私はかねがね「大リーグの力も落ちたな」と思っていたが、それが今年の日米野球であらためて証明された。

 11月9日から始まった日本代表・侍ジャパンと米大リーグ(MLB)の日米野球は、終わってみれば日本の5勝1敗。日米野球で日本が5勝以上したのは、5勝8敗1分けだった1984年のオリオールズ戦以来で、大リーグ選抜軍相手では初めてのことだ。

 私も巨人の現役時代、多くの日米野球に出場したが、これまでの日米野球に比べると、今回の大リーグ選抜軍は見劣りした。とくに勝敗を左右する投手陣は今季8勝のドジャース・前田健太が最多で、エース級の一流投手はいなかった。

 前田は古巣の広島に錦を飾ったものの、30年ぶり7度目の世界一を逃がしたドジャースのエース・カーショウは来なかったし、5年ぶり9度目のワールドチャンピオン、レッドソックスのエース・プライスの顔もなかった。

 このほか、アストロズの二本柱・バーランダーとコールや、インディアンスの20勝投手・クルーバー、ヤンキースで19勝を挙げたセベリーノ、ナショナルズの18勝・シャーザー、前巨人で今季18勝のマイコラス(カージナルス)、カブスの18勝・レスターなど、日本のファンもよく知っているスーパースターの名前はなかった。

 一方、野手も強肩強打の名捕手・モリーナ(カージナルス)を除いては、ナショナルリーグ新人王のアクーニャJr.(ブレーブス)と同リーグ得票2位のソト(ナショナルズ)程度だった。

スーパースターは日本遠征より休養優先

 日米野球は1931年から本格的に始まった。

 第1回の大リーグ選抜軍はヤンキースの鉄人、ルー・ゲーリッグを看板とするそうそうたるメンバーで、大学や社会人野球の人気選手を集めた全日本軍や、早稲田大学などの学生チームを相手に17戦全勝。ベーブ・ルースが参加した第2回(1934年)以降も、投打のスーパースターをそろえて日本のファンを喜ばせた。

 今年の大リーグ選抜軍に、第一線で活躍している選手が少なかったのには理由がある。

 FA制度で複数年契約の天文学的高額年俸を手にしたスーパースターたちが、「もう金はいらない。シーズンオフはゆっくり休んで家庭サービスだ」と考えているからだ。

誇りを失った大リーグ

 問題は、大リーグの年俸バブルでスーパースターが来なくなっただけではない。今年の日米野球で残念だったのは、大リーグの選手たちが「日本に負けたら恥ずかしい!」というメジャーの誇りを失っていたことだ。

 今回の日米野球を振り返ると、侍ジャパンの5勝のうち3勝は終盤の逆転勝利だった。私の体験では、日本チームがリードすると大リーガーの顔色が変わった。それまではヘラヘラと親善ムードを振りまいていても、リードされると、シッポを踏まれた虎のように「日本に負けたら恥ずかしいぞ」と目を覚ましてボコボコに反撃したものだ。

 ところが今回は、日本にリードや逆転を許すとアメリカベンチがシュンとすることはあっても、「よし、負けるものか!」と反撃に出る空気と気迫がまるでなかった。

 では日本野球は、長年負け続けた大リーグに圧勝するほど強くなったのか。答えはノー。日本が強くなったのではなく、メジャーの力が落ちたということだ。

30球団に拡張したツケ

 当初大リーグはアメリカン・ナショナル両リーグで計16球団だったが、拡張を繰り返し、1998年には計30球団まで増加した。

 FA制度の導入などで年俸が高騰し、年俸総額の上限を設定するサラリーキャップ制の導入をオーナー側が提唱、選手会側の反発による長期ストで観客動員が激減したため、コミッショナー主導で共存共栄のための大規模な構造改革が行われたのだ。このため一時はどん底にあえいでいた球界は再生し、増収増益を続けている。

 しかし私にいわせれば、このリーグ拡張政策の結果、それまで2Aや3Aといったマイナーリーグレベルだった選手がメジャーに組み込まれ、結果として大リーグ全体の技術水準が薄口になった。

 たしかに今回の選抜チームはスーパースターがほとんどいなかった。だがアメリカの敗因はそれだけではなく、メジャー全体のレベル低下を反映しているのではないか。

 そして「メジャーに勝ってやろう」と一丸となってぶつかった日本選手の気力が、誇りを失った大リーグ選抜軍を上回った。それだけのことである。

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