棒がない。

「ねえ、Yちゃん、仏壇の鐘を鳴らす棒がないんだけど」と言うと、小学生の息子がどこかに持って行けなくなっちゃったから、チーンがしたいなら、口で言ってくれと言われた。

 私は仏壇に向かって、「Y子さんの昔からの友人のミナです。どうぞよろしくお願いします。ちーん」と言ったが、Y子は笑いもせず、ぐったり寝ている。お舅さんの介護疲れだ。その日は、お舅さんがショートステイに行っている日であった。

 Y子は、ケーキを出してくれたり、お寿司をとってくれたり、気を遣ってくれた。そして、食べ終わるとまた横になって話した。Y子は、昔からつらい話や、悲しい話を、面白く話してくれる天才であるが、最後に、小さな声で「私さ、おじいちゃん(お舅さん)の下の世話しているでしょ。男性の局部を平気で触って、オムツとりかえたりしていると、それって、自分は女性としてどうなのかって、時々考えちゃうんだよね」と言ったのが印象的だった。

 私は、「そういうことちゃんとしてあげると、きっとYちゃんには幸せな老後が待っていると思うよ」と、つまらないことしか言ってあげられないのが、歯がゆかった。

 でも、J子ちゃんにもY子にも、娘さんがいる。きっと介護する母親の後ろ姿を見ていると思うのだ。私はどうだろう。子供は産めなかったし、夫は追い出したら、そのままいなくなった。私は、個人の尊厳を守りつつ、穏やかに死ぬことができるだろうか。

 私は、もう結婚はしないと思う。しかし若いときから、周りにいる人が失笑、脱力するような辞世の句を死ぬ間際に詠みたい、と思っていた。それをどうしても誰かに聞いてもらうためには、やはりパートナーは欲しいなと思う52歳の冬なのである。

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